第276話 研究成果
灰から再生した
私達は愕然とした。
ヴァラハイスには、疲れた様子も弱った様子も一切無かったから。
それに引き換え、生身のケイティーやクーマイルマは、徐々に疲れが見え始めている。
こちらの攻撃は、確かに何度も当たっているし、ダメージも与えている。
対して、向こうの攻撃は、こちらには当たっていない ……今のところは。
しかし…… 回避し続けていられるのも時間の問題に見える。
向こうの攻撃が一度でも当たれば、こちらは終了なのだ。
動きの鈍って来た、ケイティーの脚に、ついにブレスが掠った。
両膝から下が消滅した。
ケイティーは、声に成らない悲鳴を上げた。
私もあのブレスが掠った事が有るので知っている。痛くないのだ。
体を構成している物質が、そのまま分解して消滅した様な感じなんだ。
当たった部分から遠い所の組織は、壊死した様にグズグズになり、崩れてしまう。
何かの重粒子線か何かなんじゃないのかな、そんな気がする。。
私は、ケイティーの失われた両足の部分を再生しようと思ったら、ケイティーが自ら直してしまった。
そこまで出来る様に成ってるのか、流石だね。
きっと、クーマイルマも同様の芸当は出来るんだろうね。
しかし、ヴァラハイスの秘密を突き止めない限り、勝機は無いぞ? どうしよう。
「あ、私、解っちゃったかも。」
「え? マジすか…… 分かったじゃなくて、解ったの?」
「多分だけど、7次元側に
もう怖いわこの人。私みたいなチートじゃなくて、独学なんですよ?
そして、何気に私のネーミングを採用してくれている優しさ。もうこの人が神様やれば良かったのに。
理由が分かった所で、この体力差はどうにもならない。ケイティー達の危うい場面が徐々に増えて来ている。
くっそー、私も参戦したいのに、一杯一杯で脳が焼き切れそうだ。
クーマイルマが、あらぬ方向へ弓を引き絞り、矢を放った。
2体のヴァラハイスは同時に、突如左目から血を吹き出した。
ううむ、クーマイルマも7次元空間が見えているのか? 確か記憶をミラーリングしていると言っていたけど、
ケイティーが、ヴァラハイスの横で剣を振るうと、今度は2体とも右目から血が吹き出す。
今度は傷が治らない。
視力を失ったヴァラハイスが、闇雲にブレスを吐きまくる。
そんな物、普通なら当たる筈も無いのだが、疲労がピークに達して動きの鈍ったクーマイルマを偶然捉えた。
あっと思った時にはもう遅く、攻撃の意思の乗っていない流れ弾には一瞬反応が遅れ、私は空間扉を出すタイミングが遅れた。
「
私よりも早く反応した者が居た。
クーマイルマの全面に、プリズムの様な光を屈折して元の方向へ反射する空間が出現したのだ。
その空間の持ち堪えた時間は、僅か0.1秒程度だったかもしれないが、亜光速戦闘中のクーマイルマに取っては、その場から退避するには十分過ぎる時間だった。
「助かった…… 今のは一体誰?」
私達の目に飛び込んで来たのは、私のお師匠、ロルフ・ツヴァイクだった。
「どうしてここに……」
ケイティーの疑問は最もだ。私の因果律改変に拠って、この世界は私の居なかった世界へと変わり、全ての人の記憶から私は消えている筈なんだ。
「ふん、お前達に出来た事が、大賢者の称号を持つわしに出来ないとでも思うたか。」
「私達も居るのよー。」
ヴィヴィさんとウルスラさんだ。
「わしが可愛い孫、いや、弟子の顔を忘れる訳がなかろう?」
今、可愛いって言った? ねえ、言ったよね?
こら、視線を合わせろよ!
「
「私は、ソピア様の一番信者ですゆえ。」
あ、クーマイルマがぐぬぬって顔してる。クーマイルマも私の一番(熱心な)信者ですよ。
「でも、どうやってここへ?」
「ケイティーちゃんとクーマイルマちゃんが、学院を卒業したにも関わらず、王宮努めの約束をすっぽかして、二人して引き籠ってずっと何かを研究しているんですもの、調べない訳が無いわ。」
「そこでわしは、エピスティーニの膨大な量のデータベースを虱潰しに調べ、知恵の女神ソピアについての記述を見つけたのじゃ。」
「
「そして、三人の成果を突き合わせて、ある結論に達したので御座います。」
「ソピアは確かに存在していたとね。」
そして、ケイティーとクーマイルマがとある魔導を完成させたと察知し、その内容を見て驚いた。
『時空間転移術と7次元殻の突破に関する研究』
「その他にも、記憶のミラーリング保全方法とか、色々あったわねー。」
「どうしてそれを!」
「あらぁ? そんなの、ちょちょっと部下を動かせば、簡単に手に入っちゃうのよ~」
そうだった。この人、暗部の長官もやってたんだった。スパイ活動なんて、お手の物ですか、そうですか。
「そんな、絶対に分からない所に隠しておいたのに……」
「紙に書いた物を残しては駄目よ。それに、台所の豆の瓶とか、床下のスパイスの瓶とか、天井裏の小箱なんて、隠した内に入りませんよ。」
怖いわ!
「大事な研究成果は、二人の魔道倉庫に分けて仕舞ってあったのに!」
ヴィヴィさんは、口笛を吹きながら、マスターキーをくるくる回している。
おい、そんな物が有ったのかよ! 今までも私達の倉庫の中を勝手に見ていたんじゃないだろうな!?
視線が泳いでますけど?
後で因果律を操作して、マスターキーは無かった世界に改変してやる!
「わしは、無限に勉強が出来る魔導に小躍りしたぞ。」
変態は黙っとけ。
「後は、その事実を持って、四神竜を締め上げるだけ。」
くそ、話題を変えやがった。
「締め上げたの!? 神竜を!?」
実際は、暴力に訴えた訳じゃなくて、事実を述べて、協力してくれないなら勝手にやりますよと宣言しただけらしい。
ユーシュコルパス、ヴァンストロム、フィンフォルムの三竜は、頑なに白を切っていたそうなのだけど、ブランガスが速攻で落ちたらしい。
ああ見えて、一番情に厚い性格なんだよね。実は、他の神竜達を裏切ってでも私を助けに向かいたかったらしい。
「居るんでしょ? ブランガス。」
「あ~ら、おほほほほ、ばぁ~れちゃったぁ~?」
「他の
ブランガスの背後からぞろぞろ出て来た。
「う、うむ、面目無い。」
「うわーい、ソピア! また遊べるね!」
「ベイビー、運命の再開だねー。」
ケイティーとクーマイルマの開発した魔導術を(勝手に見て)、四神竜の協力を得て、今ここに居るわけか。
怖いわ、この人。
じゃあ、反撃開始だ。
一番の師匠と、一番の弟子と、一番信者と一番熱心な信者と、一番の大親友、それと神竜達が揃えば、もう怖い物は何も無い!
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