第232話 フィボナッチ数列

 この遺跡は、他国へ移動するポータルとして、とても利用価値が高い。

 何より、魔力の無い人でも使える所が大きい。魔族の所へ行くのだけがちょっと面倒だけど、魔道士の同行者が居れば、全く問題無いし、ずぶ濡れ覚悟なら、魔力が無くたって大丈夫だ。



 「魔族の方でも、調査員を何人か出してくれませんか? それと、池までの道を整備して、池の前に入国管理の施設を設置する様にお願いします。」


 「了解しました。調査員は、我々がそちらへ合流するという事で宜しいでしょうか?」


 「魔族の賢者様がやって貰えるなら、願ったり叶ったりです。宜しくお願いします。」



 そこからは、魔族と人間の合同調査となった。

 通路を時計回りに順番に調べて行くのだが、先が土で埋まってしまっている物が多い。

 やはり、古い遺跡は、埋まってしまう場合が多いのだ。何で遺跡とか化石とかは、埋まってしまうのだろうね。その土は何処から来るのだろう? 不思議。



 「そもそもなんだけど、これらの遺跡って、どの位古い物なの?」


 「さあなあ……、少なくとも、数千年というレベルでは無いよ。数万年、下手したら億年いくかも知れん。」


 「そんなに!?」



 そんなに古いのが、地面の上に残ってたりするものなのかな?

 数万年以上前の遺跡なら、とっくに地面の下なんじゃないの?

 地球のエジプト文明だって、数千年でしょう? 万年いく遺跡って、地球には無いよね、多分。

 エピスティーニのライブラリーで調べられないのかな?



 「あそこは動力が落ちておったからのう……、仮に古代文明の暦が見つかったとしても、こちらの物とは違っておるじゃろうし、こちらから何年前という情報は得られんじゃろう。」


 「浮遊島 やここの動力は生きていたじゃない。時間経過の記録みたいな物は無かったの?」


 「それがのう、年代は4桁の数字でカウントされておったのじゃが、9999でカウンターストップして、エラーが出ておった。」



 何だよその2000年問題みたいな間抜け仕様は!

 確か、コンピューター内の日付を西暦の下二桁で認識させていたから、99の次に00になっちゃって、誤作動するかもって、世界中で戦々恐々してたやつだよね。

 古代文明は流石に4桁でやってたみたいだけど、それでもカンストしちゃってたのか。

 そこまで同じシステムを使い続けるとは思っていなかったのかもね。

 そして、これらのシステムを作った後、結構意外な程早く滅亡しちゃったのかもしれない。


 まあ、遺跡がどの位古いかなんて、今の所はどうでもいいや。

 遠くの国と繋がる事にこそ意味が有るんだからね。

 早くビオスへのポータルが見つかると嬉しいんだけどな。



 「ビオスにピラミッドは見つかっておるのか?」


 「んー、そうじゃないんだけど、きっと在ると思うんだよね。五部族とか五賢人とか言っていたでしょう? 5という数字がちょっと気になってたの。」



 うちとこや魔都みたいに、上にお城や神殿を建てて隠されている可能性も有るしね。

 黒いピラミッドも、後5つ有る筈だから、そこにも魔族が住んでいる可能性も有るし。



 「我々も、他の地に住んでいる魔族の同胞が居る筈だと考えておりました。」


 「うん、頑張って探そう!」



 と、そこへアーリャからテレパシーが届いた。



 『--ソピア様、聞こえます? これ、凄いわ。どんなに離れていても会話が出来るなんて。スワラで会話出来る事に気がついた時には、凄い発見だと喜んでいた所なのに、あっさりその上を行ってしまったわ。--』


 『!--完全上位互換じゃないから、あっちはあっちで使い道が有るんだよ。それと、様付け禁止!--!』


 『--あっ、ごめんなさい、ソピア。でね、本国の仲間から連絡が有って、森の中に遺跡を見つけたらしいのよ。--』


 『!--おお、凄いじゃん! すぐ行く!--!』


 「お師匠、聞こえてた? ビオスの方で遺跡が見つかったって。」


 「その様じゃな、直ぐに行ってやりなさい。」



 私は、皆に挨拶をして、空間扉を出し、学院に居るアーリャの所へ行き、アーリャを拾ってビオスへ移動した。


 ビオスでは、調査隊だという人の案内で、馬車で……、という話だったのだけど、面倒なので私がアーリャと案内の人を持ち上げて、飛んで行く事にした。



 「私も早くこの飛行術を覚えたいわ。」


 「浮上術はもうマスターしたの? なら、私が直接教えるよ?」


 「ほんとに!? やったー!」



 そんな学生トークをしていたら、あっという間に現場に到着。

 現場には、ビオスの五賢人の内の四人が、既に集合していた。アーリャが到着して、五人の賢者が揃った。



 「「「「ようこそお出で下さいました、ソピア様。」」」」


 「遺跡はこれなのね? う~ん、ぎっちり中に泥が詰まっちゃってますねー。」


 「はい、この辺りは、数百年に一度位の頻度で水害に見舞われますので、そのせいかと思われます。」



 数百年に一度とはいえ、数万年のスパンで考えたら数百回の水害が発生している計算になるのに、この遺跡はどうして埋まっていないのだろう?

 私の推測なんだけど、この地上部分の遺跡は、地中の物よりもずっと新しいのでは? と、そんな気がする。

 というのは、ダルキリアの遺跡に最初に入った時、作りが雑な気がしたんだ。

 古代遺跡を作った文明の技術では、石版は、鏡の様につるつるに加工されていた。

 だけど、これらの地上部分の遺跡の加工精度は、それには遠く及ばない。

 おそらく、地下の迷路が在った空間とか、白い大陸で天井が崩落していた広大な空間から先が古代文明の作った物で、迷路はその空間内に、後の世の人が造った物なんじゃないかな? そこから手前側の地上への出入り口は、後世の人間が何度も作り直しているのかも知れない。


 オリジナルの古代遺跡は、数千年、数万年の時を経て、徐々に地下へ埋没されて行ってしまった。だけど、その利用価値を知っていた過去の人達が、新たに出入り口を掘って、地上部分を増設した。

 その地上部分も、何度か埋もれ、忘れ去られ、だけど時代の誰かが謎を解き明かし、今の私達の様に再発見し、修復して利用するを繰り返して来たのかも知れない。



 『!--正解よ。その地上部分の遺跡は、私の時代に作られた物よ。--!』


 『!--その声は、ジャンヌ? なんだよ! 知っていたのなら、教えてよ!--!』


 『!--それが駄目なのよねー、そういうルールなのだから。私も苦労したのよー。だけど、寿命が尽きるまでには全ての謎は解明出来なかったの。その歳でそこまで迫れたのは流石だわ。あなたに期待します。--!』


 『!--何なのそのルールって! 守らなければならない物なの!?--!』


 『!--そう、守らなければならない物なの。その内その理由も分かるわ。--!』



 何なんだよ、そのルール! 誰が作ったんだよ! 守らないと何かペナルティでも在るのかよ! 世代が変わる毎にゼロからスタートなのかよ!

 あれ? だけど、人間の世界に記録とか残っていても良さそうな物だけどな。それすら無いのって、どういう事なんだろう? まさか……



 『!--あ、そうそう、追加入りまーす!--!』


 『!--え?--!』



 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドーーン!!!



 おうふ、おーうふ! 久々に来た! 21人分だ。

 そうだ、いい機会だからジャンヌに聞いてみよう。



 『!--あのさ、何でフィボナッチ数列に沿って飛ばして来るの?--!』


 『!--あら、そんな名前だったっけ? 特に意味は無いのだけど、美術的に黄金比で、私が地球に居た時代に流行っていたのよ。それに、全体が細部に、細部は全体の相似形になるというフラクタル図形でもあるので、一人は全体の為に、全体は一人の為にっていう、あなたの役割も象徴しているでしょう?--!』


 『!--ふ、ふぅん……--!』



 何だ、思った程大した意味は無かった。

 何か上手い事言っている様に聞こえるけど、単にジャンヌの趣味じゃん。




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