21話「学園のアイドル」
12月21日(火)
今日は空に雲が立ち込め、いかにも寒そうな天気だった。ただでさえ部屋の中でも寒いというのに、外気に
「そろそろ、起きないとまずいな……」
この時期は布団から出るのが辛い。
「よっ、
俺は早足で彼女に追いつき、軽く肩をたたいて挨拶をする。
「あっ、おはよー、
「たしかに、そうだな」
確かこの間はもう既に汐月が教室にいたから、通学途中で会うのは珍しい。たぶん汐月は1番に教室にいるタイプだろうし。
「どうしたの? 昨日が遅刻ギリギリだったから?」
「いや、前のときと同じだよ」
「ふーん、そうなんだ。じゃあ昨日は?」
「あー昨日はマジで寝坊して……」
主にどこかの偉い先輩のせいなんだけど、ってこの話をぶり返すのはよくないか。もう過ぎた話だし、今更グチグチ言うのは委員長だけで十分だ。
「ふふ、へぇー」
「なにがおもしろいんだよー大変だったんだぞー?」
「ううん、別にぃー? そうだ煉くん一緒に行こうよ!」
「ああ、いいよ」
今日の汐月は心なしか、楽しそうな感じがした。いつもは物静かでおとなしいタイプだから、意外な一面というやつだろうか。それにしてもこんな早い時間でも割りと周りに
「そういやさ、汐月はクリパ最終日のミスコンにはでるの?」
なんとなくそんな話題を汐月にふってみる。ミスコンの開催日は自由参加だから、俺はまず行ったことがないのでよく知らないのだが、『学園のアイドル』なんて評される汐月なら出ててもおかしくはないと思った次第だ。
「えっ……ううん、でない……よ……」
まるでそれが禁句だったかのように、汐月はそれを否定して黙り込んでしまった。よくよく考えればそうか。汐月本人の性格は目立ちたくないタイプだ。だから、こういう目立つイベントに自らの意思で参加するような人じゃないか。誘われていたとしても、前の告白の時みたいに断るか。断れない性格じゃないんだし。失言をしてしまった罪悪感に
「あっ、そうだ。クリパの方はどうなってんの?」
俺は土曜日は行ったには行ったが、結局色々とあって殆ど状況を知らないため、どれくらい進んでいるのか興味があった。
「あー! あの日はちょー大変だったんだからー!!」
汐月は思い出したように、急に怒り顔になってそう言った。
「は? なんで?」
「だって
ああーやっぱり委員長が俺についてきたのが
「やー悪かった。間に合いそうなの?」
「残らないと厳しいかも……?」
汐月はちょっと深刻そうにそう言った。その様子だと、結構状況は最悪のようだ。残りあと2日か。はたして間に合うのか、それとも妥協するのか。どうなるのだろうか。
「マジかー」
「うん……まだセット完成してないし……」
「はぁーだるいなぁー」
「ま、がんばろうよ!!」
「そうだな、まだあと2日あるしな」
まあネガティブに考えてもしょうがない。あと2日もあると考えてやれることをやるだけだろう。それから俺たちはクリパの話に花を咲かせていると、前方からあきらかに俺たちのことを見てこちらへと向かってくる男子がいた。まず俺に用件はないだろうから、汐月の方だろう。また告白か、などと思いながら俺はそいつを
「――汐月さん、ミスコンの件は考えてくれましたか?」
そしてその男子生徒がこちらへとやってきて、そんなことを言ったのだ。まさか再びこいつが禁句を言っちまいやがった。ミスコンってたしか生徒会が主催していたから、こいつもその生徒会の役員なのだろう。おそらくミスコンの担当の方って感じか。そして思ってたとおり、汐月はミスコン出場を勧誘されていたようだ。これでなんとなくわかった。汐月がミスコンに対して、あまりいい顔をしないのが。
「だから、出ませんって言ってるじゃないですか!」
汐月の方も、もううんざりした顔でその誘いを断った。この口調からもわかるように、おそらく相当数言われているんだろう。下手すれば、毎年毎年この時期には言われてたりして。ホントそうなると、さっきの心無い俺の発言が悔やまれる。それと同時に、そのしつこい男子生徒にもちょっと怒りを覚え始める。
「やはり、そうきますか……まあ、無理強いはしませんが残念です……」
その生徒会役員はとても残念そうにしながら、うなだれている。でもなんとなくだが、俺にはそいつが諦めているようには思えなかった。スキあらば、絶対につけこんでやる、みたいな意思がコイツからは感じられた。それに俺はムカつき、この場をどうにかしようと考える。
「汐月! ほら、早く行こうぜ!」
だから俺は迷惑そうにしている汐月の手を掴んで、その男子生徒から一緒に走って逃げることにした。逃げるが勝ちだ。これでも追ってくるなら明日美に言いつけてやる。
「えっ! あっ、ちょっと煉くん!」
不意に手を掴まれたせいか、汐月はコケそうになりながら必死に俺について来た。俺の予想に反して、男子生徒は追いかけてくるようなマネはしなかった。しばらく走り、その男子生徒が見えなくなったとこで、足を止める。
「――大丈夫か?」
それほどの距離でもないのに、息をあげている汐月。
「急に走ったからビックリしちゃったじゃん!!」
呼吸を整えた後、いつもの調子で、そんなふうに言ってくる。
「悪い、あまりにも迷惑そうにしてたからさ」
「ありがとう、優しいね、煉くんは」
「や、そんなことないと思うけど……」
「ううん、優しいよ煉くんは…… 」
そう言うと、汐月は一人で歩き始めて行ってしまった。追いかける、というのもなんかあれなので、俺は1人で教室へ向かうことした。どうせ、すぐにまた再会することになるし、いいだろう。
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