第262話 原初の神竜ヴァラハイス
こうして古代文明人の末裔達は、コロニーの外側の世界へ移住した。
しかし、当時の科学力を保っていられたのは、精々数百年の間だった。
文明は徐々に退行し、かろうじて中世レベルで留まったのは幸運だった。
下手をしたら、原始時代まで退行してしまっても不思議ではなかったからだ。
中世レベルで止まったのは、統治システムが比較的良好に機能していたのと、ピラミッドによるエネルギーで農作物が良く育ったのに加え、肉類の供給も順調に行われ、食糧危機は起こらなかったからなのかもしれない。
しかし、科学や文学、特に第三次産業の衰退は著しかった。
その様な、生活と直接には結びついていない分野というのは、その日の糧を得るのに一日の労力の殆ど全てを注ぎ込まざるを得ない世界に於いては、どうしても後回しに成らざるを得ない。極端に言えば、必要無いのだ。生活に余裕が生まれて初めて成り立つ分野だと言えるだろう。
必要な知識といえば、土木、建築等の石積みや木工の技術。農耕や狩猟に必要な、金属生成や加工技術。それも、かなり原始的な部分で事足りた。
ここから再び元の文明レベルまで発展するには、かなり長い年月が掛かりそうだ。
主真核知能は、この世界をデザインし直す事にした。
まず、己の分身であり、命令を実行する、中央真核を1つと、そのクライアントを4つ生み出した。
これらに地上部分を制御させようと考えたのだ。
都市は、
魔物という、人類の共通の敵を設置し、同族で争わない様にした。そしてそれは、『罪とは成らない食料』としての機能も併せ持つ。
人口を爆発させない仕組みを造った。
世界の記憶に、ある一定のルールを刻み込んだ。
信仰の対象として、クライアントを神とした。
色々頑張った……
「ふうん……色々頑張ったんだ。」
『!--たった1つ誤算があった。--!』
「誤算だとう?」
「ちょっとソピア、茶々入れないで。」
またケイティーに怒られた。
しょうがないじゃん、ツッコミを期待した様な言い回しするんだもん。
『!--中央神格は、人の気持ちを理解し親和性を高める様にと設計した結果……--!』
「「「「結果?」」」」
『!--人と混じって薄く拡散して行き、消滅してしまった。--!』
「な、なんだと!?」
『!--要するに……--!』
「「「「要するに?」」」」
『!--下手こいた。--!』
「くっ……、こいつ、殴っていい?」
「やめなさいよ!」
こいつ(既にこいつ呼ばわり)が言うには、中央神格は炭素対ユニット、つまり、肉の体を持っていたそうなのだ。
とすると、当然寿命が有る。
人間と結婚し、子供、孫、その子孫へと遺伝子情報を伝え、永遠に存在出来るはずだったのだが、予想外に全人類に薄く拡散して行ってしまい、消滅してしまったらしい。
「成る程ね、私達が魔力を使えるのって、その御蔭とも言えるわけね。」
「何で一人にだけ遺伝するようにしなかったのさ?」
『!--それって、難しいだろう。その一人が事故で死んでしまったりしたら、永遠に失われるんだぞ?--!』
「じゃ、じゃあさ、幾つかの因子が揃ったら発動するようにしたら?」
『!--そうなっているんだぞ。だからお前は今ここに居るのだ。--!』
「あ、そうか……、じゃあ、ある程度上手く行っているのか……」
『!--しかし、出現頻度が想定よりも悪くてな。前の神の没年から今の間に数百年の空白が出来てしまった。人間の寿命から考えて、数百年の神不在は辛かろう?--!』
「成る程、神に全く会えない世代も居たわけだもんね。もうちょっと上手く調整出来なかったの?」
『!--それがな、意外と難しいんだぞ? ある因子を一個減らせば、たった数十年単位で現れてしまったり、逆に増やせば千年単位に伸びてしまったりで、なかなか上手く行かなかったのだ。--!』
まあ、同一時代に複数の神が生まれてしまうのは混乱の元なので、伸びる方で手を打ったそうなのだけど、どうでも良いけどこいつ、何でこんなに人間臭いんだ?
『!--それは、
こいつを造った科学者って事か? うっわー、親近感湧くーぅ。
やっぱり殴っていいかな?
『!--クライアント達は、それぞれに人間を補完する為に精霊族や妖精族を生み出し、それらとまた混ざっちゃったりしてな。--!』
「してな、じゃねーよ! くそっ、このっ!」
「この世の中に色々な種族が居るのは、そのせいなのね。」
『!--そういった、設計者の想定していないイレギュラーの進化もまた面白いではないか。--!』
「こいつ、やべえ、マッドサイエンティストじみてきた。」
『!--中でも最高傑作なのが、ほら、そこにも居る、お前らが魔族と呼ぶ種族だ。温和で自然と調和して生きる事を好み、高い知能に加え、高い身体能力、魔力、そして、通常フィールドとアンチフィールドのどちらでも魔法を使える特殊性!--!』
やべえ、本当にこいつのクリエイターは、マッドサイエンティストじゃん。
それはそうと……
「クーマイルマ様、私達人間は、あなた達の下位互換だそうですよ。もう女神と呼ばないで。しくしく……」
「そんな事はありません! ソピア様はあたしの唯一無二の女神様なんです! ゴルァ! そこの金色のデカブツ、あたしのソピア様を泣かすすなんて、ぬっころしますよ!」
あ、いや、嘘泣きだから。クーマイルマ怖いよ。私の為に神に喧嘩売らないで。
「まあいいや、話が終わったのなら帰るから、元の世界へ送って。」
『!--いやまだ助けてもらって無いし。今のはただ、歴史のあらすじを更にかいつまんで説明しただけだから。--!』
「あ、そうか。で? 助けて欲しいって、何をよ?」
『!--と、その前に、そなた達で我を倒してみせよ。--!』
「「「「は?」」」」
なんなんだよ! そう言えば、竜族は強さで上下関係が決まるみたいな事を言ってたっけ。
それは、竜族に限らず、全ての生物がそうなのだけど、そもそも、超科学の古代文明なら、戦わずして相手の戦力を図る、スカウターみたいな機械位有るんじゃないの?
何でそこだけアナログなんだよ!
大体、助けて欲しいって言ってきたのはそっちだよ? 頼まれる側が自ら超難易度の謎を解いて、なおかつ力も示さなければならないって、おかしいでしょ!
『お前達に私を助ける権利を授けよう、私を助けたければその資格があるかどうか審査をしてやろう』って事でしょ?
助けないよ!?
『!--我を助けたければ、お前達の力を示せ!--!』
「あははははははは……」
なんか、変な笑いが込み上げてくるな。いや、笑っているのは私じゃないぞ? あ、ブランガスだ。
「ソピアちゃん~。こいつ、私がやっちゃっていいかしらぁ~?」
『!--ここではお前達の魔導は全て使える様になっている。思う存分……ぐはぁ!--!』
ブランガスの怒りの鉄拳が
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