(7)
昴とかれんが会釈して野辺の家を出ようとすると、野辺の家の前にスッとホンダのN-WGNが停まって、中から二人の男の子を連れた女性が出て来た。
「わーっ! かれんちゃん! 久し振り!」
車の中から出て来たのは野辺の妻の
「あっ、三浦さん、久し振りです!」
かれんは言いながら沙奈に笑顔を見せた。
野辺の妻の沙奈は、子どもが出来るまでかれんと野辺と同じ「株式会社スカイ」で、原稿作成の仕事をしていた
かれんと沙奈はそれこそ一年くらいしか一緒に仕事してはいない。でも、かれんに取って沙奈は新人の時に営業以外の仕事のことを色々と教えてくれた、野辺の次にお世話になったような恩人だった。
沙奈はかれんが入社した時にはすでに野辺と結婚していたが、仕事を辞めるまでずっと旧姓の「三浦」で通していたので、かれんも沙奈のことを旧姓の「三浦」で呼んでいた。
かれんの勤めている「株式会社スカイ」では、結婚しても旧姓で通す女性がほとんどだった。
「かれんちゃんがまだいる時に帰って来られて良かった! かれんちゃん元気そうね。相変わらず、カワイイし」
「ありがとうございます、おかげさまで元気です。三浦さんも元気そうで」
「元気よ! まあ、子どもたちの方が元気だけど」
沙奈は車を降りた途端、野辺の周りを「ワーワー」言いながら駆け回り始めた子ども二人を見ながら、ため息交じりで言った。
「そうですね、お子さんたち、すごく元気ですね」
「でも、今日はありがとうね。もう、誰のイタズラかわからないけど、家の壁が大変なことになって……。
――ああ、今日は本当にありがとうございます。野辺の妻の沙奈と言います。後、あそこで走り回っているのが子どもたちです」
沙奈は昴に気付くと、お礼を言いながら会釈をした。
「お邪魔しています、
昴は沙奈に会釈を返すと自己紹介した。
昴は野辺の周りを走り回っている子どもたちにも、ニコニコとした笑顔を向けて会釈した。
昴が笑顔を向けた途端、子どもたちが「ワーワー」言いながら、今度は昴の周りをグルグルと駆け回り始めた。
かれんは、(またか……)と思った。
この昴、意外なことに子どもや動物にはなぜか異様に好かれるのだ。
「あれが、ウワサの昴君? カッコ良いじゃない!」
沙奈が昴を見ながらかれんに耳打ちした。
ウワサって……。
沙奈は昴のどんな「ウワサ」を聞いたのだろうか、とかれんは少々心配になった。
* * *
昴とかれんは何とか子どもたちの「おにいちゃん、あそぼーよ!」コールを潜り抜けて、かれんの車が停まっている場所までたどり着いた。
かれんが車のキーをカバンから取り出すと、横から昴がキーをスッと奪い取った。
「何? どうしたの?」
「いや、帰りは僕が運転しようかと思って。道は大体覚えたし、かれんちゃん、いつも仕事で運転してるし、たまには運転したくないかなって思って」
「えーっ、大丈夫だよ。私の車だし、私が運転する」
「いいよ、いいよ。僕の車だって、同じホンダの車だから大丈夫だよ」
昴がニコニコしながら言うので、かれんは仕方ないような表情をして助手席に座った。
でも、かれんは内心(まったく、昴は……)と、表情とは裏腹な気持ちだった。
(――まったく、昴はどうして私の思ってることがわかったんだろう)
まあ、確かに助手席でボーッとしていたい気持ちだったから良かったけど……。
「でも、本当に部長の家の壁にペンキ塗った犯人、
運転席に座って、ストーンズのどのCDをかけようかと迷っている昴に向かってかれんが訊いた。
かれんにはさっきの昴のあの行動で、どうして犯人の
「うん、大体ね」
昴は車のCDの差し込み口に、ストーンズの「レット・イット・ブリード(Let It Bleed)」のCDを入れながら言った。
「本当に?」
「本当だよ」
「じゃあ、犯人って、どういう人なの?」
「あっ、かれんちゃん、このストーンズの『レット・イット・ブリード』、よくビートルズの『レット・イット・ビー(Let It Be)』のパロディって言われるけど、ストーンズの方がリリースされたのが早いんだよ」
「ちょっと、昴! 私の質問の答えになってないじゃない!」
かれんがモヤモヤしながら昴の
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