27話「家族の時間」
いつもなら必ず間に合っていたが、今回はそうはいかなかった。かなりの大遅刻をしてしまったようだ。これも主にアイツのせいだ。後で
「ゴメン、明日美! 遅れた!」
俺は着いたと同時に、直角程度に頭を下げ、謝罪をする。
「おそーい!」
生徒会の面々が声を揃えてそう言った。みんな待たせてしまったからか、どこか不機嫌そうだった。
「でも
「やー、それが
「ふーん、一緒に連れて来ればよかったのに、歓迎するよ?」
「煉くんは私たちだけと一緒に帰りたかったんだよね!」
横から凛先輩はいつものからかうみたいに、ちょっとわざとらしくそう言ってくる。ただし今回ばかりはそれがだいたいあっている。
「まー一理ありますけど……」
でも、やはり本音を言うのはちょっと照れる。明日美だけならまだしも、凛先輩やつくし先輩も一緒だから余計に。
「えっ!? どういうこと!?」
凛先輩は思わぬ言葉に、とても驚きつつ、目をキラキラさせながらちょっと嬉しそうな顔をしている。
「や、ほら、最近、明日美とすれ違う事多かったから、一緒の時間がほしいなーって」
「えぇー、私たちはー?」
「もちろん、凛先輩もつくし先輩も同じですよ」
「へへ、嬉しいな。ご褒美に手繋いであげる」
凛先輩は嬉し恥ずかしそうに、俺の手を握ってきた。
「えっ、いいっすよ。恥ずかしいですしー……」
「煉くんに拒否権ないからねっ!」
そう言って凛先輩はいつものように右腕を組んで来た。これは『手を繋ぐ』ではなく、『腕を組む』になってるけど、言及するだけムダか。そんなことを考えてると、次の瞬間、左手に温もりを感じた。それにビクッと驚き、思わずその方向へと目をやると、その犯人はなんと明日美だった。
「遅かった罰として、手……繋ぐ……」
明日美も恥ずかしそうにしながら、なぜか俺の手を握っていた。しかもこれ、恋人繋ぎ……ですよね?
「ちょっと!? つくし先輩ー! 何か言ってやってくださいよ!」
明日美にまでそんなことをされてしまっては、どうしようもない。完全に包囲されしまった。しかも罰という名目だ。俺は何も言えない。だから生徒会3人の唯一の良心、つくし先輩に助け舟を出してもらう。
「ふふ、ま、しょうがないんじゃない?」
まさかまさかの唯一の良心すら、俺を見放す事態に。軽く笑いながら、それを肯定してしまう。もうこうなってしまったら、このまま行くしかなくなる。
「えー、マジで……」
「ほーら、いこっ?」
凛先輩はそう言って、俺を無理矢理に引っ張っていった。当然、それにつられて俺も歩かざるを得ない。しかも俺は両手が塞がれているので、抵抗が全くできない。右腕に凛先輩、左に恋人繋ぎ状態の明日美、そして俺の後ろを歩くつくし先輩。俺は生徒会の3人に完全に包囲された状態で下校することとなってしまった。そういう状態で歩いていると、まあ周りから視線を集めることこの上ない。しかも生徒会3人は有名人なので、それも余計に集めてしまう要因の1つだろう。そしてその視線の中で、特に野郎共の目線がまあ冷たいこと冷たいこと。この瞬間、改めて俺は修二の言葉が心に響いた。たしかにこれではああ思われてもしょうがないかも。俺がした弁明も全く説得力がなくなってしまった。それからこの状態で、普通に雑談しながらいつもの並木道に着き、ようやく解放となることに。その際の、凛先輩の名残惜しそうな顔といったら言うまでもない。まるでつくし先輩が親に見えるほど、それをなだめている光景が子供っぽかった。そしてようやく先輩方と別れ、いよいよ
「……ねぇ、いつまで手繋いでんの?」
別れた後もなお、明日美は相変わらず手を繋いだままだったので、俺は流石にツッコむことにした。
「ん? 家帰るまでずっと」
さも当たり前のように、そう言ってくる姉。さっきのわけわからない状況よりも、こっちの方がなにかとリアルでヤバイ気がするんだが。俺たちを知らない者からすれば、ただの男女のカップルに見えるわけだし、知っている者からすれば、『
「なんで?」
「罰、言ったじゃん」
「や、でもさなんでこんな罰にしたの? 明日美だったらもっと違う罰を与えると思ってたんだけど」
「いつもならね、でも煉がああ言ってくれたのが嬉しかったんだ、だから」
「え?」
「ここ最近、生徒会でずっとすれ違ってたでしょ? 私、ちょっと寂しくなってたんだ」
「そう……だったんだ……」
恥ずかしくて言わなかったが、実は俺もちょっと思っていた。やっぱり1人きりで登校や、食事をしていると、明日美のことを思い出してしまう。一緒の家で暮らしているのに、殆ど会えないんだから。俺たちはまるで、同じ家に住む他人同士みたいになっていたから。
「そしてね、煉がああ言ってね、嬉しいと同時にあることを思い出したんだ」
「あること?」
「うん、小学校のときいっつも手を繋いで行ってたなって懐かしくなったんだ」
「あー、そういやそんなこともあったなー」
そういえば、小学校高学年になっても手を繋いで登下校してたっけ。それで思い出したけど、明日美が聖皇付属に入った時も今みたいなことを思ってたっけな。途中までは一緒だけど、それ以降は別々だから、1人きりになる瞬間が妙に寂しかったっけ。あの頃はまだまだガキで、『お姉ちゃんに毒されただけだ』って思ってたけど、当たり前だったことが当たり前じゃなくなると、やっぱ寂しくなるんだろうな。
「うん、あとさ……今日生徒会サボっちゃったんだよねー」
「は? はぁ!? サボったの?」
その姉の爆弾発言に、俺は二段階で驚いていた。そんなことしていいのだろうか、生徒会長さん。しかもクリパ前のこの時期にだよ?
「ま、正確には今日の仕事をなしにしたの」
「それ、かなりマズイんじゃ……」
「大丈夫、もう殆ど仕事は終わってるし、明日の朝で終わらせられるから。そにれ煉とこうして帰れて、元気出たから!」
「そっか、じゃあがんばって!」
「うん、がんばる!!」
明日美だっていくら自分が選んだ道だからといっても、その忙しさに負けてしまう時だってあるに決まってる。そういう時はやはり俺が助けてやるべきなのではないだろうか。家族として、弟として。
「――なあ、明日美。1つ訊きたいことがあるんだけど」
それからふとあの事を思い出し、明日美に訊いてみることにした。
「なに?」
「今日、なんで弁当作んなかったの? 寝坊じゃないんでしょ、理由」
「あー、それはね、
明日美が言うには、渚は明日美に今日の俺の弁当を作らないように頼んだらしい。なので、明日美は普通に弁当を持っていったらしい。その理由はやはり、渚が昼に弁当を振る舞うための口実だったのだ。そして、俺が出る時間も明日美がこっそりと教えていたらしい。ただそれがぴったし当たったのはある意味奇跡だろう。俺の気分次第で登校時間なんて変わるし、そもそも寝坊したらムリだろう。そして
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