羅針儀の姫は囚われ続ける
ぴるるるる。今日は明日へ、明日は今日へ。
機械仕掛けのこまどりが0時を告げる。
『メリー・クリスマス! 親愛なる記憶の君へ
暖炉の前を離れて、まずは書斎を見てくれたまえ。
机の真後ろの棚、金色の機械鴉が最後のプレゼントを銜えている』
恒例の鏡文字の手紙。偉大なる魔法使いにしてぼくの遊び相手ロシエからの贈りものは、今回で最後らしい。
うーふ、残念だけど、仕方がないね。飽きっぽいロシエが付き合ってくれたのに感謝しなくちゃ。
ぼくは首をふりふり、書斎へ向かう。暖炉の前を離れて、一歩踏み出すだけで、壁の向こうへ。扉のない塔の内を転送される。
机の真後ろの棚で待ち構えていた金色の機械鴉が、うるさく翼を振って、ココダココダとぼくに主張した。
やあ金色鴉さん、君は何を銜えてるの? ロシエが預けたプレゼントは何なのかな?
吐き出されたのはうずらほどの紅玉。魔法の火を閉じ込めた滅びた王国の結晶。銀色の火がぼくを貫く。紅玉に命を吹き込まれて、ぼくの中で眠っていた青い月が、
金色の鴉が狂ったみたいに叫んだ。ぐるり、片足を上げて廻り、まっさかさまに床へ落ちてバラバラに砕け散る。歪な歯車と
カタンタタンカタタン。
* * *
ぼくは扉のない塔の部屋で、ひとりきり機に向かい、タピストリーを織っている。窓の外にはずっと形の変わらない青い月。いつからだろうか、記憶は無い。覚えていないほど長い間、昼となく夜となく、ぼくはここで、青い月を扉に夢を渡る白銀蝶たちの羽から記憶を受け取っては、タピストリーを織り、蝶たちを放ちつづけている。
ぼくが金の
機械仕掛けの金の鴉は、産み落とした紅玉に最後の魔法の火と王国の民の命を封じた。紅玉は燃える、命を糧に。愛と哀を見つめることを宿命づけられた記憶の姫のために、記録すべき全てを照らし続ける。
ぼくは知っている。ぼくの名はイルスレーン。生まれくるあらゆる
クリスマスの夜に、ただ一人、
ぼくは歌う、記憶の破片、ぼくが見つづける
永遠の繰り返しの部屋で、ぼくは
* * *
カタリ。小さな音を立てて、標本箱が泣くように閉じた。
ぴるるるる。今日は明日へ、昨日は今日へ。
機械仕掛けのこまどりが、0時を告げる……。
白銀蝶 若生竜夜 @kusfune
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。