第45話《コクーン・2》

VARIATIONS*さくら*45(さつき編)

《コクーン・2》




 さくらの言うことは正しかった。


「いつ決めたの?」


 お母さんは眉を寄せる。分かってるよ、その眉間には万感の思いがこもっている。単に一カ月前と答えたのはバカなことだった。お母さんやお父さん、そして、妹のさくらが……いや、言いたかったのは、こうだ。


「どうして、相談してくれないのか」


 この一言につきる。あたしは何かにつけて自分で決めてきた。進学先もアルバイトも、小さな事ではディズニーランドに行ったとき、どのアトラクションに行くか、外食のメニューにいたるまで自分で決めてきたし、家族も、それで良しとしてきた。


 でも、それは佐倉家というコクーンの中で許容されてきた自由選択権である。


「お父さん言ってたよ。さつきは惣一に似てきたな……って」


 兄が防衛大学に入りたい。いや入ることに決めたと言ったときも、あたしを含め家族のみんなが戸惑った。

 お父さんもお母さんも、これからの自衛隊は、実戦行動になる恐れが大きいと思っている。だから当惑の末に「反対だ」と、静かに言った。でもアニキは自分を通した。


――コクーンを出ます――


 メモに一言残して、防衛大学に行ってしまった。

 あたしは、フランスに留学することが防大に入るほど大きな方針転換では無いと思っていた。だから相談もしなかった。

 さくらが部屋に入ってきて、そう言ったときも、最初は反発した。


「お父さんもお母さんも、気弱になってきてるのよ」


 あたしは、さくらが女優兼業の高校生になってしまったことで、両親は辛抱というか堪忍袋のキャパが一杯になったんだと思った。でも、それはかろうじて言わなかった。言えば壮絶な姉妹ゲンカになってしまっただろうし、余計に両親の心を煩わせることになるから。


「分かった、もっかい話してくるよ」

「説得じゃだめだよ」

「さくらに言われたかないわよ」


 妹は一瞬ムッとしたが、突っかかってはこなかった。さくらも成長しているんだ。そう感じながら、再びリビングに足を運んだ。


 そして、結果として、あたしはエールフランスのビジネスシートに収まっている。


 エコノミーで十分だと思ったんだけど、お父さんが「せめて、ビジネスシートにしろ」と、その分の費用を出してくれた。

「帰ってくるときは、自費でファーストクラスでね」

 お母さんのジョ-クはきつかったなあと苦笑する。


「やあ、さつきさんじゃないですか!?」


 隣の席から声がかかった。


 なんと陸自のレオタード君がシート脇の通路に立ってニコニコしていた!

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