第260話 クリスタルの洞窟

 クリオネ達は、湖の縁を回り込む様に移動して行く。

 崖の上から見た時は、空に浮かぶ大きな島と重なって良く分からなかったのだけど、大小の複数の島が浮かんでいる様だ。

 幾つかの島からは、水が滝と成って湖に注いでいる。

 島の上に在る別の島からも水が落ち、下の島がそれを受け止めていたりもする。


 映画とかゲームの映像とかでこんな様な景色を見た事があるな、と思った。ア○ターとか、ファイ○ル・ファンタジーとかね。

 まさしくファンタジー世界って感じだ。

 だけど、現実の私達は、滝の側を歩いて居るので滝の巻き起こす水飛沫でびしょ濡れだ。

 私は直ぐにジニーヤを人数分出して、障壁を張って貰い、服も乾かして貰った。


 湖には、幾筋もの大小の滝が流れ落ちているわけだけど、クリオネ達は、そのうちの1つ、崖の手前に落ちている滝の裏側へ入って行った。

 そこには大きな洞窟の入口が在った。



 「また洞窟かー……」


 「上手い具合に滝によって入り口が目隠しに成っている様ね。」



 私は、渓谷や洞窟にあまり良いイメージが無い。どちらも酷い目に会った場所だから。

 でも、ここで中を確かめずに帰るという選択肢は無いな。

 クリオネ達に続いて洞窟の中へ入ると、そこはクリスタルの洞窟だった。



 「出たよ、クリスタル……」



 思いっきり嫌そうな顔をしてしまった。

 でもこれ、太陽石の結晶スーナ・クリスターロでは無いのかな? 魔力を吸われる感じがしない。



 「「「いやいやいや、吸われてるから!」」」



 三人に否定された。

 え? 吸われてる? ほんとに?



 三人が私の後ろを指差すので見てみると、背後の壁から光が広がって行っているのが見えた。

 ああ、そうだった。既に太陽石の結晶スーナ・クリスターロに吸われる程度は、蚊に刺された程にも感じないんだ。私、化物じゃん。

 クリオネ達は、動揺した様に動きを乱している。



 「まさか、お前達も私を騙して此処へ連れて来たんじゃないだろうな。」



 私が睨むと、クリオネのリーダーが手を左右に振った。



 「ち……がう……ちが……う。」



 まあ、観察者プローブとしての役割をする程度で、人を騙す程の高度な知能は与えられていないのかも。


 クリスタルの洞窟は、奥へ行く程に広くなり、クリスタルの数も大きさも増えてきている。

 クリスタルの作り出す隙間を通路として進んで行くのだが、段々と迷路の様相を呈して来始めた。

 というのも、クリスタルは大きいのや小さいのが、斜めだったり横向きだったりと乱雑に生えていて、しかも透明度が高いので、角度に因っては表面が鏡の様に手前の景色を写し、別の角度から見れば後ろの景色を屈折して写しという様に、何処を向いても万華鏡カレイドスコープを覗いた時みたいに乱雑にキラキラしていて、私達が移動する度にキラキラが動いて見えて、景色もくるくると変化するので、1歩毎に景色が変化してしまい、自分の今いる場所を見失うのだ。

 私がクリスタルを光らせてしまっているせいもあって、光っている部分と光っていない部分が変化しまくっているのも、迷う原因に成ってしまっている。

 私達が通る前の通路と、振り返って見た通路が全く別物なのだ。

 よく遊園地とかに在る、鏡の迷路をもっと広く複雑にした様な感じと言えば分かるだろうか。そんな所へ不用意に連れ込まれてしまった感じだ。

 クリオネ達の先導が無ければ、とっくに迷ってしまって居るだろう。

 てゆーか、今此処でぱっと先に行かれてしまって見失ったら、泣くな。

 帰りもクリオネプローブ達に案内して貰わないと、とてもじゃないけど脱出出来そうも無い。


 え? 帰りは案内しない? ぶっ壊して出るよ?

 クリオネ達が、激しく動揺している。


 こいつら、本当に騙して無いだろうなー……



 「私、一人で此処に放置されたら、死ぬまで脱出出来ない自信があるわー。」


 「皆、バラバラに成らない様に、前の人の服を掴んで歩いて。」



 そんな、何処を歩いているのかも分からない場所を四半刻(30分)も歩いた頃だろうか。前方に何かが見えて来た。



 それは、巨大なクリスタルの中に閉じ込められた、大きな金色の竜だった。



 その体躯は、ブランガス達神竜と似ているが、体の大きさが倍近く大きかった。



 「ちょっとぉ~、何よこれぇ~。これがこの世界の神ってわけ~?」



 クリオネ達が、激しく飛び回り始め、めいめいに言葉を発する。



 「そう」

  「そう」

   「かみ」

    「わたしたちの……かみ」

     「かみ」

      「そうだ」

       「かみだ」

        「たすけて」

         「おねがい」……


 「お前ら、喋れたのかよ!」



 あ、いけね。突っ込んでしまった。

 まあいいや、ところで、どうやれば助けることが出来るのだ? このクリスタルをぶっ壊して出してやれば良いのかな?



 「まかせなさぁ~い! ブランガス! 破局噴火拳スーパーエラプションナコー!!」



 ドガガーーーン!!



 「ブランガス! 超巨大火山吐息スーパーボルケーノブレス!!」



 ドゴゴゴーーン!!



 傷一つ付かない。どういう事なのかな?

 塔と同じだ。神竜の攻撃で、破壊出来ない物質が在るとは思えないのだけど。

 私は、クリスタルの表面にそっと触れてみて、ある事に気が付いた。



 「そうか! このクリスタルが太陽石の結晶スーナ・クリスターロと同じ物だとすると、魔力を纏った攻撃は、全て吸収されてしまうのかも。きっと、塔も同じなんだ。



 「でも、このクリスタルの壁は光っていないわね。塔も光ってなかったけど?」


 「あれは、魔力を留めているから光るんだよ。これは、魔力が何処かへ流れていっているから光らないんだ。」



 私は、今来た道を指差した。

 私に近い部分のクリスタルは光っているのだけど、通り過ぎて遠い部分の物は徐々に光が失せていっている。

 何処かにエネルギーを大量に使う施設でも在るのかな?



 「エネルギーを大量に使う施設って?」



 そう、私には心当たりがある。それは私達がさっきまで見ていた物だ。

 私は、ずっとそれが人工物っぽいなとは思っていたんだ。



 『!--ほう、少女よ、よくぞその真実へ辿り着いた。--!』



 突然、私達の頭の中へ思念通話テレパシーが飛び込んで来た。

 私は、ずっと私達を監視していた者が居る事には気が付いていた。


 いや、気が付いていたとか、カッコつけて言ってみたけど、観察者プローブを飛ばして寄越してるんだから、その主がそいつに決まってるんだけどね。そんなの、誰でも分かるか。


 そう、このクリスタルの中に閉じ込められている黄金の竜がその監視者だ。

 声の主は、状況から見て、この黄金の竜が発したものだろう。こんな中に閉じ込められてなお意識だけは有るのか。


 太陽石の結晶スーナ・クリスターロにより、永久にマナを吸い出され、生けるバッテリーとしての役割を強いられているというのに。彼は一体、何時から此処に居るのだろう?



 『!--我がこの中へ身を置いたのは、今から12億6千万年前…… 自分の意思でそうした。--!』


 「やはりね。自分からこの星の動力となる事を選択したわけか。」


 「ちょっとぁ~、ソピアちゃん? 説明しなさいよぅ~。」



 ブランガス達神竜でも知らない、この星の秘密。

 私は、自分の想像を皆に話して聞かせた。

 いや、想像というよりも、最早確信と言っても良いだろう。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る