第196話 ソピアのジン
まずは、右の通路の上昇通路の方へ行ってみる事にした。
お師匠の話によると、左の通路の上昇通路とは左右が逆なだけで全く一緒らしい。
突き当りの石の扉を押し込み、中へ入ってみると、確かに下の部屋とは違い、嫌な空気が無い。
中央の柱の裏には、同様に石で塞がれた部分があり、そこも開けて中へ入ってみると、部屋の中は黄金に輝いていた。
ヴィヴィさんによると、左の部屋とほぼ同じだけど、こちらの方が光が強い様に感じるとの事。ケイティーもヴェラヴェラもそんな感じがすると言っていた。
この部屋の箱は、床に在った。
箱の蓋をちょっとだけずらしてみたら、その隙間から勢い良くマナのエネルギーが吹き出し、瞬く間に部屋の中を目も眩むような明るさで満たして行く。私は、直ぐに蓋を閉めた。
原子炉に例えれば、多分この箱が炉心で、部屋が圧力容器、その外側の部屋が格納容器、そして、ピラミッド全体が建屋といった感じの構造なんだと思う。
「下の部屋とは、何もかもが逆様に作られているみたい。」
「うむ、上下が逆様なだけでは無く、下はエネルギーを吸い込む装置、上はエネルギーが吹き出す装置という事じゃな?」
「うん、反エネルギー側から見ればその逆で、上は反エネルギーを吸い込み、下で放出する装置。」
「ロルフ様、左右に別れている理由は何故なんでしょう?」
「それは……」
「太陽と月だよ。」
ヴィヴィさんの質問にお師匠が答える前に、私の口が勝手に開いて言葉を発した。ん? 誰かの知識? そう言えば、考古学者が居たんだった。違う世界で考古学が役に立つとは思えなかったのだけど、あっちの知識を元に、推論は組み立てられるのだろう。
「「「「太陽と月?」」」」
「つまり、陽と陰。太陽と月がぐるぐると交互に回る様に、エネルギーは片側の部屋からシャフト内の部屋を通り、反対側の大回廊へ送られ、光共振器(レーザ発振)の様に
「ほう、実に面白い見解じゃな。」
「下側の部屋は、その逆って事ね。」
「そう、対生成で生まれる、反エネルギーを地中深くに放出している。」
星の規模で見れば、星の内部で生み出される正エネルギーを地表へ汲み出している。反エネルギー側から見れば、地表にある反エネルギーを星の内部へ捨てている。
星はよく、生き物に例えられるが、人に例えると、生命エネルギーを体外へ吸い出され、替わりに毒素を注入されている様な物だ。この装置が1箇所2箇所程度なら、蜂にでも刺された程度かもしれないが、12箇所全部が稼働したら……。
「不味いわね。」
「これを造った古代文明が滅びたのも納得出来ようぞ。」
「どうする? ぶっ壊す?」
「まあ待て、他のピラミッドも調査してからでも遅くは無いじゃろう。それに無闇に破壊して、取り返しの付かない事になってしまってはまずい。今は未だソピアの仮説段階じゃからのう。もっとよく調べてからじゃ。」
「じゃあ、ここどうする? もう1回氷の下に封印しておく?」
「そうじゃな、それが無難じゃろう。」
私達は、温暖化により周囲に幾つも出来ている川の水を穴の中に引き込み、ユーシュコルパスのブレスで凍結させて、ピラミッドを厚い氷の下へ封印した。
氷の上の方で私達の調査を見守っていた村人達の中からアンナークが出てきて、どうか村へ寄って行って下さいと言われた。
「あの、途中で赤い神竜様がご降臨された様にみえたのですが……」
「あ、こちらが、四神竜が1柱、火竜ブランガスです。」
「あら~、アンナークちゃん、よろしくね~。」
「うう~~ん……」
パタリ……
アンナークさんが3度めのご失神あそばされました。
仕様が無いので、私が魔力で村まで運びます。
村の村長さんのお屋敷にアンナークさんを寝かせて、集会場みたいな広い家に皆で集まって、歓迎会を開いて貰いました。
この村からは海が比較的近いので、海の幸が美味しいです。ただ、海棲哺乳類の生肉はちょっと私には厳しかったけど。エビ、カニ、魚等の料理は美味しかったです。竜達は、生肉全然気にしないでバクバク食べてた。
この村は、何処の国の所属なのかと聞いたら、何処の国にも所属はしていないとの事。そんな事ってあるの?
この大陸には昔々、国は在ったそうなのだけど、氷の大陸に成ってしまった時に、大半の人間は、他所へ移り住んでしまって、国は無くなってしまったのだとか。
今では少数の人間だけが、こうして小さな集落を形成して住んでいて、全て自給自足で生活出来ているので、他の国のお世話になるつもりは無いのだそうだ。
近隣の国も、こんな利用価値も無い氷の大地の小さな集落を併呑した所でお荷物が増えるだけなので、全く手出しはして来ないんだって。
何か困った事は無いか、足りない物は無いかと聞いてみた所、燃料が足りないのだという。
確かに、草木一本生えていないし、仮に石油や石炭が埋蔵されていたとしても、分厚い氷の下で掘る手段も無い。海で捕れた魚や海棲哺乳類の油なんかを、明かり用途にちょっとだけ燃やす程度らしい。
「よし、じゃあ、火を置いていきましょう。」
「「「「「「「「「「え? 火? ですか?」」」」」」」」」」
私は、村の中央広場に出ると、元気玉みたいに大きめのスイカ位の大きさの火炎球を出した。
「「「「「「「「「「おおおおおー!!」」」」」」」」」」
「火炎よ、今日からお前はこの村を守りなさい。村人の言う事は良く守るんだよ。村の家屋や人には絶対に燃え移っちゃ駄目だよ。」
『--はい、分かりました。ソピア様。--』
「「「「「「「「「「おおおおおー!!」」」」」」」」」」
私もちょっと驚いた。ジンに命令出来るというのは、イブリスに聞いていたのだけど、まさか返事するとは思わなかった。
『--お母様、それは僕も驚いています。--』
『!--そうなの!? え、マジで!?--!』
ここでお別れしようとしたら、目を覚ましたらしいアンナークさんが慌てて走って来て、急に土下座をし始めた。
「ソピア様! 地竜ユーシュコルパス様! 火竜ブランガス様! 大したお持て成しも出来ず、申し訳ありませんでした。」
「いや、十分美味しい料理を頂きましたから。そうだ、アンナークさんにも説明しておきますね。火炎よ、この人が村長さんだから、この人の命令は良く聞いてね。」
『--分かりました、ソピア様。--』
「なんと! 喋る火ですか!」
「竈の火とか、暖房に火が必要な時は、この火炎にお願いすれば、体を分けてくれます。必要無い時は、戻れと言えば、この塊の中へ戻って行きますから。村で大事に使ってやって下さい。」
私は、火炎球に火を分けてと言うと、拳位の大きさの火が分裂して、私の手の中へ飛んで来た。戻れと言うと、火炎球の元へ戻って行った。可愛い。
「「「「「「「「「「おおおおおー!!」」」」」」」」」」
「こ、これを私達の村に?」
「うん、可愛がってあげてね。」
「「「「「「「「「「有難うございます!!」」」」」」」」」」
皆に手を振って、村を後にした。
「おまえ、ますます便利になったのう。」
「自分でもそう思うー。」
ケイティーが、炎を出して、一所懸命に話しかけている。
「ソピアー、私の火は喋らないよー?」
『--僕も、ジンが喋るとこなんて、初めて見ました。--』
「イブリスも初めて見たんだって。」
「そうなのかー……、ソピアだからなのかな?」
ケイティーも、自分のジンに喋って貰いたそう。諦め切れないで、何時までも話しかけている。
「ソピアよ、我の棲み処へ寄って行かぬか?」
「あらぁ~、ユーちゃんのお家に招待してくれるの~?」
「ブランガスよ、お前には話しかけて無いぞ?」
「何よぉ~、ちょっと位いいじゃない~。でも、この一人だけ仲間外れの感じがまた……」
「ユーシュコルパス。ブランガスも招待してあげて!」
「うーむ、ソピアがそう言うのなら、仕方あるまい。来るか? ブランガスよ。」
「行く行く! 行きますよ~。ああ……、ソピアちゃんが私を気に掛けてくれている~ぅ。」
ブランガスが抱きついて来ようとするのを、するりと回避する。
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