第249話 原木
無数の超高電圧超大電流の奔流が、暗い森の中を明るく照らす。
蛇の様にのたくる雷の一つが、
大体の植物も、岩なんかもそうなんだけど、水分を含んでいる。落雷の当たった箇所の地面や樹木が弾けるのは、熱に依って水分が瞬間的に水蒸気となり、爆発するからなのだ。
向かって来る側から消し炭になって行くんだけどね。活動停止するまで向かって来る。逆にそこが厄介な所でも有る。
RPGや格闘ゲームでは、ダメージを受けてHPがゼロに成るまで平然と攻撃を繰り出して来るよね。
実際は怪我の痛みとかで動きは徐々に鈍くなって来る筈なんだけど、そうはなっていない。ゲームだもんね。そこまでリアルにしたら、逆に操作が面倒くさくなって仕様が無いし、逆転する醍醐味も失われてしまうだろう。
だけど、この
これじゃあ、ひと族達も怖くて仕方が無いだろう。
1匹目が動かなくなったのを確認し、もう1匹の方を見ると、更にその背後に3匹が動いているのが目に入った。
背後にも気配を感じたので、しまった、仕留め切っていなかったかと振り返ると、最初の1匹は既に動かなくなっていたのだけど、その奥から数匹がのそのそと近寄って来ていた。
「うええ、何なのここ、
もう面倒だ、森に被害が及ぶのを懸念して手加減していたけど、もう知った事じゃない! 山火事上等じゃー!
私は、魔導リアクターを今使える最大サイズまで拡大し、電撃の本数を100本位にまで増やした。
そして、敵が向かって来て自滅するのを待つのではなく、こちらから
罪も無い普通の樹木も何本か犠牲になったけど、知った事か!
奴等がやって来る方向へ走ると、通り道に居た
そうして数百匹も倒した頃だろうか、突如開けた場所へ出た。
綺麗な水をたたえた、透明度の高い池の有る場所だ。聖地の泉に匹敵する綺麗さだな。
そして、その池の傍らに、居たよ。
こいつが所謂原木ってやつか? マザーツリーって言った方がそれっぽいかな? 原木見つけちゃったよ!
どうするこいつ? 枯らせとく?
いやよそう。どんなに凶暴で人間に害がある動物(植物か)といっても、この星の生態系の一部であり、この森は貴重な遺伝子バンクなのだから。
え? 魔物と何が違うのかって? 魔物は人を襲う様にデザインされた怪物。これは、自然の中で生まれて、生態系の一部の単に凶暴な動物(植物だった)の違い。
今私は、魔物はデザインされた怪物と言い切ったけど、多分それは間違っていない。魔物は、【
私は、数百の自分の子達の屍の真ん中で、独りぼっちでゆらゆらと揺れる大樹を見ながら、そんな事を思った。
「こいつだけは、見逃しておくかな。」
そんな感傷にも似た気持ちで踵を返した私の背中側の障壁へ、ガガガガガガン! と槍の様な極太のトゲが飛んで来て、激しい音を立てた。
うーん、まあ、人間のそんな感傷なんか知ったこっちゃ無いよね。知能なんて無いのだろうし、こいつはただ、本能のままに目の前に現れた獲物を捕食するだけだろうし。
よく見ると、絶対障壁の10層のパネルの内、トゲは3層までぶち抜いている。流石
でも、触手を伸ばして来ると危ないよ。大木だろうと、私の落雷並みの電圧と電流が通電したら、真っ二つだよ。
ピシャー! ガガーーン! バキバキバキ……
あーあ、ほうら言わんこっちゃない。
幹が裂け、火が着いてしまった。
メラメラ燃え広がっているなー。こりゃあ、山火事に成るな。生木なのに、想像以上に良く燃えるなー。触手が多い分、焚き付けみたいな効果が有るのかな?
流石に山火事はマズイので、側の池まで行って水を汲み上げ、放水車の様に拡散して放出した。例によって、私の魔力の到達範囲は数ヤルト程度しか無いのだけど、勢いを付けて放出した水は、普通に運動力学に沿って飛んで行くだけなので、魔力の阻害とは関係無い。
水のカーテンに覆われた、
「あーあ、結局殺しちゃったかー……」
完全に動かなくなってしまったのだけど、樹木の生命力は意外と強いので、ひょっとしたら未だ生きているかも知れない。
台風で倒れた桜が花を付けたってニュースとか、時々見るもんね。切り株から新芽が出たりね、意外と有るよね。
大木の根元を見ると、私の拳大の塊が幾つも落ちている。
ああこれ、種なのかな? だとしたら大丈夫かも。トゲを刺して来るかも知れないので、魔力で拾い上げようとしたら、コロコロと転がって逃げて行ってしまった。
振り返ると、そこには『ひと族』の皆が呆然とした表情で集まっていた。
私が近付こうとすると、途端に怒りに満ちた表情へと変わり、私に槍を向けて来た。
「どういう事よ?」
「わ、わ、我らの神をよくも、よくもー!!」
なんやて? 我らの神? こいつらは
「
ああそうか、私は騙されていたわけか。向こうの世界にはこういう連中は居なかったから、うっかり騙されてしまったよ。
こいつらは、この森の強者である
森を外敵から守って貰う代わりに、私の様な迷い込んだ強者を貢物として捧げていたんだ。
良く見たら、こいつらの使っている槍は、
体が暗緑色に彩られているのも、森の中での迷彩の為なんかじゃなくて、
『ひと族』の戦士達は、槍を私に向け、私を取り囲んで威嚇する様に突き出して来る。
しかし、私のジニーヤの張る絶対障壁に当たってカツカツ音を立てるだけだ。
業を煮やした一番強そうな戦士っぽい男が、何か身体強化の様な術を掛け、再度槍を突き出すと、槍の当たった部分の絶対障壁のパネルが溶けた!
◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇
ケイティー達は、竜形態のブランガスの掌に乗って、次の塔を目指して飛んでいた。
最初の砂漠の塔の周辺で、身を隠せそうな岩場を虱潰しに見て回ったのだが、人どころか何かの動物が居た痕跡すら見つからなかった。
皆が言う通り、ここの環境は、何時までも留まって居る様な環境では無いのだ。自分達でも、直ぐに砂漠環境は脱出しようと考えていたのだから、ソピアがそうしない訳が無い。彼女はここには居ない。
ケイティー達は、2日間で捜索は切り上げ、ブランガスが見たと言う、森の方向に有る塔へ向けて飛び立った。
変身術で鳥とか竜に成れば、自力で飛べるんじゃないかと思うでしょう?
もちろんやってみました。
だけど、飛べないんだ。飛ぶための翼の動かし方が分からない。それもそうなんだけど、最大の問題は、飛ぶ為の筋力が圧倒的に足りないんだ。変身術は、姿形は真似る事は出来ても、筋肉量までは増やしてくれないからね。
なので、ブランガスに運んで貰っています。
さて、森が段々近付いてきたぞ。
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