狂おしい程の想いは正しいのに、それぞれの愛し方は哀しいほどに間違ってる

 親愛なる母が、その日、目覚めなかった。
 まだ幼かった主人公は、ただ目覚めないだけだと思っていた。おはようのキスで、目覚めてくれると思っていた。この時は、目の前の『死』が理解できていなかった。

 母が眠る棺の中に、父とともに、母が大好きだったミモザの花を供えた。母の死が実感となって襲ってきた。
 主人公にとって、唯一の母がいなくなった瞬間だった。
 それは、父にとっても同じ想いだった。唯一愛した女性がいなくなった……と。

 時は流れ……。
 未だに生涯愛した女性は彼女だけ……だと、独り身を貫いてきた父が、再婚することになった。連れてきた女性に愕然とする主人公。
 何故なら、亡くなった母によく似ていたから……。
 そして、父にとっても同じ想いだった。唯一愛した女性とよく似ていたから……と。
 更に、新たな母も、ミモザの花は大好きなのだと……。

 それぞれが、唯一の女性を思い続けることは、素敵なことなのだろう。
 でも、この物語では、それが幸せに繋がっていかない。いつかは破綻することがわかっている愛情は、愛とは呼ばない。

 それは、この物語を読めば理解できる……と思う。
 バッドエンドではない。でも、ハッピーエンドにもなり得ない、そんな不思議な物語である。