第22話

 アーデルハイトは一先ず自分の部屋へ戻ることとした。試合に向けて調整するためである。


「……汗かいちゃった。シャワーでも浴びようかしら」


 そう言うと、ベッドに服を凡て脱ぎ、タオルを持って彼女はシャワールームへと向かった。

 シャワーを浴びながら、彼女は考える。

 『赤い翼』はティパモール地域の解放を目指しているテロ集団だ。そのためならば、『インフィニティ』を操ることのできる崇人は格好の交渉材料となる。

 だが、問題はヴィーエックの方だ。彼は一般の学生である。家庭も一般家庭だ。そんな彼を誘拐しても『赤い翼』にはメリットがあまりない。


「だからこそ、だ。どうして、赤い翼はヴィーエックを誘拐したんだ……?」


 しかし、それは今のアーデルハイトには解らない事だった。



 ◇◇◇



 その頃。

 崇人はある部屋で目を覚ました。どうやら、腕を椅子に縛られているらしかった。


「……目、覚ましたか?」


 気がつけば、壁際にある椅子にひとりの男が座っていた。その男は迷彩服に身を包んでいて、右頬には大きな傷があった。まだ白髪がないことからして、それほど年はとっていないようにも見えた。


「……あなたたちは、いったい何をしようとするんですか」

「ああ、別に取って食おうとは思わねえよ。ただ、お前がちゃんとしてくれなくちゃ、それも保障は出来ないがな」


 男はそう言うと、ポケットからビスケットの包を取り出し、それを開けて崇人の口に近づける。


「ほら。飯食え。今はこれくらいしか出せないが、もう少しすればお前にもちゃんとした飯を出せるはずだ。お前には一応、死んでもらっては困るとの命令が下っているからな」


 それを聞くと、崇人はビスケットを口で受け取った。若干湿気っていたが、今はどうこう言っている場合ではない。

 今の崇人は、所謂捕虜という立ち位置にある。捕虜をどうするかは、捕虜を捕まえた組織に一任されるのだから、即ち崇人の命は今、『赤い翼』に一任されていることとなる。


「……ああ、だから舌噛みちぎるとかしないでくれよ? したら俺が全責任負わされて殺されちまうからな」


 男は再びニカッと歯を出して笑った。


「正直なところ、お前さんが最強のリリーファーの起動従士とか、思えねえんだよな」


 そう男は独りごちる。

 それはそうだった。崇人自身ですら、時折このステータスに違和感を覚える。

 そもそも、彼はこの世界の住民ではない。元々いた世界では平平凡凡といた人間が、この世界で特殊な役割についている。

 これは偶然なのだろうか?

 もしかしたら、ここに崇人が来ることが解っていたのではないだろうか?

 崇人は時折、そんなことを考えるのだった。


「まあ……、変な話だ。お前さんみたいな小さい子供が世界を救っちまうようなリリーファーを操縦できるってんだから。あー、俺も小さい時はリリーファーの起動従士になりたくてな、毎日訓練学校に行きたい行きたいと親にせがんでいたっけな……」


 男の話は続く。


「俺の家庭は貧乏でさ。俺を学校に連れて行くことはおろか、俺を養うことすらきつかったんだとよ。けれど、母親がどうしても俺を連れて行きたかったんだ。学校にな。なんでも母親は遊女……といっても解らねえか」


 崇人は遊女の意味を薄々ながら知っていたが、一先ず頷く。


「遊女ってのは宿場とかで男の相手をする女のことでな……。それで、うちの母親は、俺を妊娠したらしい。つまり、俺の父親は解らねえってこった。……おっと、慰めの視線を送らないでくれよ。こっちが困っちまうからな」


 崇人はただじっと男の話を聞いていた。男の目を見ていたのは、逃げるタイミングを見計らっていたわけではなかった。

 少なくとも、崇人のもともとある力では、ここを抜け出すことなどできない。


「それでな、俺の母親はずっと働いていたんだよ。遊女ってのはまともな働き先も無くてな、かなり苦労していたよ。何故なら、毎日みるみるうちに痩せていったんだから」


 崇人は目を瞑る。これからの結末が、どことなく予想できたというわけではない。この話から、逃げ出したくなったからだ。

 この世界にもしもカミサマというのが居るのであれば、そいつは薄情すぎる存在だと崇人は思った。


「それでもなんとか俺の母親は頑張って稼いでくれた。だけれど、それはとても俺と母親が食えるほどの稼ぎではなかった。だから俺も働いた。銃を持ち、地雷原に突入し、敵を殲滅する。リリーファーの起動従士を夢見ていた頃とは大違いのことだ。……最初に撃つ時は酷く怖かったよ。撃って殺した相手が夢に出るんだ。『なぜ殺した』『お前も殺してやる』とな」

「今も……夢に出るのか」

「ああ。今も、だ」


 男は小さくため息をつく。


「だが、この職について後悔したことはないよ。……目的もあるからな」

「目的?」

「クルガード独立戦争を覚えているだろう。そこで、ティパモールも戦争の被害にあった。それで……俺の母親は殺されたんだよ、ヴァリエイブル率いる連合軍にな」


 男はそう言って、椅子に立てかけてあったアサルトライフルを手に取り、それを舐めるように見る。


「……俺はそれを目の前で見た。そして、殺したヴァリエイブル軍を一人でメッタ刺しにした。何十人殺したかも覚えちゃいねえよ。……そして、殺した人間の返り血で真っ赤になった俺を拾ってくれたのは、赤い翼のリーダーだった」


 男の過去は、崇人が予想していた以上に、残酷だった。

 だが、崇人はそれを聞かないわけにはいかなかった。

 現実から、逃げてはならなかった。


「それから俺は『赤い翼』の構成員として生きたよ。ヴァリエイブル軍に奪われた母なる大地……それを取り戻すために、俺は何だってやった。何だって、な。生きるため、大地を、生まれた場所を、取り戻すために」


 男はライフルを椅子に再び立てかける。


「そして、俺らは漸く『インフィニティ』という最強のリリーファーがヴァリエイブルにあることを掴んだ。そして、それが誰も動かすことのできないものだということも、な。インフィニティがどこにあるのかは解らなかったから、まずそれを探さなくてはならなかった。インフィニティは、倉庫に保管されていることだけが解っていたが、さすがに国の重要機密。そう簡単には見つからなかった」

「なら、どうしたというんだ?」

「だから、その時にある情報を手に入れた。『インフィニティを操ることができる人間が現れた』とね。そして、その名前も同時に判明した」

「それが俺、と」


 その言葉を聞いて、男は頷く。

 男は大きな欠伸を一つして、話を続けた。


「そして、俺たちはこの大会に合わせて準備を進めた。目的はお前を捕まえること。そして、それによってヴァリエイブルに交渉を持ちかける。それにより、ティパモールを解放する」

「……果たして、そんなことができるのか?」

「それはお前の価値に限ってくる。お前の価値は高い。なぜなら、誰にも扱えないリリーファーを扱えるのだからな」


 確かにその通りだったが、崇人は自分自身の価値を未だに理解できてはいなかった。

 自分の価値とは、自分自身で理解するには一番に難しい。

 それは、自分を客観的に見ることのできる人間が、あまりにも少ないからだ。崇人もその大部分に入る。だからこそ、彼はその意味が理解しかねた。自分がそれほどの価値を、果たして持っているのかと疑っていた。


「気を落とすな。お前自身は知らねえがな、俺らにとっちゃ金の卵だ。何を生み出すか解らねえが、すげえものを生み出すってのは誰にだって理解できる。お前はそういうものなんだよ。だから、俺らはお前を誘拐した」

「ちょっと待て。……ならば、ヴィーエックは誘拐していないということか?」


 ここで、崇人はひとつの疑問をぶつけた。

 ほぼ同時刻に誘拐された、ヴィーエックのことだった。もし彼らが誘拐したのであれば、何か知っているはずだからだ。

 しかし。


「……ヴィーエック? 知らねえな。俺はお前しか捕まえる命令をもらってねえし」


 男は小さく首を振って、言った。



 ――ならば、ヴィーエックはどこへ行ってしまったのか?



 そんなことを考えながら、崇人は上を見上げた。そこには煤けた天井が広がっていた。



 ◇◇◇



 その頃。

 ヴィーエックが目を覚ました場所は、白い部屋だった。

 何もない、白い部屋。凡てが白で覆われた空間だった。


「こ、ここは……?」


 ヴィーエックが身体を起こすと、そこには先ほどの少年が立っていた。少年は小さく微笑んで、言う。


「ここは、『世界の始まりの場所』なんだよ!」

「世界の……始まり?」


 ヴィーエックのその言葉を聞くと、少年は持っていた本を開く。


「これは世界の始まりから何まで凡てが書かれている本です。それの第一項には『白の部屋』が完成したことが書かれています。即ち、ここが歴史の始まりとなった場所。転じて、世界の始まりなのです」

「世界の始まり……に、なぜ僕はいるんだ?」

「それは、世界の始まりを理解するためです」

「理解するため?」


 ヴィーエックは首を傾げる。


「そうです。世界の凡てを理解する……そうでなくては、先ずなにも出来ません。特に、強い力を手に入れるためには、ね」


 そう言って、少年は指を弾く。

 すると壁が競り上がり、壁の外の風景が漸く見ることができた。

 そこに広がっていた光景は――まったくの『無』だった。何もない。白という一色で表現できる空間とはまた違う。何もない、無の空間がそこには広がっていた。


「世界は、こんな小さな箱庭を最初として始まったんだ。勿論、生き物なんて最初は何にもなかった。……けれどね、気まぐれかどうかは知らないけれど、あることが起きたんだよ」

「あること?」

「この部屋が、崩壊しかけることさ」


 そう言って、少年は手に持っている本のページを変える。そこにはそう書かれているのだろう――とヴィーエックは思った。


「この部屋が崩壊したら、この時点では生き物が育つことはなかった。けれども、元々そこには生き物はいなかったわけだから、意味はない。だけれど、ちょっとした切欠があれば、生き物は繁栄することができた。その切欠というのが――部屋の半壊によって得られた、外空間だよ。この部屋は自動的に修復されるのだけれど、その際誤って『少し広く』直してしまった。そして、それが……運良く生き物を作ることに成功してしまった、というわけさ」


 ヴィーエックは立ち上がり、部屋の様子を見る。現時点では、部屋はただの部屋である。ベッドがあり、その横には天井までつくほどの大きさの本棚があり、なんとテレビまで備え付けられている。

 物珍しい目で見るヴィーエックに少年は言う。


「ああ、これは今の君たちの文明レベルにあった部屋構成だからね。勿論、僕が言った時代にはこんなものなんてなかったよ。……ベッドも勿論無かったさ」

「文明が発展するごとに……ここも発展していく、ということか?」

「That's right! そのとおりだよ。ただし、文明が衰退しても、ここの文明レベルは変わらないけれどね。発展するときは、発展していくんだ」

「それでも、ここの部屋の壁紙は変わらないのか」


 ヴィーエックは壁を触りながら言う。壁の感触はざらざらと粗が目立つ感じではなく、ツルツルとしていた。ニスでも塗ったのかというくらい照り付けがあるほどだ。


「そうして偶然に生き物は生まれたわけだけれど、そこで一旦部屋を彼らのものにしたんだ」

「なぜだ? 別に持ち主はそのままでも良かったんじゃないのか?」


 ヴィーエックの言葉に、少年はため息をつく。それを見て漸く彼は何か間違ったことを言ってしまったかと考える。


「もしこの部屋に『持ち主』が居るとするなら、の話だけれどね。……少し考えてみてはどうかな? 与えられたり、自分で作ったりしたものを、絶対に壊さずに一生管理し続ける自信があるか? 僕にはないし、恐らくそれは誰にだってないと思うがね」


 それを言われると確かにそうだった。実際に考えてもみればそんなことは解る話だった。白い部屋を一生管理し続ける生物が仮にいるとするならば、そんなことをし続けるのは非常に無意味だ。意味がないことをするのもまた、非常に無意味だった。


「……と、待てよ。だとしたら、この部屋は今後その生き物が育てていったのか?」


 ヴィーエックが訊ねると、少年は小さく鼻歌を唄う。


「それじゃ、話の続きをしようか。その生き物に部屋を譲ってから、しばらく経った。もともと『部屋』には沢山の技術があり、それをもとに部屋を発展させていった。生き物は生き死にを泡沫のように繰り返し、代を変えていった。そしてある日……『彼ら』は遂にこう言ったのだ」



 ――この世界は、私たち自身の手で発展させたものだ



「……とね。それは、違うと元の持ち主……それは、その生き物たちにとって『カミ』とよばれるモノが言った訳だ。そして、その生き物から部屋を取り上げようとした。だが……考えてみれば解る。そのとき生き物たちは恐ろしい程に数を伸ばしていて、それらから簡単に取り上げることなど出来なかった。……ならば、どうすれば良いか」

「……どうしたんだ?」

「追い出せないのなら、殺してしまえばいいと思ったわけだ」


 その言葉を聞いて、ヴィーエックは思わず身震いした。

 少年の声は、ひどく冷たかった。

 だが、身震いした理由はそれだけではなかった。

 そうも簡単に、殺す手段に至るということに、彼は驚きを隠せなかったのだった。


「……それで、どうしたんだ」

「簡単だ。世界全体に大洪水を発生させた。それによって……その生き物の大半は死ぬこととなったよ。ただ一種類の存在を除いて、な」

「一種類?」

「それこそが、君たちが『シリーズ』と呼んでいる存在だ。……いや、聞いたことがないかもしれない。『シリーズ』というのは、簡単に言えば最初の生き物の末裔ということになる。『シリーズ』は全部で七種類居た。その七種類には異なる特徴を持っていたが、数少ない共通点も、確かに存在していた」


 ヴィーエックは、少年の話が飛躍的すぎて正直なところ理解出来ずにいたが、今の言葉で更に理解を難解としていった。さっぱり解らない。

 シリーズという存在が、原始の生き物の末裔だという。それが仮に真実だとして、しかしこの部屋の存在は未だ明らかにはなっていない(少年は『世界の始まりの場所』等と言ったが、それでもそれがそうだという確証はつかめないし、そもそもヴィーエック自身がそれを信じていなかった)。

 少年の話は、あまりにも謎が多すぎる。

 しかし、それから『疑う』などと言うことは、まったくしなかった。


「数少ない共通点の一つには、あることがあった。それは、『カミ』からの厳命が下っていたことだ」

「カミからの……厳命?」

「そうだ。例えば、『ハートの女王』という存在は、自らが生きるための術というか、はたまた別のことかは解らないが、こう命じられていたそうだ。……『悪人は、処罰せよ』と」

「悪人…………処罰…………」

「そうだ」


 少年はニヤリと笑みを浮かべる。


「悪人は、誰が決めるかと言えばそれはまた別なのだけれど、ひとまず、『ハートの女王』が命じられたことはそのことなのさ。それはなぜそうするかといえば、その後に生きる生き物の行動を制限するためだった。例えば、これが居なければ、娘を殺された父親は犯人探しに躍起になるだろうし、犯人は必死に逃げる。そして、父親は血走って犯人をそのまま殺してしまうだろう。そうすれば、父親も極悪人となる。しかし、『ハートの女王』が居ればそんなことなど問題ではない。……つまるところ、『シリーズ』はこの部屋の守護神、秩序を守るべき存在となるね」

「秩序を守る存在……?」

「そうさ。秩序を守るには、自ずと絶対的な力を必要とするわけだ。……さて、漸く本題に入ろう。ヴィーエック・タランスタッド。君は……絶対的な力が欲しいか? 誰にも左右されない、圧倒的な力が」


 ――そうだった。ヴィーエックは改めて自らがここに居る理由を考えた。ここに来た理由は、『力』のためだった。

 ヴィーエックは崇人とも話していたように、この世界の住人ではない。別の世界の住人である。だからこそ、元の世界へと帰る手段を模索していた。

 正直なところ、今回初めて崇人と会話した時に、感じた印象が、明らかにヴィーエックの予想しているものとは違った。

 ヴィーエックは「さっさと帰りたい」的な気持ちで心が満たされているのだろうなどと思っていたのだが、実際の崇人はそうではなく、「帰りたいは帰りたいがまずはこの世界をどうにかしよう」という思いが表情から浮かび取れたのだった。

 崇人の本心が表情から読み取ったものとおりであるとするならば、ヴィーエックは二人での脱出が不可能だと考えていた。だとするならば、彼には絶対的な力が必要だった。

 この世界を牛耳ることが出来るほどの絶対的な力があれば、きっとこの世界から脱出することも出来るはずだと考えていた。

 しかし、その考えが既に歪んだものであるということは、今の彼にはそれを検証することも考えられなかったのであった。


「さあ。どうする? ……力が欲しいなら、言ってみろ」


 その言葉に、ヴィーエックはゆっくりと頷き、そして言った。


「力が欲しい。……どんなものでも屈するほどの、最強の力を……!」

「よくぞ言った」


 そう言って、少年はシニカルに微笑む。少年は服のポケットを弄(まさぐ)って、あるものを取り出す。

 それはエネルギー体のようにも見えた。赤く輝く、球だった。

 大きさはテニスボール程の大きさで、それはぼんやりと輝いていた。


「……これは、『ハートの女王』のコアさ。これを君に授けよう。だが……いくら『起動従士の卵』とはいえ、シリーズになれるかは怪しい。これが起動従士ならば可能性は充分に高まるのだがね。そもそも、僕たちのレゾンデートルはそれほどに曖昧なものだということだけれど」

「……ねちねち言っていないで、やるならさっさとやってくれ。心変わりしないうちに、だ」


 ヴィーエックがため息をつきつつ言うと、少年は口を手で隠しながら、嫌らしそうに笑う。


「ああ……ああ……分かったよ。それじゃ、君に今からこれをブチ込む。一応言っておくが、どうなっても僕たちは責任を取らないから。そういうことでー」


 そう言って、

 少年はその球体を、ヴィーエックの心臓のあるあたりに強引に突っ込んだ。

 ヴィーエックは既にそれを決めたのだから、もう後悔することなどないと思っていた。

 だが、その球体をヴィーエックの身体に捻りこまれて、彼は想像を絶する苦痛に襲われた。

 それは地獄の業火に焼かれているような苦痛だった。

 それは全身を串刺しにされているような苦痛だった。


「うっ…………ぐあぁ……!」


 ヴィーエックの苦痛に歪む表情を、ただ少年はニヒルな笑みを浮かべて見ていた。

 そして、ヴィーエックに襲われた苦痛は――唐突に止まった。


「……成功のようだね。目を覚ませよ」


 少年の声に素直に従って、彼は目を覚ます。

 どうやら彼は横たわっていたらしい。ゆっくりと起き上がり、あたりを眺める素振りをした。


「……分かるか? 僕がどんな奴か?」

「――『シリーズ』のうちのどなたかということは理解出来ます」


 彼は今までとは違い堅苦しい口調で言う。


「そうだ。僕は『シリーズ』のチェシャ猫というよ。ほかのメンバーは追々紹介しておくとして……君は自分が誰だか、言えるか?」

「自分は……『シリーズ』に属する『ハートの女王』と言います」

「そうだ。歓迎するよ、『ハートの女王』」


 そう言って、シニカルにチェシャ猫は微笑んだ。

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