第49話
インフィニティのコックピットに彼が乗り込んだのは何回目になるだろうか。
先ず、三十五歳の身体で乗り込んだ一回目。あれはどちらかといえば、『困惑』が彼の心を満たしていた。
そして二回目。大会のとき、赤い翼のリーダーに言われ乗り込んだときは、作戦を考えていたからか、意外にも冷静を保っていた。
そして、三回目。
彼の心は『憎悪』で満たされていた。
そこはかとなく、そして何物にも代えがたい『憎悪』。
『……マスター、ご命令を』
フロネシスの言葉を果たして聞いていたのかどうかは解らないが、彼はただ一言――こう言った。
「あのリリーファーを……殲滅する」
それは命令ではなく宣言に近かった。エスティを殺したリリーファーを倒す――もはや彼の頭の中にはその考えしか無かった。
『――かしこまりました』
フロネシスは人間ではない。オペレーティング・システムだ。マスターの命令は何でも聞くよう、プログラムが施されている。
だからフロネシスはその命令に逆らうことは出来ないし、逆らうことを許さない。
そして、インフィニティは心を憎悪で満たした崇人を乗せて、ゆっくりと動き出した。
それを見たマーズは舌打ちした。
「幾ら何でも早すぎる! あのままじゃあ大変なことになるわ!」
「マーズさん、別にあのままペルセポネを倒してもらえばいいのでは……」
マーズの言葉にコルネリアが訊ねる。
「そんな甘い話じゃあないわ。今のタカトは心が不安定な状態にあるのよ? そんな状態で戦闘なんてさせてみたら何が起こるか……想像も出来ない」
「それじゃあお前たちは、あの騎士団長サマを止めるわけか」
ヴァルトの言葉にマーズは頷く。
それを見てヴァルトは、小さく首を振った。
「だとしたら現時点で俺たちに出来ることはない。安全圏で見守ることにするよ」
「えぇ、そうしてもらった方が有り難いわ。ただし、エルフィーとマグラス、彼らは借りていくわ」
「好きにしろ」
恩に着る、そう言ってマーズたちはリリーファーが保管されている基地へと向かった。
「あれでいいんですか、リーダー」
「ん。ローグか。お前いつの間に居たんだ。……まあ、そういうのは相変わらずだな」
ヴァルトは振り向くと、そこには凡てを黒く塗りつぶしたような人の形があった。少しだけ見ると生きている人間とは思えないくらい、生きている気配を感じなかった。
「……ローグ、その『死んだような』気配はどうなんだ? いや、仕事の時は構わんが、私の時くらいはそういうのをやめてくれよ」
「すいません、不器用なもので」
ローグは頭を下げると、漸くその『死んだような』気配を漂わせるのをやめた。
「……まったく。それは困りものだぞ。それ以外ならば君は完璧な人間だというのにな」
その言葉に対し、ローグは何も答えない。
「……まあいい。ともかく、ここから逃げるぞ」
「はっ」
その言葉を聞いて、ローグは姿を消した。
残りの『新たなる夜明け』も、それを見て、歩くヴァルトのあとを追った。
◇◇◇
リリーファーが置かれている基地は、幸いにも壁からそう遠くない位置にある。
おかげでマーズたちはそう時間もかからずに基地まで辿り着くことが出来た。
「どうしたのよ、そんなに慌てて……! それにあの衝撃は……!」
基地に入るやいなや、待ち構えていたルミナスが激昂していたが、マーズはそれを軽くあしらう。
「そんなことより、リリーファーはどこ」
「リリーファー? ……地下にあるに決まっているじゃあない。あれ、エスティさんは?」
「……エスティは、死んだ」
マーズのその言葉を聞いて、ルミナスは耳を疑った。
何もいうことも出来ず、ただそこに立ち尽くしていた。
それを見て、マーズは話を続ける。
「……そして、それを目の前で見たタカトがペイパスのリリーファー、『ペルセポネ』と戦ってる。しかし彼は今……どちらかといえば『暴走』しているわね。それを何とかして止めないと。ペルセポネを破壊したあとは、どこにその手が向かうかも解らないわ」
「マーズさん、ペルセポネはペイパス一のリリーファーとして知られていますよ。それに、一時期はラトロが作った最高傑作とも言われていた、リリーファー……なのにどうして、それでもタカトが勝つと?」
訊ねたのはヴィエンスだった。
「ヴィエンス、流石に調べているわね。そう、たしかにあのリリーファー『ペルセポネ』は強い。だからといって、タカトが乗っているリリーファーのことを忘れちゃいけないわ。あの最強のリリーファー≪インフィニティ≫のことを……」
「インフィニティ……そんなに強いんでしょうか?」
さらに、エルフィーが訊ねる。
「強いなんてものじゃあない。もしかしたら私たちのリリーファー凡て出揃ってもあの力を止められるかわからないくらいの実力、それが≪インフィニティ≫よ。『有限』だなんて言われているけれど、そんなことは有り得ない。あれは実際には有限であって、理論上無限にその力を引き出すことが出来る……とされている」
「詳しいのね、あのリリーファーに」
ルミナスが、目を背けて言った。
マーズは、それほどまで知らないけれどね、とだけ言って、ルミナスに頭を下げて、その場を立ち去った。
◇◇◇
その頃。
エレン・トルスティソンはリリーファー『ムラサメ』に乗り込んでいた。
コックピットにあるのは、今までのリリーファーにあるコントローラとは異なり、コンピュータのキーボードだ。キーボードは幾つも存在するが、その中の、彼女の目の前にあるそれに手を置いた。
彼女以外の――魔法剣士団と呼ばれる存在も――すでにムラサメに乗り込んでいた。あとは、起動命令を待つのみである。
ため息をついて、改めてそのキーボードを撫でるように触る。
「このリリーファーの初陣だ」
このリリーファーは、ラトロが全精力をかけて開発した最強のリリーファーだ。
ラトロの科学者が、最強と謳われるインフィニティを超えるために開発したリリーファーだ。
インフィニティ以外に負けることなど有り得ないし、インフィニティに負けることも有り得ない。
しかしながら、彼ら科学者はインフィニティのデータを完全に獲得していない。
そのためか、対インフィニティ用装備は不完全なものとなっている。
しかしながら、ほかのリリーファーには絶対に負けることがない――それが『ムラサメ』である。
「だからこそ、負けるわけにはいかないのよ……!」
彼女は拳を強く握る。
『――どうかしましたか、リーダー』
そこで、スピーカーから声が聞こえた。
透き通った優しい声だ。
「ああ……大丈夫だ、エルナ。問題などないよ」
『そうかしら? ひどく疲れているように見えるけれど』
見えてなどいるわけがない――エレンは小さく呟く。
エレンとエルナは、同じ学校のクラスメートでもあり、同じ孤児院の出である。
魔法剣士団は、皆身寄りのない子供から構成されている。上は十七歳、下は八歳とその差は大差ない。しかしながら、剣士団は全員子供でるということに変わりはない。
子供が一番リリーファーの操縦に向いている――ラトロの科学者であるピオール・アンフィリクはその著書の中で述べた。
発達途上の子供のほうが、発達しきった大人よりも制御しやすいのがリリーファーの特徴だ。なぜそうなのかははっきりしない。
ただ、ピオールの著書では、『発達途上の子供の方が、大人よりも複雑な操作を覚えやすい』と述べている。(しかしながらアリシエンスのような例外もあるため、一概にそうとも言えないというのが現在の考えである)
そして、その著書を忠実に再現し、実行したのが、現在のラトロで最高権力者として君臨する、グロヴェント・オールクレイト率いる『三賢人』と呼ばれる存在だ。
三賢人は先ず、最強のリリーファーに見合う最強の存在を作ることにした。最強に乗るパイロットも最強でなくては、その力を真に引き出すことができない。三賢人のひとり、マキナ・ヴァリフェーブルはそう語った。
マキナ・ヴァリフェーブルを主導として、全世界から身寄りのない子供を集めた。そしてその中から、『最強』といえる遺伝子を探した。
ラトロの地下には、ある人間のDNAを保管している。
伝説の起動従士、イヴ・レーテンベルグの遺伝子だ。
イヴ・レーテンベルグは世界最初のリリーファー『アメツチ』を操縦した起動従士として、その名を歴史に刻んでいる。
アメツチはラトロが開発したものでない、と一部の歴史書ではそう記されているが、それが正しい歴史である。
ラトロに残されていた歴史書にも、そう記されているのだ。
ただし、ほかの場所にある歴史書よりも、その部分は事細かに記述されている。
それによれば、アメツチは発掘されたものであった。
しかしそれとともに、棺桶が発掘されたのだ。
棺桶の中には、ひとりの少女が入っていた。
死んでいるのか、生きているのか、わからない。
はじめ、それを見た人間は、人形なのではないかと思った。あまりにも精巧すぎて人間と間違えているのではないか、そう思った。
しかし、彼女は、困惑している人間をよそに目を開けた。
彼女は、人間に目をくれず立ち上がると、一目散にアメツチの元へ向かった。
倒れていたアメツチの胸に立つと、彼女はアメツチに吸い込まれていった。
突然のことで何も言えなかった人間だったが、直ぐにその光景に驚愕することとなった。
なぜなら、アメツチは突如として起き上がったからだ。
人間は逃げ出した。なぜなら、そのロボットが攻撃をするのではないか――そう思ったからだ。
しかしながら、いつまで経ってもそれをする気配がない。
恐る恐る振り向くと、そのロボットが手を振っていた。
これが、世界最初のリリーファー『アメツチ』と、世界最初のリリーファーを乗りこなす起動従士、イヴ・レーテンベルグの、歴史書に残された一番古い史実である。
イヴ・レーテンベルグはその後、どのような人生を送ったのかははっきりとしていない。
だが、イヴ・レーテンベルグが世界最初の起動従士としてその名を知られるようになったのは事実だ。
そんな彼女の遺伝子が、どうしてラトロにあるのか、今はもうはっきりとしない。
ラトロにあるその遺伝子は、言わば彼らの持つ最終兵器でもあった。
彼女の遺伝子と合致した遺伝子を持った子供を見つけ、それを鍛え上げる。そうすることで、彼女を大量生産出来ると同じ意味となる。
そして、最強の起動従士達――兵団はつくりあげた。
次はリリーファーだ。
リリーファーを手がけたのはヴェルバート・アンフィリクである。ピオール・アンフィリクの子供である彼もまた、リリーファーの権威として知られている。
ヴェルバートは先ずあるものに着目した。
それはコマンドだ。今までリリーファーコントローラーが球体だったりレバーで操作したりしていたので、そのコマンド数はとても少なかった。
これが、リリーファーの行動を制限しているのではないか――ヴェルバートはそう考え、|操縦席(コックピット)の刷新を行った。
その結果生み出されたのが、『キーボード』であった。
コンピュータのキーボードをモチーフに、コックピットを造り変え、制御方法を大幅に変更した。
そして、それによりコマンドの数が大幅に増加した。
コマンドの数を増やしたことで、今までに実現できなかった機能が実装出来た。
コマンドの組み合わせによってはアクロバティックな操作が可能であるし、装備とともに使うことで、最強のリリーファーと云える。
最強のリリーファーは、最強の装備をしていなくてはならない。
そのために、そのリリーファーには『クロムプラチナ』という特殊な金属を躯体に使っている。クロムプラチナはクロムと白金を特殊な技法で結合させ、新たな金属を作った、その結果である。クロムは希硫酸、希塩酸に弱く王水に強いが、プラチナは代わりに酸に対して強い耐食性を持ち、王水に弱い。これらを組み合わせることで、『絶対に融けない』金属が完成するのである。
そのクロムプラチナを全身に使ったリリーファー、それは最強の硬度を誇ったリリーファーであった。
さらにピークス-ループ理論を使った、PR型エンジンを用いて、エネルギーの生成スペースの省スペース化を図った。
そのリリーファーに、ヴェルバートはこう名づけた。
「このリリーファーの名前……それは『ムラサメ』だ。ムラサメは最強のリリーファー、誰もがその名前を聞いて、誰もが恐怖する! そうだ、ムラサメ! ハッハッハ……、ついに≪インフィニティ≫をも上回るリリーファーが完成したのだ!!」
ヴェルバートはこれをムラサメと名づけ、さらにその量産化を図った。それが成功したのは、最初のムラサメが完成してから、三年後のことだった。
その頃には、イヴ・レーテンベルグの遺伝子を持った子供達の選別が完了していた。
その数、十六名。
その子供達の教育を行ったのが、ベルーナ・トルスティソンだった。
子供達に行ったのは、苗字を奪うことだった。
それにより、自分の親の存在を忘れさせることを狙った。そしてそれは実際に成功した。
子供達は絶対にカーネルを裏切るようなことをしてはならない。
子供達は、これから『最強』のリリーファーを操縦する最強の起動従士にならねばならない。
子供達がカーネルを裏切ったとき、カーネルは終焉したといえる。
だから、ベルーナは先ず、子供達をカーネルに絶対服従させることをした。
簡単に言えば、洗脳である。
そして、結果として、子供達はカーネルに絶対的な忠誠を誓い、最強になるための訓練を積んだ。
しかしながら、子供達全員が起動従士になったかといえばそうではない。
子供達の一人の洗脳が解け、突然リリーファーに突っ込んだのだ。
リリーファーはほかの子供がすでに乗り込んでおり、駆動していた。
その一人はリリーファーの進路に突入し――そして死んだ。
その行動に、ベルーナはほかの子供達も洗脳が解けるのではないかと思い、さらに強い洗脳を子供たちにかけたが、結果としてベルーナが危惧するようなことには至らなかった。
十五人となった子供達はそのまま起動従士となり、そして子供達はその子供達の固有名詞として、こう名付けられた。
「あなたたちは……最強の存在なの。最強のリリーファーに乗ることが許された、最強の存在なのよ。魔法も使える、最強の剣も持っている。あなたたちはこの訓練によく耐え抜いて来れた。あなたたちは、もう誇っていい。あなたたちは、選ばれた存在なのだと。……もう、『|子供達(チルドレン)』とは呼ばない。あなたたちは、こう呼ばれるべきなのよ。……『|魔法剣士団(マジックフェンサーズ)』と」
魔法剣士団は最強のリリーファーに乗ることが許された、最強の存在として、来る時を待って訓練を重ねていた。
そして、今日。
カーネルは『独立宣言』をし、魔法剣士団にも『出動命令』が下った。
魔法剣士団の面々は「ついに来たか」と、胸を躍らせた。なぜなら魔法剣士団は戦闘に特化した面々だ。今まで擬似戦闘ばかりだった魔法剣士団にとって、これは初めての『本物』の戦闘ということになる。
本物の戦闘と擬似戦闘は、やはり違う。
何が違うといえば、臨場感。それにスリルが違う。
コンピュータのシミュレートによる擬似戦闘では味わえないスリルと臨場感を、魔法剣士団の面々は楽しみにしていた。
そして、話は彼女たち――エルナとエレンの会話に戻る。
『疲れていない……それは事実だと受け入れます。ですが、何かあるのであったら、私に言ってください。隠し事は良くないですし、そもそも私たちは同じ孤児院の出。何を言っても構わないのですから』
「……ありがとう、エルナ。でも、大丈夫。私はリーダーだからね」
そう言って、エレンは通信を切った。
エレンは通信を切って、小さくため息をついた。
彼女は、いや魔法剣士団の全員は戦闘が好きだ。
しかし、実際に戦闘が始まる――そう考えてみると、その恐怖に打ちのめされない方がおかしいのであった。
怖い。
恐怖に打ちのめされている自分がいることが、とんでもなく情けない。
エレンは思った。
情けないこの気持ちを、ほかのメンバーに見せてはならない。
魔法剣士団の面々は殆ど平等の実力を持っている。
即ち、ここでエレンが一瞬でも泣き言を見せれば、直ぐにほかの人間にリーダーが変わってしまう。
それは絶対に、あってはならないことだった。
それは彼女のプライドが許さなかった。
彼女のプライドが、そのような行為に至ることを許さなかった。
彼女の苗字である『トルスティソン』は、実際には彼女の苗字ではない。彼女たち魔法剣士団を『教育』したベルーナ・トルスティソンの苗字である。彼女が認めた存在――リーダーは彼女の苗字であるトルスティソンを冠するのである。
魔法剣士団にとってトルスティソンの苗字を手に入れることは、とても素晴らしいことだ。どんなことをしてでも、それを手に入れようとすることは、もはや当然と思える。
そして、エレンに次いでナンバーツーになっているのが、先程会話を交わしたエルナであった。
エルナとエレンはクラスメートで、ともに実力が高い存在だ。
それゆえ、はじめベルーナもどちらをリーダーにさせるか、とても悩んだが、最終的にエレンがリーダーになるべきという選択をした。
エルナは表面には出していないが、きっとエレンがリーダーになったことについて、深い憎悪を抱いている――エレンはそう思っていた。
だからこそ、彼女にはあまり心を許してはいない。
場合によっては、戦闘のどさくさで闇討ちされる可能性もあったからだ。
『――総員に告ぐ』
ベルーナの声がコックピットに響いたのは、その時だった。
『これより、「魔法剣士団」は出動する。ターゲットは≪インフィニティ≫。繰り返す、ターゲットは≪インフィニティ≫である。幸運を祈る』
それだけを告げて、ベルーナとの通信は終了した。
エレンは目を瞑って、精神をゆっくりと落ち着かせていった。
そして。
「――了解、『魔法剣士団』エレン・トルスティソン、出る!」
魔法剣士団が乗り込んだムラサメが、続々と飛び出していった。
≪インフィニティ≫に乗り込んだ崇人はひどい絶望に苛まれていた。
なぜ彼女が死ななくてはならなかったのか。
なぜ彼女は助けを求めようとしなかったのか。
崇人はずっとずっとずっとずっと考えていた。
『……いかがいたしますか、マスター』
「このリリーファーが出せる、最強の装備を……使う」
崇人には、もう相手を倒すことしか考えていなかった。
どうやって倒すのではなく、ただ、倒す。
方法は決めない。
ただ――目の前にいる敵を倒すのみ。
それが彼の思考を独占していた。
インフィニティのAI、フロネシスはそれに従うしかない。
彼女にその命令に抗う権利など存在しないからだ。
インフィニティは、フロネシスが操作する。
インフィニティの躯体に装備されていた、銃口がゆっくりと外に出てくる。
他のリリーファーにとって、エネルギーの消費が莫大過ぎる故に装備されなかった荷電粒子砲、エクサ・チャージ。
元々規格外の装備であるにもかかわらず、彼のパイロット・オプションである|満月の夜(フルムーンナイト)、それがさらに性能を限界までに引き上げる。
それを行うことで、インフィニティは、もはや他のリリーファーに負けることは有り得ない。
「エクサ・チャージにエネルギーを注入しろ」
崇人の声は、意外にも落ち着いていた。
そして静かだった。
フロネシスは、それに対し返事をしなかった。
そしてゆっくりとコックピットが震え始めた。インフィニティに装備されているモーターが駆動し始めたからだ。インフィニティは毎時十エクサボルトエネルギーが生成される。そしてエクサ・チャージはそのうち九エクサボルトを消費する。インフィニティは常に毎時一エクサボルトを消費するだろうと設計されているらしく、エクサ・チャージを撃つ時以外は、最大までエネルギーを生成しない。
今の振動は、エクサ・チャージのエネルギーを充電しているためである。
エクサ・チャージはその莫大過ぎるエネルギーの消費故にそれを撃ったあと、一時間は撃つことができない。エネルギーの保存が出来ないために、このような不便なこととなっているのだが、今の崇人はそれを知る由もない。
『「エクサ・チャージ」エネルギー充電まで残り二十秒です』
「解った。充電完了後、遅滞なく撃ち放て。目標は『ペルセポネ』だ」
『了解しました』
フロネシスは静かにそれに答えた。
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