第65話

 ところ変わって、ヴァリエイブル連邦王国と法王庁自治領の国境沿いにあるガルタス基地ではバルタザール騎士団騎士団長フレイヤ・アンダーバードが法王庁自治領の方を双眼鏡で眺めていた。

 ラグストリアル・リグレーの口から此度の戦争について宣戦布告を発表したのはつい昨日のことだった。フレイヤはそれを聞いて、どう転んでも利益があまり得られない無駄な戦いだとして抗議を試みたが、門前払いさせられてしまった。

 それに対してフレイヤはヴァリエイブルに嫌悪感を抱いていた。

 なぜヴァリエイブルはそんなことを強行するのか、ということに対して疑問を浮かべているのは、何もフレイヤだけではない。名のある科学者や評論家も今回の戦争について「こんなことをやる意味が解らない」と一刀両断している。

 況してや今はペイパスとの併合を終えたばかりで、国力としても大分落ち込んでいる。一回のテロ行為の報復として戦争を行えば、国は疲弊し分解していくだろう。

 それに似た内容の論文を公表した高名な評論家はその二日後に謎の死を遂げた。なにも彼だけではない。みんなみんなそうだった。

 戦争を反対する旨を発表すた人間は嫌が応でも殺されてしまった。まるで独裁政治だが、それに関して言う者は居ない。

 そしてそのニュースが大々的に発表されないのも、国が報道を牛耳っているからだ。


「……この国はどうなってしまったんだろうか」


 フレイヤは呟く。ヴァリエイブルはこんな国では無かったと言いたいのだ。

 もっと人も優しくて……いい国だった。

 何がこの国を変えてしまったのだろうか。

 どうしてこの国は変わってしまったのだろうか。


「……なぜだというのか」


 フレイヤは呟くが、その声は小波に消えていった。

 このガルタス基地は海沿いにあるために、波の音がよく聞こえる。その音がとても心地よく、眠りについてしまう見張りがいるのもこのガルタス基地の特徴であった。しかし、そんなことが許されたのはこの近辺で戦争や紛争といった小競り合いが起きなかったのが原因ともいえるだろう。


「……いい音。ほんとうにこんなところで戦争が起きるかと言われると、曖昧なところがあるわね」


 フレイヤは呟くが、それは誰にも聞かれることはない。

 宣戦布告によって人々に大きな混乱を招いた。そして、それは怒りに変わり、王にその矛先が向けられるのはもはや当然のことだった。

 それによって王は現時点での自主的に幽閉を決定。これは王の安全を確保するためである。


「とはいえ騒乱が収まった訳ではない」


 フレイヤは呟く。その通りであった。王が公の場に出なくなってからさらに騒乱は増したのだ。当事者である王が出なくなって今回の戦争について何も言わなくなったのだから、むしろこれは当然とも言える。

 人々の戦争に対する不安は大きい。これは常に戦争が起きているこの世界でも当然のことだった。

 戦争が起きて必ずその国が勝つなどということは確定出来ない。即ち、戦争が起きて人々が不安になるのももはや当たり前のことだった。


「フレイヤさん、どうなさいました?」


 フレイヤはそこで誰かに声をかけられた。振り返るとそこに立っていたのは一人の兵士だった。

 リリーファーが戦争の大半を決めるようになっても、普通に兵士は存在する。その兵士が居る大きな理由の一つがこれだ。

 兵士は各国の様々な場所にある基地から国土を見渡し、国土を守る立場にある。確かにその通りであるし、そうでなくてはならないのだった。

 しかし最近はそれすらも削減の傾向にある。兵士の一大イベントである国際アスレチック大会もスポンサーの減少で開催が危ぶまれたり、リリーファーの整備士が職業として独立したりなどと、『兵士』の存在意義が失われつつあるのだった。

 昔は人間対人間の、血で血を洗う戦いが『戦争』であると定義されていたにもかかわらず、今はリリーファー同士の『スマートな戦争』に切り替わっている。

 しかし国としては増大する軍事費(その一因がリリーファーの世代交代などによる管理費の上昇だ)を何とかして削減したいのだろう。最近は兵士の希望退職者を募っていたり、或いは兵団そのものを民間に売り払うようなことまでしているのだ。

 しかしかつての戦争の功労者である兵士をそのまま打ち切ってしまうのはいかがなものかと、特に起動従士たちから挙がっている。彼らもかつては兵士だったものも多く、戦力増強のために適性検査を潜り抜け、起動従士となった人間があまりにも多いためである。

 起動従士は普通の兵士の五倍から十倍近い給与を貰っている。彼らの働きからすればそれくらい貰っても問題ないのだが、国民の中には『血税の無駄遣い』だとして抗議の声も挙がっているケースもある。

 守られている立場の人間は攻撃が来なかったとき、その立場を忘れるものだ。元起動従士の女性は新聞記事のインタビューにてこう語ったという。そしてそれは|強(あなが)ち間違いでもなかった。

 国民は守られている立場にいる。何から守っているかといえば、他国からの侵略行為にほかならない。しかしヴァリエイブル連邦王国は他国からの侵略行為をここ百年間退け続けてきた。それはこの世界の歴史でも非常に珍しいことだった。

 だから国民は忘れてしまったのだ。リリーファーに守られていることへの感謝を。リリーファーに守られているという意味を。


「……兵士、君の名前は?」


 フレイヤはそこまで考えて、一旦思考をシフトした。

 兵士に名前を訊ねることとしたのだ。

 兵士は女性だった。青い迷彩服を着て、金色の髪が少しだけ太陽の光を浴びて輝いているようにも見えた。


「私はリーフィ・クロウザーといいます。このガルタス基地に勤めてもう五年程にはなるでしょうか」

「……あなたは結構なベテランなのね」


 フレイヤの言葉に、リーフィは首を横に振る。


「そんなことはありませんよ。所詮一般兵士など起動従士の足元にも及びません。練習スタイルも給与も任務も凡てがワンランク違いますから」


 それはそうだろうか。

 いや、確かにリーフィの言うとおりであった。給与も任務も練習の質も、何もかもが起動従士のほうが上なのだ。だが、それを非難する声は少ない。なぜならそれを知る人間が少ないからだ。そしてその知っている人間も起動従士が大変であることを知っているから、非難することはない。

 代わりに一般兵士の質が落ちていることをマスメディアから突っ込まれることは多い。これは起動従士の育成費用などに軍事費のパーセンテージが取られているために、半ば仕方のないことでもあるのだが、とはいえ悲しいことである。それを非難されようとも、国が軍事費のパーセンテージを見直すことはしないからだ。

 それは戦争のシステムが、もうリリーファーに頼りきっているから――という理由が大きく占めるだろう。


「……でも、私はそれで辛いとは思っていませんよ」


 リーフィの話は続く。


「確かに起動従士と比べれば雲泥の差です。ですが、それが何だって言うんですか? 楽しければいいんですよ。この仕事を満足にできているのに、外から『給与が足りない』だの『きちんと仕事しろ』だの言われるのが苦痛でなりませんよ。私たちは何のために仕事をしているのか? 誰のためでもない、先ずは自分のためです。給与をもらって、生きる糧にするために仕事をします。そしてその仕事は自ずと楽しくしていくものです。なのに、そういう茶々を入れられるのが、私としては非常に面倒臭いところですね」


 起動従士のあなたに言ってもしょうがないですけど、とリーフィは付け足した。


「確かにそれもそうかもね。私にどうこう言ったって何かが解決するわけでもない。寧ろ毎年一般兵士に対する待遇が酷くなっていることもまた事実。……兵士に何年かなっていたから、私にもその辛さってものはよく解る」

「フレイヤさんも、かつては一般兵士だったんですか?」


 リーフィの言葉に、フレイヤは頷く。

 フレイヤ・アンダーバードはかつてティパモール近郊の治安を守る一般兵士に属していた。しかし、ある戦いが起きてそこで彼女はリリーファーを操縦するのができたことが判明し、そのまま彼女は起動従士となった。

 彼女は確かに努力家だが、起動従士になった経緯はある意味『大会』で目をつけられたマーズ・リッペンバー以上に稀有なことである。

 稀有なことではあるが、彼女自身それを稀有だとは思っていない。寧ろ自分が努力したからこそ成し遂げられた、その結晶であると考えている。

 結晶がどういう結果を今後招いていくのかは彼女も解らないことではあるが、いい結果に転ぶか悪い結果に転ぶか、それを担っているのはほかでもない彼女であることを、彼女自身自負している。


「……起動従士は憧れだった」


 フレイヤは唐突にそう話し始めた。

 きっと彼女はずっとそれを話したかったのかもしれない。

 彼女はそれを誰かに話したくて、仕方なかったのかもしれない。


「起動従士は私にとっての憧れだった。憧憬だった。だから私は目の前に空のリリーファーがあった……其の時、私はこうも思えた。努力をずっと続けてきたから、カミサマは私を見捨てなかったんだ……とね。けれど、現実は違った。起動従士になって、その先に得られたものはなんだったか。答えは簡単だ。リリーファーと人間の体格比はあまりにも明らかだ。これは即ち、リリーファーは簡単に人を殺すことができる。そういうことだ。私の憧れである起動従士は、人をあっという間に殺し立てる殺戮マシーンだったんだよ」


 息を吐くようにフレイヤは話す。それをずっとリーフィは聞き手に回って、話を聞いていた。

 フレイヤは息を吸って、再び話を続ける。


「殺戮マシーンに乗っている人間も殺戮をしているに等しい。即ち起動従士は大量殺人鬼で、リリーファーはその凶器だったんだ。可笑しい話だろう? 憧れとしていた職業にいざなってみたら、それとはまったく違うイメージだったことに、現実に気がついて驚愕するんだ。悲しくなるんだ。やめたくなるんだ。どうあがいてもこれは変えることが出来ないし、変わることも出来ないだろう。……現実とは非情なものだよ」

「でも、あなたはまだリリーファーに乗っている。あなたは起動従士としてその役を果たしているではないですか」

「そうだね。でもそれは単なることだ。仕事と感情は割り切らなくてはいけないことなのかもしれないが、罪のない人々をコイルガンやらレールガンやらで殺戮していくのを何度も行っていくうちに、自分という存在はなんて罰当たりなのだろう。なんてことをしているのだろう……なんて思うこともしばしばある」

「でも、あなたは起動従士を……」

「時折、この腕を消し飛ばしたくなる」


 そう言って、フレイヤは自らの右腕を見つめた。


「この腕でリリーファーコントローラを使っているということは、私は右腕で人を殺しているに等しい。それは即ちこの腕さえ無くなってしまえばリリーファーを操縦することが出来なくなる……とね」

「それはいけないですよ、フレイヤさん」


 リーフィの声に、フレイヤはそちらを向いた。


「あなたは現にこの国を守ろうとしているではないですか。確かに今回の戦争は少々やりすぎなところもあるかもしれないですが……それでもあなたはこの基地で、ヴァリエイブル連邦王国の人間三百万人を守ろうとしているではないですか。その腕がなくては、あなたはリリーファーを操縦することなど、出来ませんよ」

「……そう思ってくれる人が一人でも居るだけで、私はほんとうに救いになる」


 フレイヤはそう頷いて、微笑む。

 それを見て、リーフィも小さく笑みを浮かべた。


「……あ、そうだ。フレイヤさん、これからブリーフィングを行うとのことで急いで第一会議室へ向かってください。お願いしますね」


 リーフィは思い出したかのようにそう言って、その場を後にする。

 一人残されたフレイヤは「やれやれ」とだけ言って、その場を後にした。



 ◇◇◇



 第一会議室ではフレイヤ・アンダーバード率いるバルタザール騎士団の面々とガルタス基地の主要なメンバーが一同に決していた。


「それではこれからブリーフィングを執り行いたいと思います」


 議長を務めるのはガルタス基地の代表を務めるフランシスカ・バビーチェだ。フランシスカは二十五歳の若さでガルタス基地の代表を務めており、その力はラグストリアルですら認めている程だ。

 ブリーフィングに伴い参加している人間全員には資料が行き渡っている。その内訳をざっと説明すると、法王庁自治領の詳細な地図と、『アフロディーテ』との交戦時に手に入れた『聖騎士』の簡易解析データと、今回の作戦についての三種類にまとめられる。一つ目についてはフレイヤは既にざっと目を通していたために問題ないが、問題は二つ目以降のことだった。


「……ブリーフィングを行う前に訊ねたいのだけれど、これ、どういうこと?」


 フレイヤが訊ねたのはもちろんアフロディーテ交戦時に入手した聖騎士の簡易解析データについてだった。


「私も詳しくは知らないのですが、アフロディーテが水中潜行中に相手のリリーファー『聖騎士』に攻撃を受けたということなのです。生憎当時乗り合わせていた二体のリリーファーによって撃退し、それをアフロディーテ内部に持ち帰ることが出来ましたので、簡易的に解析を行い、そのデータを送信していただいた次第です」

「データを送信……それは即ち、まだアフロディーテに聖騎士の躯体そのものが残っている、ということか? だったらなぜそれを本国へ……いや、いい。これ以上はブリーフィングの侵害になってしまう。ここまででいい」

「ご協力感謝します」


 フランシスカは頭を下げる。


「さて、今回のブリーフィングについてですが、大きく分けて二つのことをお話します。先ず三ページをご覧ください。先程もお話しましたが、此度我が国最大の積載量を誇る潜水艦『アフロディーテ』に敵方のリリーファー『聖騎士』が攻撃を仕掛けてきました。生憎、潜水艦にはハリー騎士団とメルキオール騎士団が居たためにそれを撃退し、潜水艦内部に聖騎士を搬入、そしてそれを解析した……というのがそのデータということになります」

「ふむ。このデータから何が言えるのか、はっきり説明していただけますか」


 それに答えたのはガルタス基地に所属するリリーファー整備士レビテド・グラールだった。レビテドは小柄な男で灰色の帽子を被っていた。

 レビテドの方を向いて、彼女はそれに答える。


「このデータから云えることは、法王庁は我々が思っている以上に高い技術を持っているということです。報告書にも書いてありますが、この『聖騎士0421号』とやらは水中戦を繰り広げたと聞きます。また解析の結果、水圧に耐えられるように特殊な装甲で構成されていることも判明しました」

「……特殊な装甲、ね。それを破る手段というのは現時点では見つかってないのよね?」


 フレイヤが訊ねる。


「ええ。恐らくはアレスやガネーシャといった現在ヴァリエイブル連邦王国にある躯体よりも固いものであるかと」

「ガネーシャよりも固いとなると……大分辛い話になってくるわね」


 フレイヤは呟く。ガネーシャやアレスは現在ヴァリエイブル連邦王国に現存しているこの国で一番強いリリーファーはインフィニティだが、それに次いで強いのがその二機なのである。

 その二機よりも強いリリーファーが、製造番号とも思えるナンバリングからして何百機も存在するということが、どれほど恐ろしいものであるか。彼女たちは今、この場で嫌というほど理解した。


「……となると真っ正面から向かって倒すなどといったことはほぼ不可能に近そうであるね」


 フレイヤ・アンダーバードは即座に作戦を切り替える発言をした。

 それに対して、フランシスカは大きく頷く。

 ところで、バルタザール騎士団のほかのメンバーは何をしているのか――とふとフレイヤがそちらの方を見ていると、彼らは熱心に資料から片時も目を離していなかった。資料を熟読し、作戦に備えているためだ。


「……さて、それじゃ対策は何かないのか? このブリーフィングのリーダーを務めるというのであれば、何かひとつくらい考えついてはいるのだろう?」

「それはもちろん。装甲が固いとはいえ、攻撃に関してはまだこちらのほうが勝っています。六ページにある、『聖騎士0421号の攻撃武器解析データ』という項目をご覧ください」

 フランシスカに言われた通りに、彼女たちは六ページへと移動する。


「六ページに書かれている内容を見ていただければ、はっきりとすることなのですが、聖騎士の攻撃武器はあまりにも乏しいものばかりです。私たちから見れば、学校教育用にある模擬リリーファーと等しい性能であるとも言えます」


 聖騎士0421号が装備していた兵器はコイルガン、熱放射式エネルギー砲といったスタンダードのリリーファーが装備しているようなものばかりだった。


「こんなものしか装備されていないというのか……?」

「少なくとも聖騎士0421号はその装備しかありません」


 それを聞いてフレイヤは愕然とした。今まで戦おうとしていた国のリリーファーの装備が解らなかっただけでも頭が痛いことであるというのに、その装備が防御特化だということを知ったからだ。

 そんなこと、信じられるわけがない。

 簡易的な解析だから間違っている可能性があるとはいえ、それはすっ飛び過ぎな話である。

 フレイヤがそんなことを考えた――ちょうどその時だった。

 ズズン、と地響きが鳴った。それと同時に地面が、少しだけ揺れた。


「……なんだ?!」


 フレイヤは立ち上がり、扉を開けようとする。

 それと同時に誰かが入ってきた。


「どうした、外でなにか起きたのか」


 フランシスカは冷静に訊ねる。

 それに兵士は頷く。


「はい! 法王庁自治領のものとみられるリリーファーが三十機出現しました! 現在交戦中です!」


 三十機、という単語を聞いて彼女たちは愕然した。ここにあるリリーファーの数の約三倍にもなるリリーファーがここに向かってきている――という事実を聞けば、誰もが衝撃を隠しきれないだろう。


「それは……本当なのですか!!」


 フランシスカは再度訊ねる。嘘であってほしいからだ。そんなことは嘘でなくてはならないからだ。

 だが、無情にも兵士はその質問にゆっくりと頷いた。

 それを見て、フランシスカは駆け出して第一会議室を後にする。それを追うようにバルタザール騎士団の面々もフランシスカを第一会議室を出て行った。



 ◇◇◇



 屋上。

 そこは先ほどのような雰囲気ではなく、緊張感に包まれていた。砲台は凡て稼働しているし、せわしなく兵士は動いている。

 しかしそれでもリリーファーに適うわけはない。せいぜいリリーファーの足を止めるくらいだ。それくらいしか出来ないが、それが精一杯である。


「状況を報告しろ!」


 フランシスカが屋上にあがり、開口一番そう言った。


「状況は非常に悪いです。最悪と言っていいです! 砲台だけじゃ構いきれません! まさに好き放題やられているカタチになっています!!」


 兵士の一人がそう呟いて、舌打ちした。


「……そういうことです。フレイヤさん。バルタザール騎士団の皆さん。急いでリリーファーの出動を要請します」

「とうとう出番が回ってきた、というわけだな」


 それをきいて、最初に反応したのは金髪男、グラン・フェイデールだった。

 グランはそれを言って、頭を掻いた。

 グラン・フェイデールは長身の男だった。フレイヤが百六十センチくらいであるのに対し、グラン・フェイデールは百九十センチ近い身長である。ここまで言えば、いかにグランが長身であるのか解るだろう。


「……グラン、血が沸き起こる気持ちになっていることは解る。でもな、そういうことはセーブしていかねばならない。そうでないと冷静な判断を怠ることもあるからだ。解るか?」

「それはそうだ。……だが、この戦争で興奮しない方がおかしい。きっとこの戦いは歴史に名を残す戦いになるだろうよ。そうだとなれば興奮しないでやってられるかということだ」

「……ふむ、そういうものか」

「ああ、そういうことだ」


 グランとフレイヤはバルタザール騎士団の団長に彼女が就任する前からの友人であった。フレイヤが『ある事件』でリリーファーに乗れるようになって、そのあと様々なことを教えてくれたのが当時同じ基地で起動従士として在籍していたグラン・フェイデールだったのだ。


「さて……それでは向かうとするか」


 戦う時が来た。

 自らの持つ力を、相手に見せるその時がやってきた。

 リリーファーとリリーファーで戦う、スマートな戦争、その真髄が始まる――。

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