7‐5.新たな協力者
ワーカロイドホームがお茶を出し、ソファに腰かける四人の前に置く。山岸はそれで口の中を濡らしてから話し始めた。
「すまないねぇ、研究所の方も忙しいのに」
「いえ、大丈夫ですよ。テクノにはお世話になりましたし、少しでも恩返しにでもなればいいかなと思いまして」
「恩返ししたいのはこっちの方なんだけどなぁ。ほら、これを開発してくれたおかげでこの会社も当分安泰だからね」
山岸は隣でじっとしているワーカロイドホームに目をやったあと、またお茶を口に入れる。
話し方からも分かるように、とても穏やかで優しい人だ。言動からでは、国家プロジェクトのために国と手を組んでいるとは思えない。
「聞いたよ。梨乃ちゃんがいなくなっちゃったんだって?」
「ええ、無事に見つけることはできましたけど」
「大変だね。まぁ、あんなにすごいものを作ってるんだから、苦労もそりゃあ多いよね」
一ノ瀬は一瞬疑問を抱いた。
研究所以外で梨乃のことを知っているのは首相と秘書くらいかと思っていたが、社長の発言から、この会社の人も知っているということが推測できる。
まだまだ情報を得られそうだが、こちらの情報、特に計画についてはなるべく隠さないといけない。今はとりあえず依頼の方に話題を逸らす。
「社長、それはそうと依頼の方は……。新型のワーカロイドを開発するとか」
「ああ、そうだね。企画書はもう送って見てもらったはずだし、じゃあ武井さん、あとはお願いね」
「はい、かいこまりました」
武井さんは立ち上がると、かしこまった口調で二人を案内する。
社長室を出て同じ三階を奥へと進んでいくと、廊下の奥にぽつりと一つの扉があった。
「これからここで開発をしてもらいます。お二人のほかに私と、もう一人メンバーを呼んでくるので、ちょっと待っててください」
武井は部屋から出ていった。それを見計らって一ノ瀬と双葉は部屋を見回す。
「さて、とりあえずこの中を調べるぞ」
「了解です」
設備はなかなかに良かった。研究所ほど最新鋭ではないが、ワーカロイド初期型の開発で使っていたものよりも高いスペックが揃っている。
デスクとパソコンも一人一台あるし、会議ができる大きなモニタもある。実際に作り始める前までは問題なくできそうだ。
二人はデスクの引き出しをすべてひっくり返して中を見ていき、続けてモニタ周りや会議用のテーブルの周りも調べた。
しかし怪しいものどころか、ごみくず一つすら入っていなかった。
「完全に新設備って感じですね……」
「ああ。見事に空っぽだな」
収穫はなかったが、むしろこの部屋だけでプロジェクトの真の目的が分かるわけがなかった。
早々に捜索を断念した二人は机の上に書類を広げ、依頼と自分たちの計画の両方を改めて確認し始めた。
その数分後、扉が開く音がして二人は体を震わせる。計画書を片付けゆっくりと扉の方をのぞくと、幸い戻ってきた武井だった。
「なんだ、お前か……」
「二人とも早いですね」
何に対して早いと言ったのかは定かではないが、武井は口に手を添えて失笑しながら後ろに男をつれて入ってきた。
「こちら、今回のプロジェクトに臨時で配属された寺本です」
「あ、どうもー、寺本です。小松がいつもお世話になってます!」
「こまっちゃんの友だち?」
「高校からの同級生です! 大学も一緒なんで、お二人の後輩でもありますね!」
寺本と名乗った男は小松とは正反対で、テンションが高くて不真面目そうだ。
「こんな男ですが、これでも同期の中では飛びぬけて優秀、社長からも評価をいただいているので安心してください。それはもう、嫉妬するくらいに」
一ノ瀬の考えは武井にはバレていたらしく、言葉を発する前に否定された。
「褒めてくれるなんて嬉しいなぁ。何、武井ちゃん俺に惚れちゃった?」
「惚れてない」
「辛辣ぅ。あ、でも武井ちゃんもこの年で専務候補ですから、普通に優秀ですよ」
「うるさい、黙って」
武井は隣で調子に乗る寺本に見向きもせず突っぱねる。
いつものやり取りなのだろうと考えると昔の自分たちを見ているようで、一ノ瀬と双葉は思わず吹き出した。
「何で笑うんですか!」
「いや、別になんでも!」
もっと問い詰められると思ったが、まぁいいですけど、とあっさりと終わってしまった。
とにもかくにもこの一ノ瀬、双葉、武井、寺本の四人が、小さくも精鋭ぞろいなワーカロイドオフィスの上流開発チームである。
「よろしく」「よろしくー!」
「よろしくお願いします」「お願いします!」
四人は手を差し出し、真ん中で重ね合わせた。
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