46話「俺の天使と悪魔たち」
「――さて、そろそろ出るか」
それからしばらく雑談していたところで、俺はそう切り出す。楽しい雑談で、時間も食っちゃったし、そろそろ帰らねばならない。
「でもどうやって?」
「ちょっといい案を思いついた」
雑談している最中も、俺はずっとここから出る方法を考えていた。それで少し試したいことが浮かんでいたのだ。もちろんそれで突破できるとは限らない。でもせめて何かここを抜け出すヒントでも見出すことができれば、と思った次第だ。
「ホント!?」
「あっ、言っとくけど確実じゃないから、あんま期待すんなよ?」
俺のその言葉に、
「――まずな。廊下で外側、つまり風景が見えるように立つ。そしてそれが見えるように横歩きをしながら廊下を歩いていくんだ。すると、どこかしらで景色が合わない部分が出てくる。そこがこの廊下の境目ってわけさ」
「あぁーなるほどねぇーでも、そんなことしてもループからは抜け出せないでしょ?」
「まあ、見てろって」
そう言いながら、俺たちは外の風景をよく観察して、横歩きで廊下を右に進んでいく。最初のうちは風景が連続して流れて行き、違和感がなかったのだが、しばらく歩いていくと……
「でた! ここだ!」
「ホントだ、景色がズレてる」
ある地点を境目にして、その左と右で風景がそれぞれ違っていた。なので引いて全体で見てみると、風景があべこべになっておかしなことになっている。間違いない、ここがループの境目となっているわけだ。
「で、どうするの?」
「今現在、俺たちは景色を前として、左から右に移動していた。つまりこの境目の先は廊下の右端となっている。でも窓の外はループの範囲外じゃん? じゃあ、窓の外から右側の方を見たら、どうなると思う?」
「そりゃ、元通りの校舎でしょ。たぶん校舎の角が見えるんじゃない?」
渚の言う通り、そこは外から見れば校舎の端の部分となる。だからそうやって見ると、校舎は角となっている部分が見えてくるはずなのだ。
「だろうな。でもそのループの境目に何かしらのループさせている要因でも見つけられないかなって思ってな――」
そう渚に説明しながら、俺は渚と一緒に窓を開け、外へと乗り出して右の方を確認する。
「みーっけた」
俺の予想通り、そこにはループの原因となりそうな異物が存在していた。俺はそんな風にクールに言ってみるが、その内心ではあまりにもソイツが予想外の存在すぎて、とてつもなく驚いていた。そこにいたのはなんと『ウサギ』だったのだ。だがそれは俺たちが想像する一般的なウサギではなく、半透明で青い目をした、言ってしまえば幽霊みたいな存在がちょうどループの境目の部分の校舎の壁にくっついていた。そして俺がそう言うと、そのウサギが俺たちに気づいたようで、驚いた様子ですぐさま『姿を消して』しまった。まさに文字通り、姿をまるで霧のようになって粒子状にどこかへ消えていってしまった。その次の瞬間――
「うぉわッ!?」
まるで何かが割れるような、そんな大きな音がする。あまりにもそれが唐突だったので、思わずそんな変な声を上げてしまっていた。そしてすぐさまその音のする方を見てみると、なんとそのループの境目がまるでガラスが割れるように破片がポロポロと落ちていくのだ。そして割れた先にはお馴染みの風景が見えてくる。やはり、どうやらループはアイツが原因だったみたいだ。
「すっごーい! 出られたんじゃない!?」
その事実にとても嬉しそうに喜びながらはしゃいでいる渚がいた。一応念のために、俺はループの境目の先に恐る恐る手を入れて、確認してみる。
「うん、大丈夫っぽいね」
だけれど、特に異常は見つからなかった。その先で手が消えてしまうこともなく、正常に自分の手がその先で見えていた。そして再びさっきやったみたいに窓の外の風景を確認しても、ズレてはおらず正常だったので、これでループから抜け出せたのだろう。俺は安堵の息をつきながら、渚と共にすぐにこの階の廊下から出ることにした。またあのウサギが戻ってきて、再度ループさせてしまう可能性もあるし、この場に長居するのはよくないだろう。こうしてようやく俺たちはみんなの待つ元へと向かうことができるようになった。
「――でも何だったんだろうね、あのウサギ……」
みんなの元へと戻る道中、渚がそんな風にさっきの出来事を振り返る。
「まあ信じたくはないけど、たぶんお化けの類かなんかなんだろうなぁー……」
『百聞は一見にしかず』という言葉があるように、俺たちは目でそれを見てしまった。だから信じざるを得ないのだ。確かに実際に起こってしまっているのだから。お化けなんて非科学的な存在が、ホントにいるとは。なんか考え方を改めさせられる現象だった。
「うん、そう……なんだろうね……」
実際の『お化け』という存在を目の当たりにしたからか、渚は恐怖で怯えているような様子だった。いくらあんなウサギみたいに可愛らしい見た目とは言え、やっていることはものすごく迷惑なこと。それに俺たちからすれば、そんな現象は普段生活している上ではものすごく縁遠いそれだ。だからより一層、今日のそれが渚に恐怖を与えてしまったのだろう。
「そ、そんなことよりさ! 早く戻ろうぜ! みんな心配してるだろうし」
そんな渚を励ますかのように、俺はそう言って渚を急かす。そんなに恐れおののいているのなら、渚の精神衛生的にも早く戻ったほうがいいだろう。なので俺たちはさっさと生徒玄関へと
ともあれ肝試しも終わり、解散……となればいいのだが、そうはいかなかった。帰り際に委員長に呼び止められ、『教室のパスワードを戻せ』という命令を下されたのだ。というのも、今回使用した教室のパスワードは『0000』となっており、それを委員長がお昼に変えたらしい。だから今度は同じ委員長の俺の番だと。それにしたって、そもそも俺は委員長がお昼にやっていたなんて初耳だぞ。それなら肝試しやる前からその役割分担は決めておけってんだ。それに誰か手伝ってくれたっていいじゃないか。みんな我先にと帰りやがって、薄情すぎるぞ。
「――うぅー……なぁーぎぃーさぁー!」
何から何まで俺が悪者扱いされ、こんな感じで下に見られ、雑用を押し付けられる。クラスメイトには見放され、俺は心がとても悲しくなっていた。だから俺はまるでイジメられっ子みたいな感じになって、渚に助けを求めていた。
「はいはい、私も手伝うわ。私にも非があるんだし」
そんな俺を受け止めて、まるでお母さんみたいに優しく撫でてくれる渚。そして、そんな天使のような素晴らしいお言葉を
「渚ぁ! ありがとぉー!」
俺はそれに思わず渚の手を握り、何度も何度も上下させる。ホント、渚はいいやつだ。どっかの誰かさんとは大違いだ。俺、渚が女子に人気ある理由がわかってきた気がする。こういうところだと思う。面倒みがよくて、優しい。そりゃ、女の子だって惹かれるわ。
「はいはい、さっさと行こう?」
そんなことを思いながら、俺は渚と2人でパス戻しに出向くことになった。効率を求めるため、2人がそれぞれ分担してパスを戻していく。またしてもどこかの廊下がループするんじゃないかと怖かったが、どうやらどちらも被害はなかったようだ。結局のところ、2人でやったとはいえ、家に帰ったのは午前2時をだいぶ過ぎたころになっていた。渚をこんな遅くまで付き合わせてしまったことに、謝罪と感謝しつつ、互いはそれぞれの家へと帰っていくのだった。これでそのまますぐにベッドで就寝できればよかったのだが……それを阻害する者が玄関にはいた。それは言わずもがな、
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