第50話乱入者って結構強い助っ人だったりそうじゃなかったり
私はカーミラさんに見た光景をありのまま伝えたけれど、一蹴された。
原因は私の説明が下手だったからだけど。
「それなら何度も言うしかないだろうな」
「だよねー」
ミランダちゃんの言ってる事が最適な方法なのは理解出来るけれど、何度も同じ説明を同じ人に対してやるのは、なんだか気が引ける。
やるべきなのは分かってる。けれど、カーミラさんは少し機嫌が悪かったし。
それにしても、カーミラさんが持ち帰ってきていた緑色の箱は一体何だろう?
聞いても何も教えてくれなかったし。
「うぅん。どうしたらいいだろう?魔眼の能力かもって言っても意味がなかったし」
「分からなかったら明日考えたら?お菓子でも食べる?」
「寝る前だからやめとく。まあ、明日考えようかな。今考えても何も思い浮かばなさそうだし。おやすみ」
「ルーンおやすみ」
「おやすみなさい」
私は布団を被った。
翌朝、私はカーミラさんのところに向かった。
説得しようという理由もあるけれど訓練だからだ。
「昨日は、どこまで進歩した?」
「まあまあですね」
「答えになっていない」
「……確かに。盾と剣と矢が出るようになりました。勝手に出てくるんですけど」
「そうか」
カーミラさんは私を見らずに笑った。
「そうかそうか」
そしてカーミラさんは小さな笑い声を口から漏らす。普通の人なら、気持ち悪いで終わる仕草も、この人がやるなら上質な気品さえ感じられる。
「なら、その盾とやらを出してみろ」
「はい!」
私はその言葉に従い、盾を出現させる。
盾と言っても、幾何学模様の何かの陣みたいな感じだけど。実際に、私が盾と言ってるだけで見た目はちっとも盾じゃない。
「ほぉ、それが」
カーミラさんは笑いながら紫電を私の盾に襲わせた。
私は盾を展開させたまま両目をつむる。
何かが吹き飛んだ音が響くけど、私には何の衝撃もない。
恐る恐る目を開くと、カーミラさんが倒れていた。
「大丈夫ですか!」
「大丈夫だ。それにしても、ふむふむ」
カーミラさんは何かに納得したかのように頷いた。
「限定的な防御と反射の概念か。もう一度、盾を出せ」
「はい!」
私は言われた通りに盾を出した。
けれど、今度は真っ正面から襲われなかった。右から衝撃が走る。
「お前の盾は一面しか発動出来ない以上、それが最大の弱点になる。そこを理解しておけ。それと、剣と矢はまだ練習してはならんぞ」
「分かりました」
「まずは、身を守る為の訓練だ。ひたすらに盾の練習をしろ」
「でも、既に自由自在とまでは言わないですけど、容易に出せますけど……」
「規模、継続時間、応用、やりようはいくらでもある。人間は出来ると思った瞬間が、一番出来ない瞬間だ」
「はい」
私はそれから盾を練習した。
盾を形成するピンクの光はより鮮やかに力強く光り、半径三十センチ程の円状の陣は半径一メートル程の大きさにまでなった。
自分の才能が怖いと言ったら、カーミラさんに頭を叩かれた。
拳を振り下ろすのではなく、分厚い本で叩くのはどうかしていると思う。
「私は今から出かけるから、また一人でやれ」
「またですか?」
「まただ。私は忙しいんだ」
そう言うと、カーミラさんは出ていった。
なんだかデジャブ。
誰もが寝静まった真夜中。
トワイライトの本部──ルーンの学校と入り口は同じである──の最重要保管室の奥底で化け物は目覚める。
緑だった箱は黒に変色している。
変色しているのではなく、タールのような液状の黒い何かに覆われていると言うべきか。
ゆっくりと
ゆっくりと地を這い、音も立てずにどこを目指している訳でもなく動いている。
この何かは、神月帝により
その
しかし、本来
カーミラが興味本位で未知の
魔術陣を書き換え、放り投げるように乱雑に扱った事が全ての原因だった。
黒い液体は化け物の姿に変わる。
頭は無いが、腕は左右にそれぞれ三本。
大きさは人並みであり、波打つ体が非常に不気味だ。
その体躯は一度球体に変形し、また違った形の体を作る。
それを繰り返す。
何度も何度も繰り返して、意思無き化け物は動き出した。
特定の体を持たず、一瞬一秒流動的に体の形と大きさを変えながらゆっくりと動き出した。
破壊と殺戮を起こす為に。
久しぶりの休日を満喫するのは素晴らしいと思います。
とは言っているけど、暇なだけです。
グレーさんに直訴したら、カーミラさんと違って魔眼の能力ならばとすぐに動いてくれました。昨日の夕方に調べ終わったそうですが、現時点では何も異常は無いそうです。
グレーさんは無口っていうか、本当に一言も喋らないけれどいい人だと思いました。カーミラさんと違って、むやみやたらに私の心を
ミランダちゃんとレオ姉とトランプで遊びながらポテチを貪っているのですが、昨晩から胸騒ぎが鳴りやみません。
すぐに逃げろという声と逃げるなという正反対の声が聞こえる。
「私、学校に行ってくる!」
「どうした?いきなり」
「何となくかな」
「だったら一緒に行きましょうか。そこでお菓子でも食べましょうか」
「よっしゃぁ!行くか!」
「学校に行くだけだから、そんなに気合いはいらないよ」
そうはいっても、察してくれた二人には感謝の気持ちが沸いてきます。
高層ビルに到達した私達は、迷わずエレベーターに飛び乗ります。
エレベーターを降りた先は既に破壊が始まっていました。
黒い
皆さんは赤い制服を着た、トワイライトに所属している成人の異能力者達。経験も
その中の一人が私達へと声を出しました。
「何をしているんだ!早く逃げろ!」
「手伝います!」
「その必要はない!ここは私達に任せるんだ!」
私達を見ていた女性の異能力者に流動的な黒い鞭が迫ります。
瞬間的に私は目を
可能な限り頑丈な剣を。
目を開けば、私の瞳の寸前に黒い牙が迫っていましたが、届きはしません。遮る
カーミラさんが言うには、この剣が宿した概念は切断の効果。
刃にあたる部分に触れた物は、全てを切り裂くと聞いていますが、同等の魔力量、もしくはより強力な概念を有した攻撃には無効化されるらしいのですけど、この
私は左手で盾を作り、右手でもう一つの剣を生み出します。
生存本能に従った瞬時の行動に
「ちょっとルーン!戻ってこい」
ミランダちゃんの叫び声が後ろから響くと同時に
レオ姉はついでとばかりに、
その隙に私は、ミランダちゃんとレオ姉の所に戻ります。
速度は遅く、トワイライトの方々が遠方からの攻撃を繰り出します。
その光景を見ていた私に、近くのトワイライトの異能力者の方が補足説明をしてくれました。
「近接戦闘は無意味なんだ。なんたって、反応速度だけは速いからね。けど、遠方からの攻撃の反応は遅い」
確かにそうにも見えます。迫る炎の渦が触れる直前に顔を向け、ぶつかれば僅かに体勢が
でも、どこかわざとらしいような気もしますが、この
「本能じゃないか?」
「本能?」
私はミランダちゃんに聞き返します。
「人間並みの知性は無いけど、狩りの仕方を覚える獣だっている。あれはその延長線上の物かもしれない」
「でも、あれって動物?とてもそうには見えないけど……」
レオ姉の疑問に私も頷いて同意を示す。
私達は物陰へと隠れ、様子を伺う。
エレベーターで帰ろうにもエレベーターの前に
トワイライトの異能力者の方々は、トリッキーな動きで巧みに連携を取り合い、
でも
時々、攻撃場所を先に予知したかのように、攻撃の異能力を発動するよりも先にその方向を向いているのがその証拠。
けれど、こんなボーナスタイムがいつまでも続くとも思えません。
唐突に
「どこへ向かっているの?」
頭を僅かに物陰から出した私は目にしてしまいました。
トワイライトの異能力者の方々が誰もいなくなっていました。悲鳴も無く、少し視界から外した瞬間に消えています。そのはずなのに、魔力は消えていない。
つまり、あの
それでも、逃げるなら今しかない。カーミラさんはまたどこかに出掛けている。グレーさん達も任務で外に出ている。止められるのは私達だけ。
ならば──
「ミランダちゃん、レオ姉、あのエレベーターまで走るよ」
「じゃあルーン、あの化け物はどうするんだ?」
ミランダちゃんは怒ったように私に問いかける。
私はいつも通りの笑顔を浮かべる。
「大丈夫、私に作戦があるから」
「……だったらいいけど、約束しろ。皆で部屋に帰るぞ」
「うん!」
「じゃあ、エレベーターまで走ってどうすればいいの?」
「それは秘密」
二人は晴れない顔をした。
「まさか、自分一人で残るつもりじゃないよな」
「私は失敗する作戦は考えないよ。私を信じてミランダちゃん」
「……分かった。けど、私も手伝う」
「だったら私も残るわ。作戦を教えて」
「私達はエレベーターで最上階に向かう」
「えっ?この魔法のエレベーターはここだけしか止まらないんじゃ……」
「ううん、違うの。カーミラさんがポロっと漏らしていたけど、最上階へと直接行ける方法があるの。そして、最上階にある物を使って撃退する」
「ルーンちゃん、最上階って限られた人しか入れないから何があるのか分からないわ。噂では強力な
「うん、あるよ。強力な
一回連れていって貰ったけど、カーミラさんの趣味で集めた
あれを使えば。
一人で階段を上っていくはずだったけど、皆でエレベーターを使うから、余計なリスクを負わずに最上階に行ける。
最上階についた私達は、眼前に散らばる
エレベーターが止まるのは最上階の最奥だから、
選ぶ
少しずつ、邪悪な気配が近付いて来るのを感じる。やっぱり、
……もしかして、この
例外を除いて、魔力を流せば
確認して使えそうな物を選び、それ以外は私の盾とレオ姉の風を器用に使ってエレベーターまで押し込みますがまだ下げません。
「今更だけどカーミラさんが居れば楽なのに」
「それを言ったらおしまいだろ。そろそろ来るぞ!」
頭から猫耳を生やしたミランダちゃんが叫びます。
重厚な鋼鉄の扉が巨大な鈍器で叩かれるような音が響きます。扉からエレベーター前の私達までの距離は二十メートル程。
二度、三度と音が響く。
「いくよ!」
私の掛け声に二人は頷いた。
私の右腕には黒い腕輪。
ミランダちゃんには赤いブーツ。
レオ姉は黒い額縁眼鏡。
時間がなかったから一人一つしか選べなかった。
扉をこじ開けた
その余裕ある姿に緊張感が空間に漂う。
だけど、腕は振り下ろされなかった。
腕を振り下ろす直前、ミランダちゃんの右足が
ミランダちゃんの足は僅かに
数度転がった
私の腕輪の能力は異能力の発動速度と規模の向上。
レオ姉は見計らったかのようなタイミングで
レオ姉の眼鏡の能力は分析と解析。たったこれだけど、この状況ではキーポイント。
レオ姉の風で捕らわれた人達を解放して私達の近くまで運んだ。
「よし!これで──」
「きゃっ!」
私が後ろを向いた時には既に遅かった。
ミランダちゃんのブーツに付着した
瞬間的にレオ姉が助け出した人達を見たら、こっちも同じだった。
「……嘘」
思わず呟いた。
終わった。終わってしまった。
その時、捻れ曲がった入り口の重厚な扉が派手に宙を舞う。
「へっ?」
「えっ?」
「んっ?」
私とミランダちゃんとレオ姉がそれぞれの反応を示す。
ここに来るのは、少なくともカーミラさんではない。
扉を吹き飛ばした張本人は面倒そうな声を上げた。
「うっわ、あの本の野郎、面倒なタイミングでニューヨークに送りやがって。東京からどのくらいの距離だと思ってるんだよ」
その人は、黒髪の少年。
赤い瞳はとても綺麗だけど、それ以上に目付きが異常に悪い。
「んっ?この魔力は……そうか。ジョーカーの奴、何やってんだよ」
その人は、部屋の入り口に居たかと思えば、まるで手品のようにミランダちゃんとトワイライトの人達を救い出していました。
ミランダちゃん達を覆っていた
私とは比べるまでもなく格上。
でも敵ではない。
「短髪、大丈夫か?」
「……あっ、はい。……あの、ありがとうございます」
「どうも」
いつも男勝りなミランダちゃんが顔を赤らめ、照れている。
あれは惚れたな。まあ、命の危機をあそこまで意図も容易く助けたのだからしょうがないね。だから、もう少しその淡白な反応をどうにかしてほしいです。
それにしても、この人は何者でしょうか?
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