熱い花

作者 舟鷹

5

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★★ Very Good!!

物語の内容や描写される事物において、似た作品を挙げるなら私はその狭い経験の中で、ソポクレス『アンティゴネ』を選ぶ。
『熱い花』はそれと同様、俗世の正義に囚われない道徳律を持った人間の悲劇であり、読者に、人道の追求を試みた経験が在るならば、本作は多大な共感でもって読み進められるだろう。強力な(あえて俯瞰をしないなら)悪に立ち向かう善人には、勝利の像が見出せない。しかしそれ故に感動があるし、善人が自身の善を疑う事も当然の事であり、”わかる”のである。理解ではなく共感を誘う本作は、その点、高度な普遍性を備えた文学作品であると私は言いたい。

私が本作を嚢中の錐と言う理由は他にも在る。本作の描写は、それが新たな出会いであるにもかかわらず、”わかる”。まったくもって日常的か、もしくは当たり前の事物が描かれている。しかし本作は、それらの新たしい見方を提供する。そしてそれら描写は、その非凡さゆえに眼を引き、より深い理解を読者に誘っているように思う。

ここでは、と言うより、一度通読した時点では未だ汲み尽くし得ない内容を持つ作品であると見える。