31話「謎の部屋」

 入った部屋には窓がなく、扉を閉めてしまうとつくし先輩の顔がハッキリと認識できないほど真っ暗だった。とりあえずはこの部屋に息を殺して隠れて、りん先輩をやり過ごすことにした。もし仮にここで電気をつけてしまえば、扉のガラスから明かりがついているのを不審に思われてバレてしまう可能性がある。なので忍者のようにひっそりと忍んで、凛先輩がこの教室を過ぎてどこかへ行ってしまうのを待っていた。


「コラッー!! 待てー!!」


 それからちょっとすると、案の定凛先輩が声が聞こえてくる。そしてそのまま声がまるで救急車のようにこの教室を通り過ぎていく。俺は念には念を入れて、それからもしばらく待って完全に静寂せいじゃくがやって来たところでホッと安堵しつつ、教室の明かりをつける。それで見えてきた教室の内装は、違和感だらけのものであった。普通の教室にしては異常に狭く、おおよそ5帖ぐらいしかなかった。しかも部屋の真ん中に机と椅子、机の上にはノーパソが置いてある以外は何もない、なんとも奇妙で不気味な教室だった。


「あれ……あれっ!? 開かない……」


 こんな薄気味悪い部屋はさっさと出ようと、俺は教室の扉を開けようとするが、どういうわけか全く開く気配がない。しかも扉の近くには、普通の教室にあるはずのパスワード入力装置がなかったのだ。どうやらいつかの体育館倉庫の時かと同じように、俺とつくし先輩はこの部屋に閉じ込められてしまったようだ。だが今回は運が悪いことに、パスワード入力ができない。つまりは俺の幸運で抜け出す、ということもできないのだ。机の上にあるパソコンはあからさまな罠でありそうだが、ここで頼れそうなものはそれだけ。仕方がないので、俺はパソコンに助けを求めることにした。まずパソコンを立ち上げると、デスクトップにはごみ箱と『Key』というアイコンしかなかった。とりあえず何も考えずにそのアイコンを開いてみる。すると、アプリが画面中央に現れ、『これから出す問題に全て正解すると、扉が開きます』という文字が画面に現れる。それを受け、俺はパソコンから伸びているコードを目で追っていく。すると、ちょうどその先に扉と繋がっているものがあった。つまり、これを全問正解しなければ出られないというわけか。


「なにこれ?」


 つくし先輩も画面に表示された文字を見て、怪訝けげんそうな顔をしてそう言った。


「たぶん、これをクリアすれば扉が開くんでしょう」


 そう言ってつくし先輩に説明していると、アプリが勝手に進行してしまい、どうやら問題が始まってしまったようだ。




 第1問目『A D G Jこれらはある法則で並んでいる。ではJの次は?』




「うわ、全然わかんないや」


「先輩、これ簡単ですよ」


 1問目初っ端から先輩は難しそうな顔をしていた。一方で、俺はそう言いながら、そのアプリの記入欄に『M』と打ちエンターを押す。すると、俺の予想通りだったようで、正解のエフェクトが流れる。


「すごーいー!! れんくんなんで分かるの!?」


 先輩は目を見開き、ちょっと興奮気味で訊いてくる。


「これは、順番が分かると簡単なんですよ。ほら、アルファベットでAが1番目でしょ? そしてそこからDが4番目、Gが7番目そしてJが10番目で全て3つずつ増えてるから、次は13番目のMなんですよ」


「へぇーすごいねぇー!」


「たいしたことないですって、次いきましょ」


 普段からめ慣れていない俺は、なんかこそばゆい気持ちにられる。先輩から目をらし、画面の方を見つめる。すると、画面には次の問題が既に現れていた。



 第2問目『765876×961346は?』



「うわー、イジワルな問題だねぇー……」


 1問目の内容から俺はてっきりちょっとした謎解きのような問題が続いていくのかと思ったら、続く2問目はつくし先輩の言う通りの正解させる気のない、面倒な問題であった。この問題の作成者はおそらく相当性格が悪いとみえる。普通こんな問題出すだろうか。何の公式も利用できないただの意味のない計算だし。


「うーん……でいくか」


 いちいち筆算ひっさんとかを使って計算するのが面倒で仕方がないでを利用して適当に打っていくことにした。


『736271829096』


 ポンと頭に浮かんできた適当な数字を入力していき、これぐらいだろうと思った桁数でエンターキーを押す。


「すっごーい!! 煉くんスゴイねー!!」


 ――そして答えは予想通りというか、予想外にもというか、俺の入力した数字で正解であった。やはりこれすらも幸運体質で突破できしてしまうようだ。だけれど、そうなってしまうとこの間なぎさに語った確率云々の話がまるで説得力がなくなってしまった。この計算の答えを一発で当てる確率となれば、前回のパスワードを当てる確率よりも遥かに低く、天文学的なレベルだろう。


「たまたますっよ、この調子でサクサク行けるといいんすけどねー」


 たまたまで済む問題ではないが、とりあえずそういうことにしておく。とりあえずこれで2問目はクリア。3問目以降はもうこんなクソ問題はあってほしくないな、と願いつつ3問目にのぞむ。



 第3問目『MVEMJ○UN――JとUの間にはいる文字は?』



「また、こんな感じの問題か」


 さっきの2問目は何だったのかと言いたいほど、また1問目のような問題が再来した。俺はすぐさまその答えを理解し、さっさと『S』と入力した。答えは当然のように正解。分かってしまえば簡単だ。


「煉くん早いよぉー! まだ考えてたのに……でもなんでSなの?」


 俺が1人で勝手に進めているスピードにつくし先輩は追いついていないようで、そんな文句を可愛らしく怒ってくる。


「つくし先輩、惑星の名前を全部太陽から外側へ順に言えます?」


「うん、水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星の順でしょ?」


「ええ、それを英語にするとMercury、Venus、Earth、Mars、Jupiter、Saturn、Uranus、Neptuneですよね。それの頭文字をとればもうわかりますよね?」


 俺はそう解説しながら、わかりやすいようにこの教室に置いてあった紙とペンで惑星の英語名を書いていく。見てすぐに分かるように頭文字を大文字にして。


「あっ!! 頭文字が問題のMVEMJSUNになってる!!」


「そう、だから木星と天王星の間に入る。土星の英語訳の頭文字『S』が入るんです」


「へぇー、すごいね煉くん」


「や、全然すごくないですよーほら、もう次の問題が出てますよ」




第4問目『V=23,Cn=112, U=92, Ir=77,La=57 これらにはある規則がある。ではAuに値する数字は?』




「んー、若干難しいなー……」


 これは純粋な記憶力の問題。その数字を覚えているかどうかということが求められる。俺は自分の記憶を辿りながら、その答えを探していく。


「えー、全然分からないよぉー」


 対してつくし先輩は可愛くうなりながら、またしても難しい顔をしている。たしかつくし先輩は文系だったはずだから、こういう問題は不得意かもしれない。たとえこの規則が分かったとしても、答えまでには結びつかないだろう。


「ま、これは結構マニアックな問題ですからね」


 俺はそんなことを言いながら『79』を記入した。答えはなんとか正解だった。まあ、原子記号と原子番号を暗記しているヤツなんてそうはいない。俺だってこの中でわかるのはバナジウム、ウラン、イリジウムと、答えの金ぐらいだ。言ってしまえば、またしても運勝ちみたいなもだった。それからいつものようにつくし先輩に解説をしたのだが、化学には興味がないのか『ふーん』と興味なさげに俺のそれを聞いていた。


「でも、すごいね煉くん。なんでこんなに詳しいの?」


「まあ、割と科学は好きですからね」


「ふーん、そんなんだ」


 そんなことを話してるうちに、次の問題が既に出ていた。このゲーム随分と長いな、と思いながらもその問題の文章を読み始める。というかこれ、時間とられてクリパを見回る役目が果たせてないんだが、大丈夫なんだろうか。そしてこれが終わったからといって、果たして本当に俺たちは出られるのだろうか。そんな不安がよぎる中、俺は次の問題にとりかかった。

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