第155話

 崇人は自室のベッドで横になっていた。とはいえ眠ることは無い。とても目が冴えてしまっているからだ。

 彼は考えていた。これから自分たちが行う作戦についてだった。先程コルネリアが言っていた『順番』についても考えなくてはならなかった。


「……順番については、この際もうどうだっていいとして……やはり戦い方、か?」


 一番の問題としているのは、連携についてだ。結果として崇人とエイミー、それにエイムスは連携をして戦っていくこととなる。

 一度しか話したことが無い二人と、そこまでの連携をすることは可能なのだろうか?

 恐らく、というよりも確実に不可能だという言葉が来るのは間違いではない。間違いではないかと聞き直してしまうくらいだと言えよう。


「コルネリアは……いったい何を考えているんだ?」


 天井を見上げて崇人は小さく呟いた。

 インフィニティを手に入れること、それが必ず『人々の解放』につながるのだろうか? 崇人はそれを考えていた。そんなことが出来るとは思わなかった。

 まるで、何者かに操られているような……。


「いや、そんなことは無い……と思う」


 首を振って、しかし途中でその考えを改める。


「そうだよ、信じてやるのが常ってもんだろ。……コルネリアは僕を助けてくれた。ならば、彼女を助けてやることもまた常」


 彼は唯一その部屋にある窓から外を眺めた。

 外は赤いモニュメントめいた何かが混在していたが、それだけははっきりと見えた。

 沈みゆく太陽。赤々とした夕日が彼の目に飛び込んできた。


「……いい天気だ」



 ――このまま世界が変わらなければいいのに。平和のままであればいいのに。



 彼は思ったが、しかし――世界はそう簡単に変わっちゃくれない。

 それを彼は、すぐに実感することとなる。




 そして、深夜。

 ついにその時がやってきた。

 水平線に三機のリリーファー――スメラギ二機とベスパが待機している。後方にはベスパを改良した、ベスパ・ドライ。


「ベスパとこれって何が違うんだ?」


 因みにドライにはシズクが乗っている。ポーカーフェイスを貫いていて、このように崇人が呼びかけても反応が無い。


『ドライはベスパを改造したことによって産み出された、二種類目のリリーファーになります。その前にもう一種あったんだけど、改良したせいで今はもう無いとか……』


 代わりに答えたのはオペレーターの代理を行っているエイルだった。どうやら普段居るオペレーターは昼間のみの活動らしく、夜間は彼女が担当しているのだという。それを聞いて、崇人はさらに、レーヴの人手不足を痛感する。敵に対抗する手段は揃っていてもそれをサポートする人間が居なければ元も子もない。


「……成る程。もしかして、今僕が使っているタイプから新式とやらにバージョンアップしたのが『ドライ』という考えになるのか?」

『まぁ、そういうことになりますね。それ以外の基本的な性能は、まったくといっていいほどに変わりませんけれど』

「三倍速くなるとかそういうことは……。あ、いや、そもそも赤くなかったか」

『?』


 冗談を言おうと思ったが、そもそもその冗談は彼が昔居た世界でしか通用しないものだったことを思い出し、止めた。


『……まぁ、そんなことはどうでもいいの。今回の作戦について簡単に説明するわね。スメラギ二機はこのまま目標に突撃、ベスパはスメラギ二機に追従する形で、インフィニティが格納されている倉庫に向かう。残りは援護射撃、ってところかしら』


 エイルの言葉は冷静だった。

 的確な判断を下しているのは、恐らくコルネリアの言葉をそのまま伝えているからなのだろう。なぜそう崇人が思ったのかといえば、時折紙を見て読み上げているような、一本調子なところが見られるからだ。

 だが、彼が考えるにそれはどうなのだろうか――とも思えた。コルネリアは今回の作戦を、絶対に頑張らねばならないものと位置付けていたはずだった。にもかかわらず、本人が表に出てこないのは些か問題である。


「護身……というわけでも無さそうだな。何というか、いつでも逃げられるようにしている、とか……」

『――午前一時ちょうど。諸君、作戦開始の時間だ』


 彼がコルネリアに対し疑心暗鬼な発言をした直後のことであった。

 突如スピーカーを通してコルネリアの声が聞こえたのだった。


『作戦は、先程も言った通りこの組織の要となるだろう。インフィニティはそれ程に力強く、繊細だ。インフィニティを持ち帰る必要は無い。インフィニティに来るべき起動従士を乗せるまでで良い。それさえ上手くいけば、あとは何ら問題は無い。インフィニティとはそのように……次元も時間も空間も、何もかも超越していると言えるだろう』

『まさか……! つまり私たちはインフィニティに起動従士を乗せるまでで、あとは必要ないとでも言いたいわけ!?』


 コルネリアの言葉に噛み付いてきたのは、ほかでもないエイミーだった。


『別にそんなことは言っていない。あくまでも今回の目的がそれだと言うだけだ。リリーファーも起動従士も、一機一人たりとも犠牲にする気は無い』

『……そう、ならいいのだけれど』


 崇人はエイミーの発言にどこか引っかかりを感じたが、しかしそれはただの違和感に過ぎないとして葬り去った。


『……ふむ、一時三分か。少々時間は過ぎてしまったが、何の問題は無い。寧ろ正常とも言えるだろう。なに、数分のミスなんて良くあることだ』


 気付けば彼は独りでにリリーファーコントローラを握ろうとしていた。彼女の言葉に乗せられていたのかもしれない。


『さぁ、始めるぞ。インフィニティを在るべき場所に戻すための戦いよ。それは時間がかかるかもしれない。だが、やらなくてはならない。だが、戦わなくてはならない。これにより物語は一つの区切りを迎える。この作戦がどういう結果を得るにしろ、これによりハリー=ティパモール共和国にはダメージを与えることが出来る。諸君、それでは健闘を祈る』


 そして。

 今ここに『インフィニティ奪還作戦』――またの名をオペレーション・インフィニティ――が、静かに始まるのだった。



 ◇◇◇



「人間はどの状況下であっても争いを求める。争いを嫌う癖に血腥いことを好きになる。人間は矛盾の塊だよ。……まぁ、だからこそいつになっても監視はやめられないのだけれど」


 ソファに横になりながら、帽子屋と呼ばれている男は言った。

 帽子屋は正確に言えば男性ではない。さらに言うならば女性でもない。老若男女いずれにも当てはまることは無い。

 帽子屋とは、そういう存在だった。


「……十年も世界を遊ばせておいて、その結論がそれかい? だとしたら何だか幼稚な結論だと思うのだけれど」

「ハンプティ・ダンプティか。君も随分と久し振りだ」


 ソファの前に立っていたのは白いワンピースを着た少女だった。しかし少女は少女と呼ぶには小さかった。


「……久し振り、ねえ。十年前、君が『種を蒔いたから、暫く世界観測だけに留める』と言った時には驚いたよ。実際にこの十年は観測で済ませたわけだからね。色々なイレギュラーもあっただろうけれど……、結局は君が思い描いた通りに世界は形成された、ということで問題ないのかい?」


 ハンプティ・ダンプティの発言に帽子屋はつまらなそうに頷く。水溜まりを踏んだハンプティ・ダンプティの足が汚れる。汚れで染めあがる。


「しかし、まあ……」

「何だい、ハンプティ・ダンプティ。質問があるのならば受け付けよう。何せ君は三年間のコールドスリープにあったからね。その間に何があったか把握しきれていないのだろう?」

「まぁ、そうだね……。ならば、一番に質問したいことがある」


 ハンプティ・ダンプティは水溜まりに浸かっている人の頭程の大きさの何かを軽く小突いて、言った。


「君、ここで何をした? この部屋を真っ赤に染め上げる程の血……きっと数え切れない量の人間を『使用』したはずだ」


 ハンプティ・ダンプティが小突いたのはほかでもない、人間の頭蓋だったのだ。



 ――彼らが居る部屋は、壁が白で覆われていたため、通称『白の部屋』と呼ばれていた。



 だが、今は違う。その白を完全に赤に染め上げる程の血が床と壁に塗りたくられていた。流石に血の臭いはしなかった。恐らく何かの加工をしたのだろうが、だとしてもこのような部屋で引き続き監視を続ける帽子屋は『異常』だ。


「なぁ……帽子屋。君は私が三年間コールドスリープになっていたその間、いったい何をしていたんだ?」

「シリーズを『破壊』し過ぎた。だから監視の目が足りなくなったのだよ。そもそもの話になるが、破壊したシリーズはあまり監視に関与していなかったから、破壊してもしなくても、いずれはこれをしなくてはならないと思っていた」

「……これは、もう一つのシリーズを作ろうとした、その残骸……」

「いいや、シリーズの複製には失敗した。コアがもう新鮮ではなかったこともあったし、定義が非常に難しいのだよね。複製ということは、未だ存在しているものをも複製してしまう可能性としては捨てきれない。まぁ、そのまま完成しない可能性だって有り得るからね」


 帽子屋の言動はハンプティ・ダンプティには理解出来ないものだった。理解は出来なかったが、ハンプティ・ダンプティは一つだけ理解することが出来た。

 それは帽子屋が『正常』の範疇から逸脱している――狂っているということだ。何十年とこの部屋で監視し続けてきたが、やはり帽子屋は頭の螺子が数本抜けてしまっているのではないか――そう思う、或いはそう思ったほうが納得出来る機会がとても多い。

 しかしながら、そうであったとしてもそれがシリーズに不必要であることとは直結しない。帽子屋は既にシリーズの中核を担っている。だから否定することや批判することは出来たとしても、シリーズから追放することは――最早現時点では不可能であった。


「……聞いているかい?」


 それを聞いてハンプティ・ダンプティは我に返る。ハンプティ・ダンプティの表情を見て、帽子屋は笑みを浮かべる。まるで、そんなこと解っているとでも言いたげだった。

 ハンプティ・ダンプティは数瞬だけ考え、そして頷いた。


「……だがシリーズとは似て非なる、まったく新しい存在を産み出すことは出来た」

「……………………え?」


 帽子屋の言葉にハンプティ・ダンプティの目が点になった。それくらい、驚きを隠せ無いと言ってもあいだろう。

 帽子屋の話は続く。


「はっきり言って自分がこのようなものを生み出すためか、上手く世界の次元が一致しないのだよ。シリーズではなく、新たな章≪チャプター≫として生み出した。それは世界の変異に反映されることもないまま、特異点を生み出す。こっちがどう考えでもってイレギュラーなものだよ。レギュラーに拘る時代は、案外とうの昔に消えてしまったのかもしれない」

「ちょっと待て、いったいお前は何を言っている……?」


 ハンプティ・ダンプティの問いを無視して、帽子屋の話は続く。

 それは非条理も不具合も、何もかも包容したような、そんな優しい笑顔に包まれていた。


「僕はね、ハンプティ・ダンプティ? 世界を変えてしまいたいのだよ。そのためには、シリーズではない別の何かを生み出し、世界のコードを書き換えなければならない。それは話を聞いただけで億劫だろう?」

「世界を変える、ね……。今日日、普通の子供ですら言わないぞ?」

「子供が言うのは世界征服の範疇だろう? はっきり言ってそんな範疇、埒外に居ることが常識の僕には何の関係も無いよ。勿論のこと、それはハンプティ・ダンプティも例外では無い」

「世界を変えること……その歪みが起こり始めている。なんてことは言わないよな?」


 ぴくり、と帽子屋の眉が微かに揺れる。

 そして。


「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!」


 何かの堰が壊れたかのように。

 帽子屋は突然として笑い出した。

 その原因が何であるのかハンプティ・ダンプティには解らない。いや、その理由が解る存在など、たったの一つを除いて――居るはずがなかった。



◇◇◇



 インフィニティ奪還作戦は恐ろしい程、スムーズに進んでいった。理由は解らない。しかしそれはレーヴにとって好機でもあったし、油断を招いたともいえる。

 そしてその結果は――思ったよりあっさりと訪れる。


『タカト! 急いでインフィニティに乗り込んで!!』

「ダメよ、タカト! インフィニティに乗り込んでしまえば、そのまま世界は……どうなるのか解っているの!?」


 コックピット内部のスピーカーを通して聞こえる声はコルネリアのものだ。

 対してインフィニティが格納されている倉庫から、ガラスを伝って聞こえるのはマーズのものだった。

 インフィニティが格納されている倉庫まで強引に突入し、崇人がインフィニティに乗り込む。

 そこまでが作戦の概要である。即ち、今はその作戦の最終段階――ほぼ完成の状態まで来ていた。

 にもかかわらず、彼は悩んでいた。

 本当に今、インフィニティに乗ってもいいのだろうか、ということについてだ。もしかしたら悩みではなく焦りかもしれない。十年の過去を埋めるために、彼は話を聞きたかった。そして話をしてくれたのはマーズではなくコルネリアだった。

 今思えばマーズは話をしたくなかったのではないだろうか? 出来事を手っ取り早く説明したいのならば、何もかも含めて説明してしまえば良かったはずだ。しかし彼女はその話をするどころか、崇人を幽閉し、自らと会う機会を減らした。

 それは裏を返せば、いいことだけ言って都合の悪いことは抹消する――そのようにも感じ取ることは出来る。

 しかし、マーズは違うのでは無いか。崇人は今頃になって思い始めた。マーズはほんとうに、崇人のことを思って言わなかっただけなのではないか、と。


「タカト! お願いだから……、お願いだからインフィニティには乗らないで!」

『タカト、君が悩む気持ちも解る。だが今は私に従ってくれ。インフィニティに、乗ってくれ……!』


 各々が相反する要求を崇人に迫る。

 しかし崇人の身体は一つしかない。それは当然だ。だから彼が従うことが出来るのも二人のうち何れかと言える。


「どうすりゃいいんだよ、俺は……!」


 崇人は葛藤していた。自分が何をすればいいのか解らなかった。

 だが、彼の選択は――彼自身が選択することは出来なかった。


『……ったく、何を考えているんだ。インフィニティに乗るか、乗らないか。そんな単純な二択だぞ? 男ならさっさと決めちまえ』

「はあ……? というかお前はいったい何者だよ」


 刹那、彼の身体が彼の意識と相反して、ゆっくりと動き出した。足を使って、歩いていたのだ。


「お、おい! どういうことだよ、これは!?」

『いいから黙って歩け。……それとも、引きちぎられたいのか? 身体の動きと抵抗しようとする精神は、その力を強めれば身体が真っ二つになる。これに対抗する術など考えないで、素直に従うことだね』


 崇人の身体は何者かに操られていた。だが、それは誰にも解ることなど無い。

 彼は真っ直ぐインフィニティに向かっていた。コックピットは既に開かれている。


「インフィニティにはフロネシスがあったはずだ……。どうやってロックを解除した?」

『そりゃ言えないな。ま、強いて言うなら「情報通」が居る……ということくらいか?』


 情報通。

 それもただの情報通だというわけではない。この世界に精通する、特別な存在だった。

 そして彼は見えざる手によって、彼は強制的にインフィニティのコックピットに放り込まれた。



◇◇◇



 コルネリアはそれを見て笑っていた。ついにそれが成功した、と笑っていた。

 インフィニティさえこちらの戦力に加えてしまえば、あとは敵など居ない。それは解りきっていたことだった。そんな、子供でも解る結論に、彼女は何度も頷いていた。

 だからこそ、彼女は解らなかった。

 崇人がインフィニティに乗り込んだのは、自らの意志ではないということに――。



  ◇◇◇



 十年ぶり――正確に言えば十年間コールドスリープ状態にあったのだから、十年もの間インフィニティに乗りっぱなしとも言える――に乗ったインフィニティのコックピットは、いつもと変わらなかった。

 いつもと変わらない――十年間メンテナンス無しでそれを保つことが出来るのは不思議で仕方がないが――そのコックピットは、静かに崇人を迎え入れた。


「……フロネシス、聞こえるか」


 彼はいつものように語りかけた。その相手は紛れも無くインフィニティに搭載された基本ソフト、フロネシスだった。


『お呼びですか、マスター』


 直ぐに、十年前とまったく変わらない声がコックピットに響き渡った。ソフトウェアなのだから十年だろうが二十年だろうが、或いは百年だって声が変わらないのは当然のことだと言えるだろう。

 フロネシスは続ける。


『……敵を何機か発見しました。如何なさいますか?』

「因みに、その詳細は?」


 フロネシスが告げたのは――マーズたちのほうだった。

 インフィニティの選択は、コルネリアだった。


「……解った。ならば其方に向かって全門斉≪せい≫射≪しゃ≫。そして直ぐにここから脱出するぞ」


 返答は無かった。

 刹那、インフィニティの砲塔凡てがマーズの居る方角を向いた。


「……ねえ、何でよ?」


 ぽつり、彼女は呟いた。

 しかしインフィニティは其方に砲塔を向けたままだ。


「私より……コルネリアを選ぶの? 私、あなたと一つになって……結ばれて……、子供も居るのよ?」


 崇人は答えない。


「嫌だよ……。未だ、未だ死にたくない。あなたと一緒に、タカトと一緒に過ごしたいのよぉ……」


 崇人は答えない。

 そして――そのまま咆哮が撃ち放たれた。

 彼女の絶叫とともに、城塞が崩壊していく――。



 ◇◇◇



『ご苦労様、これで今回の任務は一通り終了よ。あとはそのまま戻るだけ。気を引き締めてちょうだいね。遠足は帰るまでが遠足だ、と言うくらいにね』


 崇人はトランシーバー(インフィニティの通信周波数は独特であり、コルネリアはそれを知り得ない。また、レーヴの機械では交信することが出来ないためである)から聞こえたコルネリアからの言葉を聞いて、その電源を切った。

 操縦をフロネシスに任せ、崇人は透過コックピットフロントから外を眺めていた。

 血のように真っ赤な建造物だった何かを眺めるのは大変苦痛であったが、今の心を癒すには充分過ぎた。


「あの選択は……正しかったのだろうか」


 崇人はさっきのマーズの絶叫をフラッシュバックさせていた。

 インフィニティ――フロネシスに従い、あの結論が得られた訳だが、果たしてその結論は正しいものだっただろうか?

 いや、それを考えるのは野暮というものだ。フロネシスは常に正しい結果を導いていた。いつも彼を救っていた。

 だから今回の結論もきっと正しいのだろう。彼は何時しか頭の中でそのように考えるようになった。一種の現実逃避と言えばそれまでだが。


「そうだよ、きっと正しいんだ……。僕は間違っていない。間違っていないんだよ」


 自らに言い聞かせるようにして彼は言った。

 そしてその選択について、彼は恐ろしく後悔することになる。だが、それは大分先のことになるだろう。




 インフィニティがスメラギ二機と共にレーヴのアジトに到着したのは、それから二十分後のことだった。

 先ず、インフィニティとスメラギとで一目見て解る違いはその『大きさ』だろう。スメラギはインフィニティの胸部走行あたりの大きさになる。


「……改めて見ると、インフィニティの大きさは圧巻だな。惚れ惚れするくらいだよ」


 崇人の横に立ち、話すのはコルネリアだった。


「……やっぱりリリーファーは大きけりゃ大きいほうがいいのか?」

「そういうわけでも無い。小さいリリーファーは小回りが効くし隠れやすい。だが火力が低いものが殆どになってしまうから長期戦向けかもしれないな。大きいリリーファーはその逆だ。小回りが効きづらいかわりに火力がどでかい。一発で小型機を潰すことが出来るくらいに、ね。だから短期決戦には向いているかもしれない。だってその一撃で戦争が終わってしまうかもしれないのだから」

「インフィニティは大型機、それでいて火力最強。それってチートになるよなぁ……」

「チート?」

「……あぁ、いや、何でもない」


 思わず崇人が昔居た世界での言葉を使ってしまう程だったが、直ぐに取り直す。


「崇人、君も疲れただろう。今日はゆっくり休むがいい。……また明日も大変なことになるだろうからな」

「……それっていったいどういうことだ?」


 コルネリアが見せてくる新聞記事を、彼は熟読していく。見出しにはこう書かれていた。



 ――『ハリー=ティパモール共和国元首、十年前の「事件」首謀者と意外な関係?』



 崇人はその見出しを読み終えてコルネリアから新聞記事を引ったくる。

 さらにそこには、このように書かれていた。



 ――ハリー=ティパモール共和国元首、マーズ・リッペンバーは十年前の『事件』の首謀者と恋仲にあった、と自らが語っている。



 ――事態を重く見た共和国はマーズを元首から下ろし、国家転覆罪の容疑で逮捕した。また、十年前の『騎士団』メンバーは何れも関連を否定しているため、今回の逮捕には至らなかった。



「……どういう、ことだ?」

「どうやらあなたとマーズのやり取りがカメラか何かに収められていたようね。まぁ、こっちにとっては都合がいい。何せ国が混乱状態に陥っているからね……」


 コルネリアは笑っていた。

 その表情は今まで彼が見たことが無かった、恍惚とした表情だった。

 それを見て崇人は少しだけ恐ろしくなった。それと同時に彼は未だ気付いていなかった。彼とインフィニティが、十年後のこの時代に持つ影響力を――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る