第二章「嫉妬の荒魂」

第10話 夢幻の中で

 海斗は暗闇の中にいた。自分の意識はあるけれど体がぼんやりとした感覚。

 ああ、夢かと海斗がその結論に至るのに、時間はそれほどかからなかった。


「待って!」


 叫び声が聞こえた。それは聞き覚えのある声だった。


「嫌、これで離れ離れなんて嫌!」


 知らない女の子の後ろ姿だった。その子は髪をポニーテールでまとめていても、まだその長さは背中まで届くほどに長い。その背丈や声から判断するに海斗とほぼ同年代だろうか。


「……ミサキ?」


 その声はミサキのものだった。だが、呼び掛けてみても海斗の声は彼女に聞こえない。自分のいる場所と彼女のいる場所は別の空間らしい。


「……守っ……くれ」


 また、誰かの声が聞こえた。それはミサキに向けられたものだった。


「お前…しか……」


 それは、途切れ途切れの男性の声だった。今にもその声が消えてゆきそうだった。


「……み……を……守るんだ」

「待って!」


 ミサキが手を伸ばす。


「あなたならできる――お願いね」


 優しい、女性の声が聞こえた。そう思った瞬間、ミサキの見つめている方から強い光が放たれる。


「――――っ!」


 ミサキが何かを叫んでいるが聞こえない。その体が光の中に溶けていく。


『絶対に諦めない』


 強い決意が伝わって来る。体を失ったミサキの、心の声だけが海斗に聞こえて来る。

 これが、うつつのことなのか、夢幻ゆめまぼろしの産物なのか、それは海斗にはわからない。だが、これがただの夢ではない。海斗にはそんな不思議な確信があった。


『私が守る……守ってみせる』


 彼女が海斗を守ろうとしていたこと。美波たちを守ろうとしていたこと。そこにどんな意味があるのかはまだわからない。でも、これだけは確かだと海斗は思う。


『必ず、みんなを守るんだから!』


 彼女の、ミサキのその思いだけは本物なのだと。

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