第181話
マーズ・リッペンバーは『破壊者』に乗り込む。そのコックピットはリリーファーとほぼおなじ構成となっていた。
まるで、リリーファーの起動従士がこの世界にやってくるのを解っていたかのように。
「いや、あいつはきっと解っていた。このために、私をこの世界に連れてきた……」
マーズは考えながらも、ブレイカーコントローラを握る。感触もまた、リリーファーコントローラに近しいものとなっている。
「……で、私はどうすればいいわけ?」
マイクを通して管制室に居る信楽瑛仁と会話をする。
これもリリーファーとほぼ同じ仕組みである。
『取り敢えず、きちんと動くかどうかの訓練をしてくれ。そして……すぐに君はやらなくてはいけないことがある。我々の敵であり、倒さねばならない相手を倒すために』
「……こっちにもこいつを使わないと倒すことが出来ない相手が居るということ?」
『ああ、そういうことだ。飲み込みが早くて助かるよ』
信楽瑛仁はそれ以上何も言うことは無かった。
仕方ないので彼に言われた通り、ブレイカーコントローラを握る。
そして、念じる。――手を握れ、と。
同時に、ゆっくりとブレイカーの手が握られていく。
信楽瑛仁は笑っていた。
「成功だ……。これで、人類は救われる……」
マイクのスイッチをオフにしているため、その言葉がマーズに聞こえることは無い。
もし聞こえていたのなら、彼女はそれについてさらに質問を重ねることだろう。
でも、彼は仮にそのようになったとしても、答えるつもりは無かった。そんなことになりふり構っている場合では無かったのだった。
彼は人類を救わねばならない。
そのための『特務』を命じられたのだから。
――サイレンが鳴ったのは、ちょうどその時だった。ワーンワーン、というサイレンがブレイカーを格納していた部屋全体に鳴り響く。
「いったい、どうしたというんだ!」
「やってきた……」
マイクのスイッチをオフにしたまま、信楽瑛仁は言った。
「やってきたんだよ、『外敵』が――!」
音声は聞こえなかったが、信楽瑛仁の慌てぶりからして、何かがやってくるのは事実だった。
そして。
その同時に、天井が上からの衝撃で崩落した。
マーズは何もしなかったわけではない。
衝撃があり、天井が崩落した。その瞬間、彼女はブレイカーコントローラを使ってブレイカーの頭上にある天井を支えることに成功した。
しかしながら。
「信楽……瑛仁」
管制室は上から潰されてしまっていた。
死体など確認することは出来ないが、おそらく潰れてしまっているのだろう。今の時点でそれを確認する術は無い。
人間は脆く、弱い。
それを目の当たりにした彼女は――それを静かに受け止めることしかしなかった。
別に見たことが無い景色だったわけでもない。寧ろ、彼女にとってこの光景は懐かしいことすら思える。
長い間戦場に居た彼女は、かつて『女神』と謳われた。
しかし、その渾名は敵から呼ばれているものではないということは、明白である。
では、敵からは何と呼ばれていたのか?
――死神。
マーズ・リッペンバーが戦地に赴けば、敵は必ず殲滅される。彼女の高い戦闘能力が生んだ結果であり、敵である彼らがそのようになってしまうのは当然なことなのかもしれないが、結果として、ヴァリエイブル以外の国家に所属する兵士からは、彼女を恐れてそう呼ぶようになった。
それは女神という渾名に対極して名づけられたのかもしれない。
女神であり死神である彼女を、敵はもちろん味方も恐怖していたのは事実だろう。実際問題、彼女を畏怖することで戦線を離脱する起動従士も少なくなかった。
そんな彼女の内情もまた――ひどく脆かった。もしかしたら普通の人間以上にその意志は脆かったのかもしれない。
けれど彼女は彼女として生きた。誰よりも強くあろうと願い、訓練を積んだ。
でも、彼女の強さが上がっていくにつれて、彼女から人は離れていった。
いや、正確に言えばそれは間違いである。――『彼女を真の友人と思う人が居なくなった』と言えばいいだろうか。実際、彼女と関係を持っているのは、大半が彼女に嫌われたくないという意志から築かれたものである。無論、彼女もそれに気付いていたが、何も言わなかった。何も言い出せなかった。何も言えなかった。
「救えなかった」
救えなかった。
目の前に居た、たったひとりの人間ですら。
目の前に居た、この世界で彼女の道筋を教えてくれるだろう人間を。
救えなかった。
力はあった。
けれど、救えなかった。
なぜ?
どうして?
どうして救えなかった?
どうして助けられなかった?
なぜ? なぜ? なぜ?
――答えは、見つからなかった。
見つけられなかった。
彼女は泣かなかった。
泣くことなど、しなかった。
それよりも、死んだ人間を弔うため――戦わなくてはならない。彼女はそう決断しなくてはならなかった。
決断する猶予など、無かった。
刹那、彼女を乗せたブレイカーは空に向かい、浮かび上がった。
◇◇◇
地上にあった建物は、ブレイカーの格納庫を中心としてなぎ倒されていた。とはいえ、その建物の殆どがコンクリート製であり、衝撃に耐えきれず、ほぼ崩壊していた。
「……これ程の衝撃……いったい何が生み出したというの? 隕石? それとも――」
彼女は頭上を見上げる。
そこにあったのは――黒い球体だった。
『見いつけちゃった、見つけちゃった! まさかこんな簡単に見つかるとは思いもしなかったよ! それはそれはすごいことだねえ、まさか「帽子屋」があんなことを仕出かすとは思いもしなかった!』
『こらあ! 「帽子屋」と言うと、僕と被っちゃうでしょ?』
そう言ってピンク色の球体がどこからともなく現れた。
何を見ているのか、今の彼女には理解できなかった。
何が起きているのか――目の前に居るのは、帽子屋を知っているように見えた――つまり、『シリーズ』の仲間だというのだろうか?
『ああ、やっぱり勘違いしているよ。この「少女」』
『しょうじょというのはちがうのではないか?』
さらに出てきたのは青色の球体。
なぜか言葉の全部が幼い印象を持つような、舌足らずな感じだったがそんなことは関係ない。
今、起きている現状を彼女は脳内で理解することで精一杯だった。
『仕方ないのう、こういうことになるから現状説明は面倒だが……。まあ、現時点で我々に楯突くのはこいつだけだ。しかしながら、我々にとって、そして「この世界にとって」重要な戦力であることも事実。ここは真実を伝えてしまったほうがいいとおもうが、どうだ? 「帽子屋」「バンダースナッチ」』
聞いたことのあるワードを含めた言葉を、黒い球体は告げる。
その言葉にピンクと青の球体は何の反応も示さなかった。
『それでは、満場一致で君に説明をすることとしよう。マーズ・リッペンバー、一応言っておくが、話は長くなるだろう。その話を君が理解できるかどうか、今は問わない。だが、いつかは理解せねばならない。そして、あの世界の「帽子屋」に紐づけられた運命を自ら打破できるか否か……それは君の行動力にかかっている』
そして。
黒き球体は話を始める。
『どこから話せばいいか……そうだねえ、先ずはこの世界について話すこととしようか』
「それだ」
マーズ・リッペンバーは早速口をはさんだ。
「この世界、あの世界とあえて区別しているように見えるけれど……それってどういうこと? まるでこの世界以外にも世界があるような……」
『まさに、君の言った通りだよ』
黒い球体は告げる。
彼女に、真っ直ぐとした真実を。
『君の住んでいた世界線、我々の居る世界線、そして……「もともとこの戦争に参加していなかった」タカト・オーノの世界線……凡てがバラバラの世界線として一本の線が宇宙空間……いや違うな、位相空間と言えばいいか、位相空間に散らばっている。その線の終端がどこになるかは線によって様々だし、始点も然り。一つだけ言えることは、無限にもとれる選択でその世界線を乗り換えることも出来れば、強制的に世界線を変更することも出来るということだ』
「世界線……? 位相空間……?」
解らない単語だらけで、頭がパンクしそうだった。
でも、彼女は聞かねばならなかった。
「位相空間だとか世界線だとか、そんなことはどうだっていい。問題はそこから、一言単純なこと。この世界は私が住んでいた……ヴァリエイブルやティパモール、リリーファーが居ない世界ということ。それがどうしてなのか、それについて問いたいだけよ」
『立場を弁えたまえ、マーズ・リッペンバー』
言ったのはピンクの球体だった。
『さっきから勘違いしているようだから、ハンプティ・ダンプティに変わって言うけれど、君には口答えする権利なんて全くないのだよ? それどころか、君は僕らに従ったほうがいいことだらけ。それはきっとハンプティ・ダンプティが言ってくれるだろうけれど……、まあ、別にそんなことはどうでもいい。問題は君が理解しようとするかどうか、だけ。君が戦ってくれるのなら、僕たちはそれについて疑問を提示されようとも、無視するだけだよ。君は戦わないと、生きることを許されない。また別の何者かを探すだけだ。破壊者の適格者をね』
『おい、帽子屋。今は私が話しているのだ。私の話を遮るようなことはしないでくれたまえよ』
『ああ、済まないね。ハンプティ・ダンプティ。いいよ、続けて』
帽子屋はすぐに話すのをやめて、ハンプティ・ダンプティに会話を譲る。
『……さて、それでは世界線について簡単に説明しなおすとするか。簡単に説明、と言っても我々は人間の知能レベルについてあまり理解しきれていない。そこまでうまく噛み砕くことが出来るかどうか……。そうだね、たとえば君がブレイカーに乗れなかったとしよう。そうして生まれる世界線は「マーズ・リッペンバーがブレイカーに乗れなかった世界線」だ。そして、マーズ・リッペンバーはその世界線を進むことになる。そこから強制的に、君が行動しても、世界線を移動することは難しい。具体的に言えば、君が望む世界線に動くことが難しいということであって、別の世界線に移動することは割と容易なことではあるがね』
『せかいせんについて、かんたんにせつめいすることはむずかしいことでありますからね』
言ったのは青の球体。やはり、言葉遣いが幼稚に見える。相手はどれも同じ球体で、色のみが違うだけだというのに。
『けれど、これはりかいしてほしい。せかいせんということを、いいや、このせかいのしくみというものを。それをまず、りかいしてもらわないと、なにも、はじまらない』
青い球体はそう言った。
だが、その意味を完全に理解できなかった。マーズは未だそこまで知識を手に入れていなかったのだ。
『バンダースナッチの話は、話半分に聞いたほうがいいよ。彼女はまだ生まれたばかりだから、知能が成熟していない。言葉の端々に幼い印象を受けただろう? それは決して間違っていないよ。そういう印象を抱くのは当然だ。なぜなら彼女はまだ生まれて僅かな時間しか過ごしていないからね。生まれてすぐ完璧な存在にはならない、それはシリーズ共通に言えることだ』
『もう。そんな話をするとさらに困惑するでしょう? 彼女に必要な話を、短時間で伝えなくてはならない。それが私たちの任務であり、義務である。そうでしょう?』
『義務……。確かにそれもそうだな。我々の義務だ。それを伝えなくてはフェアでは無い』
「フェア? いったい誰とフェアじゃないといけないと?」
『それは嫌でもすぐに解る。今は話を聞くんだ。聞き手に徹しろ』
帽子屋は言った。
『いいですか。あの世界の帽子屋は計画を考え、暴走しています。もともとは次元宇宙全体が考えた計画であるというのに……彼は自分のために次元宇宙をも利用しているのでしょうか。だとすれば、ひどく最悪な話です。ほんとうならあの世界もろとも破壊してしまってもいいのですが……。ですが、あの世界にはたくさんの人間が居ます。その人間を、たった一体のシリーズが行った悪行のために消し去ってはならない。それは、「ルール」に反しますから』
「ルール? ルールとはいったい……」
『それじゃ、先にルールについて説明したほうがいいかもしれないな。ルールとは単純明快、この多次元宇宙を存続させるための方法だよ。この多次元宇宙は世界線が増えすぎた。だから、減らすことに決定したというわけだよ』
「誰が決めたんですか?」
『もちろん、神だ』
……神?
『神と言っても、一言にそう呼べるのは、「宇宙神」たる存在のみ。宇宙神以外を神と名乗るのも、おかしな話なのだよ』
「……はあ?」
彼女の常識と、目の前の球体たちの常識が全然シンクロしない。
『話を戻そう。多次元宇宙の増加に悩んだ宇宙神は一つの結論に至った。――増えているのなら、減らせばいいと』
「それは解るわよ。けれど、どうやって減らせばいいのよ?」
『それをこれから話す。多次元宇宙の数は百二十余あると言われている。そして今回逓減するのが十二。現時点で八つが逓減されている。残り四つということだ。そしてその候補に……この世界と、君がもともと住んでいた世界が含まれているということだよ』
「……言葉の意味が、まったく理解できないのだけれど」
『安心したまえ、それは我々も変わらない。我々は世界を監視している存在だが、その候補が決定されるまで世界線の逓減など知ることもないのだ』
「即ち、今回世界線の逓減に引っかからなかった世界線もあるということ?」
『それはあるだろうね。百二十以上あって逓減されるのが十二個。単純計算して百八個の世界は無事だということだから。その中にはこの世界と僅かに違うだけでほかはまったく同じといった世界もあるから、その基準が解らないのだけれどね』
「……世界を減らす決定事項は、どうやって決まるの?」
『それが、これから君に伝えねばならない重要事項だよ』
球体が、話を始める――その時だった。
空間が大きく歪んだ。
そして空に巨大な穴が出来上がった。
「あれは――!」
『不味い、早すぎる! こんなにも早く、敵がやってくるとは……』
「敵!? 敵とはいったいどういうこと!!」
『戦えば解る。戦って、勝つのだ』
そして、球体の姿は消えた。
そんな会話を続けている間にも、穴は広がっていく。まるで、ロボットがそこから出てくるような――それ程の巨大な穴が最終的に空に浮かび上がった。
空に浮かんでいるその穴の中は、闇が広がっていた。
その先に何が広がっているのか、想像し難い。
いったいそこから何が出てくるのか。
いったい何と戦えばいいのか。
彼女は、見えない恐怖に怯えていた。
女神と称えられた彼女が。
死神と恐れられた彼女が。
見えない恐怖に怯えていた。
「……何だか解らないけれど、やるしかない」
やるしかない。
やるしかなかった。
そして。
穴の中から、ゆっくりと何かが出てきた。
先ずは足、腹部、胸部、肩、そして腕。
最終的に頭部が出てきた時、彼女は全体的な分析を開始していた。
目の前にあったのはリリーファーのように見えるが、その実、実際には違った。
先ず、流線形が特徴のリリーファーとは違い、ところどころ出っ張りがある。……とどのつまり、カクカクしているということだ。
「何よ、これ……」
彼女は驚いていた。
このような形のリリーファーを見たことが無かったからだ。
いや、そもそも……これはリリーファーなのか?
「何怯えているのよ、マーズ・リッペンバー。これは、このような得体のしれないものとの戦闘は、シリーズとの戦闘で慣れっこじゃないの」
自らに暗示をかけ、ただ相手が地面に降り立つ時を待つ。
そのリリーファーと思しきロボットは、ゆっくりと重力に従って降りていく。
彼女が待っていることを知りながら、焦らしているのだろうか? ……とはいえ、そんなことは今の彼女には解らない。
彼女の脳裏に、ふと黒い球体の言葉が蘇る。
――戦って、勝ち抜け。
「まさか、こいつと戦え……って話じゃないでしょうね……」
彼女はブレイカーコントローラを握る。
いつも彼女が乗っていたリリーファーとは勝手が違うが、操縦方法が似ているのであれば話は早い。
「うおおおおおおおおおお!」
そして。
そのロボットが地面に着地したタイミングを狙って、彼女は、ブレイカーは走り出した。
彼女の想定ならば、ブレイカーはリリーファーほどの性能を持たない。それほどの科学技術がこの世界には無い――そう思い込んでいた。
だが、違った。
彼女が思っている以上にブレイカーは、彼女の世界よりも高い科学技術を用いていた。
この『バケモノ』はいったい何者なんだ、と。
気付けば彼女はそう思うようになっていた。
本当にこれを倒すことができるのか――彼女の考えは、ただそれだけだったのだ。
本当にそれができるとして、その後どうすればいいか。
幾つもの修羅場を乗り越えてきた彼女が、そんなことを思った。
そしてそれを一瞬でも思った時点で――彼女の負けは見えていた。
「ちぃっ!」
マーズは舌打ちする。一瞬でもそう思った自分が許せなかったからだ。自分が、長い間戦場に向かい続けた自分がそんな考えに至ってしまうことが、許せなかった。
こんな考えに彼女が至るのは、初めてのことだった。
今まで感じたことの無い『感情』……それが彼女の舌打ちの要因であった。
ブレイカーは強い。そう思っていたのは確かだったが、けれども、心の何処かではそれを否定している彼女がいた。信じられない、と思うことになってしまうかもしれないが、彼女の精神は突然の出来事の連続で、それに対応し続けることにより、疲弊してしまったのである。
敵のリリーファーは近い。ブレイカーとの距離が徐々に狭まっていく。ブレイカーが装備しているナイフを構え直し、敵のリリーファーの関節部に咬み込ませるため、地面と水平にする。
行うことは、たったそれだけで充分だった。
にも関わらず。
敵のリリーファーは彼女の行動をせせら笑うかのように、瞬間、消えた。
「!」
マーズはそれを予測できなかった。
前後、或いは左右、或いは上のいずれかに行動することは当然ながら考えていたのだが、消失するのはいくら彼女でも予想できなかったということだろう。
「瞬間移動……いや、それとは違うか……!? いずれにせよ、どこにいった!」
マーズは辺りを見わたす。瓦礫だらけの街並みが広がっていた。だから、どこに居るのか解らなかった。
だから、気付かなかった。
そのリリーファーが地面の下、頭部だけを出して機会を窺っていたことを。
ガッ! とリリーファーが足首を掴んだとき――漸く、マーズはそのリリーファーが地面に潜っていたことを理解した。
だが、遅かった。
それよりも早く、リリーファーは腕一本だけでブレイカーを引っ張り上げた。
「なん……だとぉ!?」
上下逆さまになってしまった状態であるにも関わらず、重力維持装置が働いているブレイカーのコックピットではそんなことは関係ない。だが、自分が今どのような状態に置かれているのかは、自ずと理解できる。
しかしながら。
今の彼女にとって、そんなことはどうだってよかった。
そのまま、どうなってしまうか解らなかったが――そうであったとしても、彼女は彼女のやるべきことをする必要があったからだ。
持ち上げられたままのブレイカーはそのまま投げ出され、瓦礫の山に打ち付けられる。山は衝撃で崩れ、ブレイカーは埋もれる。
目の前が真っ暗になってしまった状況でもなお、彼女の目には光が宿っていた。
「どうする、考えろ、マーズ・リッペンバー! このままじゃ、何も進まない、何も終わらない、何も始まらない! お前の道を切り開くのは、お前しかいないんだよッ!!」
自らを奮い立たせるために、マーズ・リッペンバーは言った。
けれど、それよりも早く――リリーファーの二回目の攻撃が開始される。
ドン! ドン! ズガン! と銃弾がブレイカーの埋っている山へと撃ち放たれる。その一撃それぞれが重たく、そして山に沈んでいく。
もし山に埋もれていなかったらその一撃が凡てブレイカーの身体に当たっている――そう思うとぞっとした。
「偶然なのか、それともわざとこれを狙ったのか……。いずれにせよ、早く脱出しなくては……」
そう思っていても、行動に移すことは難しい。
実際問題、ブレイカーの身体は上下反転してしまっている。これをもとに戻すまでに数秒の時間を要し、その間は攻撃に対してフリーな状態と化してしまう。それは即ち、相手に攻撃のチャンスを与えてしまうことと同義であった。
どうすればいい。
考えろ、考えるんだ。
圧倒的にピンチな状況をチャンスに変える、ジョーカーを探す。
そのためには――。
「諦めていたら、負け……よね!」
そして。
彼女はブレイカーコントローラを強く、ただ強く握り締めた。
それは、負けたくないという思いが強かったのかもしれない。
それは、諦めたくないという思いが強かったのかもしれない。
いずれにせよ。
――やるしかない。
やってやる。やってやるしかない!
そう思って彼女は、ただ、願った――。
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