第2話~初任務と絶望と約束~
入局してから1か月後。毎日少しずつ魔法や法律の勉強をして、少しは二人の役に立てそうになって来た。フウくんに教えてもらいながら訓練をしていくうちに、私は回復と後方支援が得意ということが分かった。
「はい、今日はここまで。」
「ありがとうございました!」
この日もフウくんと一緒に特訓をしていた。
「はい、お疲れ様。サクラ、結構魔導を使えるようになってきたね。呑み込みも早いし、これなら一緒に任務に出てもらう日も近いかも。」
「ほ、ほんと?役に立てるならうれしいな。」
フウくんからの言葉に嬉しくなる。昔から、あんまり褒められたことがないし、何よりフウくんにそう言ってもらえて素直にうれしいんだ。
「じゃあ、同じ任務の時はよろしくね。多分、基本的に同じにしてくれるはずだから。」
「うん、こちらこそよろしくね!」
「うん。…それじゃ、シャワー浴びて着替えてきて。実は今日、本部長から教えるように言われてる仕事があるんだ。ロビーで待ってるから。」
「はーい!」
そして自分に部屋に行く。
この魔導士専門管理局は局員それぞれに個室があってその中にはシャワールーム、ベッド、簡単なキッチンが備え付けられてる。ただ、お風呂だけは大浴場に行かなきゃいけないし、食事も、キッチンで自分で作る以外にも食堂がある。とりあえず必要最低限の設備は部屋に行けば大丈夫になってるところが普通にすごい。
ちなみに男女で場所も離れてるけど、私の場合は敵に狙われてることとかもあってフウくんたちと一緒に特別棟を使ってる。
「おまたせ!」
着替えを済ませてロビーに行くとフウくんが既に待ってた。
「ううん、今来たところだよ。それじゃ、行こうか。」
そう言って連れてこられたのはパソコンがいっぱいある部屋。事務仕事をしてる人が多いみたい。
「今日はここで報告書の作り方を教えるね。これさえできれば任務に行くけるようになるよ。」
「ほんと?じゃあ、早く覚えなきゃね!」
「よし、じゃあ、さっそく始めていくね!」
「はい、よろしくお願いします!!」
そんな感じで始まったのに結構難しい…。パソコンなんてそもそも名前しか知らないし、使ったこともないよ。
一通り説明が終わったころには1時間くらい経ってた。
「うん、とりあえずこんな感じでいいね。」
「うう、これ難しいよ…。」
「ははは、俺も最初は難しかったよ。まあ、慣れるのが一番大事かな。」
「う、うん、頑張るよ!!」
「よしよし、その意気だよ。」
そう言ってフウくんは頭を撫でてくれた。えへへ、嬉しいな。
「あ、そろそろ夕飯の時間だね。今日はこれくらいにして休もうか。」
「ほんとだ、早いね。そう思うとお腹空いてきたよ。」
「あはは!じゃあ夕飯食べに行こっか!」
そして今日の勉強おしまい。いつもフウくんがこんな感じで無理がないように終わりにしてくれる。だから私も無理なく続けられてるんだよね。
「今日の定食なんだろうね?」
「なんだろう、楽しみだな~。」
そんな話をしてると急に私たちの携帯が鳴った。
「あれ?本部長からだ。サクラも?」
「うん。どうしたんだろう?」
「う~ん、とりあえず俺が出るよ。サクラは切っちゃっていいと思う。」
「う、うん。」
そう言いながらフウくんが電話に出る。私にも聞こえるようにスピーカーにしてくれた。
「お疲れ様です、本部長。サクラは俺のすぐそばにいるので通話を切るように言いました。どうかされましたか?」
『ん、お疲れ。そうだと思っていたよ。ちょっと二人…いや、アスカも加えた三人に任務をお願いしたいんだ。私の部屋まで来てくれるかい?』
「はい、分かりました。今行きます。」
そう言って電話を切ったフウくんは少し残念そうだった。
「ごはん、ちょっとの間お預けだね。」
「ふふ、そうだね。早く終わるかな?」
そんなことを言いながら、私たちは本部長室に向かった。
「あ~あ、せっかくの夕飯が、まさかパンになるとは思わなかった!!」
「仕方ないじゃん、いきなり任務が入ったんだし、文句言わないでよ。」
フウくん達がそんなことを言ってる中、私はいまだに状況が理解できてなかった。
本部長室に呼び出されて頼まれた任務は張り込み部隊との交代だった。このタイミングということでフウくん達も戸惑っていたけれど、本部長に「君たちにしか頼めないんだ」と言われたらやるしかないよね。
「しかし、本部長もなんで私たちにこの任務をまかせたんだろ?」
「さあ?とりあえず、あそこを見張るしかないよね…ん?」
「フウくん?何かあった?」
そう言いながらフウくんの見ている先を見るとそこには見慣れない、なのにどこかで会ったような気がする、そんな人がいた。
「あれ、まさか…!?」
「うそ、だろ…?」
アスカちゃんとフウくんが驚いてる中、私はやっぱりついていけない。あの人、誰なんだろう?
「カエデ…?」
「え?」
アスカちゃんから聞こえたその名前は、私たちが追い求めてる人の名前だった。
「カエデって…ウソ…。」
「へ~?ここ、ばれちゃったんだ。」
その声に皆で振り返るとあの日の男の人…ベルゼブル・マルベイが立っていた。
「貴様…!」
フウくんは私たちをかばうように前に立った。
「安心しな、君に用はないよ。用事があるのはそこのお姫様だけ。他は帰ってもらって構わない。」
「誰が!」
そう言ってフウくんは剣を構える。
「あ、サクラにアスカもいるね!久しぶりじゃん!」
そんな風に親しげに出てきたのは一緒にいた女の人。その人が出てきてすぐに、アスカちゃんも前に出た。
「あんたねえ、気安く呼ばないでよ。今すごい気が立ってるんだから!」
二人とも臨戦態勢に入って、私も弓を出した。ご先祖様の力が秘められた弓。まだ使いこなせるか分からないけど、私だって戦える。
「ほう?お姫様も戦う気?」
マルベイさんは楽しそうにそう言った。
「なら、こいつの出番だね。…カエデ、出番だ。この子を捕らえるんだ。」
そう言った直後、さっきの男の人が出てきた。
「…カエデ…。」
ちゃんと正面から見ると、その人はやっぱりカエデだった。なんで、カエデがこの人たちのそばに。
「・・・。」
カエデは無言で武器を構えた。それはベスト王国の王家に伝わってた大きな剣。その剣を持てるのは、私の知る限り昔の私の兄であり、王位継承者であるカエデ・フルールだけのはず。ということは、この人は正真正銘、カエデなんだ。
「む、無理、だよ…。」
そう言って私は首を振った。
私だって、戦えるはず。でも、カエデと戦うことになるなんて思ってもみなかった。
どうしたらいいのか分からない。手が震えて、弓が構えられない。足が震えて、立っていられず、私はその場に座り込んだ。自分のじゃないみたいに、体が言うことを聞かない。カエデが剣を振りかぶって私を攻撃しようとする。頭では逃げなきゃいけないって分かってるのに、体がついていかない。
「サクラ!!」
声と同時に受けた衝撃は、決して攻撃されたものじゃなかった。
「大丈夫、動ける!?」
至近距離からそう聞かれて首を振る。カエデの攻撃から守ってくれたフウくんに私は縋った。
「卑怯な…!」
アスカちゃんはそう言いながら相手を睨んでる。まだ、戦闘が始まったわけじゃなかったんだ。
「サクラ、一回離脱するよ。アスカ、俺がサクラ抱きかかえるから退路を!」
「OK!サクラの事、頼んだわよ!!」
そう言ってアスカちゃんは周囲を見渡す。囲まれてるわけじゃないけど、離脱は難しそう。
「こっちなら…!」
そう呟いてからアスカちゃんが走り出す。私を抱きかかえた状態でフウくんがその後を追った。
「あはははは、今は逃げるがいいさ!」
マルベイはそう言って私たちを追いかけてはこなかった。私は怖くて、彼らを見ることは出来なかった。
「報告終わったよ。」
「ん、お疲れ様。本部長、何て?」
帰ってきてから私は部屋で座っていることしかできなかった。アスカちゃんが私についてくれてフウくんが本部長に報告に行ってくれた。
「とりあえず休んでくれって。明日は非番扱いにするとも言ってた。あと、サクラによろしくって。」
そう言ってフウくんは私を見る。
「その、サクラ、大丈夫?」
「…うん。」
私が頷くとフウくんの顔が少し緩んだ。
「…それじゃ、フウ来たし私部屋戻るね。」
「うん、ありがとう、アスカちゃん。」
そう言ってアスカちゃんは部屋を出て行った。
しばらくフウくんはモニターで作業してた。何も話さないけどそばにいてくれるのはありがたかった。
「サクラ、何か飲む?」
そのうち作業が終わったのかそう言ってくれた。
「そうだね、何かもらおうかな…。」
「分かった。台所借りるね。」
そう言ってキッチンでお茶を入れてきてくれた。
「あんなことがあった時はあったかいものをのむのが一番だよ。」
フウくんもそう言いながら一口飲む。あったかいお茶を飲んで、ようやく落ち着いてきた。
「ありがとう。後、ごめんなさい。」
「え?」
「その、迷惑かけちゃって…。」
私がそう言うとフウくんはため息をついた。
「誰が誰に迷惑かけたって?」
「え?…それは私がフウくんとアスカちゃんに…。」
やっぱり、怒ってるのかな?当たり前だよね。ちゃんと任務ができるように特訓とか付き合ってくれてたんだもん。
「それ、もしかしてアスカにも言った?」
「え?そ、それはもちろん…。」
「アスカ、何て言った?」
「…怒られた。でも、『迷惑かけないで』とかじゃなくて、『そんなこと言う必要ない』って。私のせいじゃないって…。」
そう、言われた時すごくびっくりした。私のせいじゃないって言ってもらえてうれしかった。
「俺も、おんなじこと言っていい?」
「え?」
フウくんはそう言って私の座ってるベッドの端に腰かけた。
「あれはサクラのせいじゃないよ。カエデのせい。ううん、あいつらのせい。」
そう言うと、私のほうに向きなおる。そしてそっと私の手を握ってくれた。
「あいつら、優しいサクラの性格を逆手にとって、利用しようとしたんだ。攻撃させないように、そして、安全に君を確保するために。」
その横顔に悔しさがにじんだ気がした。
「ごめん、俺がサクラを守り切ることができれば、君は苦しんでないよね。」
そう言って頭を下げられてしまった。否定したいのに言葉が出ない。
「でも、今度はちゃんと守るよ。そのために強くなる。だから、もう一度俺にチャンスをちょうだい。」
そう言ってくれるフウくんの表情はすごく真剣で、私も頑張りたいと思った。
「私も…。」
「え?」
「私も、もっと強くなる!!自分の事は自分で守れるくらい強くなるよ!」
私がそう言うと、フウくんは頷いてくれた。
「うん、お互い頑張ろう。」
そう二人で約束した。この約束を、絶対守りたいと、そう思った。
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