第183話 天空の古代遺跡
「アクセル、あ、あの映像の人なんだけど、こっちへ連れて来ていい?」
『!--構わないさ~、子猫ちゃんの好きにしてくれたまえ~。--!』
うーん、この。ずっとその喋りで行くつもりなのか?
じゃあ、連れて来ますという事で、窓から飛び出そうとしたら、止められた。
『!--チッチッチッ。飛んで行ったら、時間が掛かっちゃうだろう?--!』
フィンフォルムは、人差し指を左右に揺らしてそう言った。
何をするのかと見ていると、ここへ来るときと同じ様に、人差し指の爪で空間を突付いたのだ。
爪の先から波紋が広がり、巨大なクラシック風味の豪華な扉が出現する。
その扉が開くと、中からアクセルが歩いて出て来た。
「あれっ? ……ここは……。」
アクセルは、異空間へ飛ばされたと思った様だが、私達が居るのに気が付いて、安心した様だった。
今、お師匠とスクリーン越しに話していたら、目の前にいきなり巨大なドアが出現し、扉が開いたと思ったら中へ吸い込まれ、次の瞬間にはここに居たのだという。
凄いな、謎空間を完全に使い熟しているんじゃん。
私は、目の前の空間壁に穴を開けて、そこから入ったり物を出し入れする事位しか出来ないのに、フィンフォルムは余計な扉のエフェクトを追加しているばかりか、任意の場所へ扉を出現させてそこに有る物を出し入れ出来るんだ。
つまり、遠隔地に有る物を自由自在に取り寄せたり、送り届けたりが出来る。私の様に、一緒に入って行って移動する必要が無いんだ。流石神様!今や私よりも下位だとか謙るくせに、全然私よりも凄いんじゃんねー。
『!--いやぁ~、それ程でも、あるさあ~。--!』
やべえ、褒めると図に乗るタイプだ、こいつ。
でも、フィンフォルムのどこでもドア、習得したい。
『!--う~んとね、子猫ちゃんは、人間の視覚情報にまだまだ縛られているんだよね~。もっとこう、この星全体を、ずっと空の高みから俯瞰するみたいなイメージを持たないと駄目なんだよ~。わかるか~い?--!』
言っている事は良く分かるんだけど、喋り方が何だか鼻に付いて来たぞ。
『!--ほう、成る程な。--!』
『!--へ~、そうなのね~。--!』
『!--ふむふむ、そうなんだね!--!』
「あんたらも知らなかったのかよ!」
繋がっていると言っても、記憶と五感が共有されているだけで、個々で考えている事なんかの個性とか性格みたいなキャラクターの部分は、それぞれが独自に保有されているのだそうだ。だから、個々で考え方が違っていたりする事もあるらしい。
思い返してみれば、ドリュアスのバラノスに激おこで怒られてた時に、エウリケートに仲裁を頼んで事無きを得たんだった。あれも、個々では別々の個性を持っていて、考え方も感情も別だから出来た事なんだよね。
それにしても、俯瞰で見る……か。物事全てに言える事だよね。この場合は、比喩では無く、物理的にだけど。
世界を俯瞰で見る方法を考えるのと、自分の体から離れた場所に扉を開く、というのを練習してみないとなー……
それで、向こうから入れてこっちから出すとか、こっちから入れて向こうから出すって言うのが出来るように成れば、何か色々と凄く捗る事になりそう。
アクセルは、早速操作盤で何かをやっている。
そうすると、今は足元の映像は、雲海の上で真っ白だったのが、雲が消えて、地上がくっきりと見える、グーグルアースみたいな映像に切り替わった。今は夜なのに、明るさが補正されて、昼間の映像みたいにくっきり見える。
地上には、巨大な
「あの巨大な五芒星は、魔導的に何か意味があったりするの?」
きっと、魔物の侵入を防ぐ巨大障壁だったり加護だったりするんじゃないかな?
「「「いや? 全然?」」」
「全然?」
「そんなの出来たら、村々で誰も魔物の被害に苦労せんし、町も城壁で囲む必要も無いじゃろう。」
そーですねー! 言われてみれば、その通りですねー。年寄り3人組に全必定されちゃいました。
じゃあ、何でこんなに綺麗な五芒星を描いているんだよ!
「綺麗だからじゃない?」
「カッコいいからだろう!」
「実は、何時からあの形になったのか、分かっておらぬのじゃ。」
本当の所、有史以来あの形なので誰も知らないらしい。国が出来たのは、もっと古い時代なのだけど、当然記録が無いので分からない、というわけ。
有史、つまり、文字の記録の有る歴史という意味なので、文字の無い時代、または文字が失われている、文字記録が見つかっていない時代は含まれない。
伝説では、ジャネット・ド・アルクが建国の祖で、この地に国を作ったのは間違い無いのだが、その前に元々ここには町の遺跡があったらしいのだ。
「ライブラリーからの検索でも、この地に都市があったのは間違いないみたいです。今、古代の高空地図と重ね合わせてみます。」
アクセルがパネルを操作すると、薄いレイヤーの様に、現在の高空映像に古代の地図が重ね合わされた。
町の位置や、五芒星の形は全く一緒だ。ただ違うのは、中心に在るのは王城ではなく、巨大なピラミッド型の構造物だという事だけ。
「何かの墓? なのかな?」
「うーん、もっと時間を掛けて調べてみないとよく分からないなー。ライブラリーの情報量が膨大過ぎて、検索するだけでも一苦労なんだよ。」
「フィンフォルムは、創成期から生きているんでしょう? 何か知らない?」
『!--うーん、僕ら神竜は、人間には全く興味無かったからね~。人間と話す様になったのは、人間の君が神格を得たからなんだよ~。--!』
「今まで、ただの一度も人間からは出なかったの?」
『!--初めてだね~。歴代でも、竜族か精霊族からしか出ていなかったと思うよ~。--!』
『!--エルフ族から一人出た事が有ったわよ~。--!』
『!--そうだっけか~。僕とした事が、とんだミステイクさ~。--!』
『!--我々は、星の守護者であって、そこに棲まう雑多な生物の事など、気にした事は無かったのだ。--!』
神竜から見たら、人間なんて猿とかゴブリン程度の認識なんだろうな。私が現れるまで、他の動物と区別する理由も無いし、特に興味も無かったのだろう。人間がどんな文化を持っていて、どんな文明を作り上げ、どの様な遺跡を残していたのかなんて、砂漠のシロアリが蟻塚を作っているな程度の話でしか無いのかもしれない。10年前のシロアリが、変な形の蟻塚を作っていたのを知っているかい? と今の蟻に聞かれても、えー、分からないよとしか答えられないみたいなもんだ。
そのあたりの調査は、お師匠とアクセルに丸投げするとして、フィンフォルムには、約束のプロークの財宝を渡して帰るとするか。
この部屋の装置はまたちょくちょく使わせてもらいたいので、財宝部屋は他の部屋に移させて貰おう。
階下には、同じ位の広さの倉庫みたいな空間もあったので、そこへフィンフォルムの財宝は移してもらい、私も謎空間から残りの財宝を追加して出してあげた。
『!--ひゃっほう! やったね! ありがとう~。--!』
フィンフォルムも、ひゃっほうなんだ。なんか、凄く嬉しい物みたいだねー。良く分からないや。竜目線で見ると、プロークのコレクションって、凄くクウォリティー高かったりするのかな?
「そうだぞ、我のセンスが光っているからな!」
あ、そうなんすか、おみそれしました。
じゃあ、皆、帰るから、お屋敷の中に戻ってくださーい!
「あのー、僕はもう少しここに残って、調べ物をしてみたいのですが……」
「今回は別の目的でお邪魔しているから、調査は別の機会に正式に申し込んでさせてもらいましょう。」
「あ……、はい、そうですね。知識欲に目が眩んでしまって、礼を失していました。すみません。」
『!--僕は何時来て貰っても良いからねー、また会えるのを楽しみにしているよ~。--!』
屋敷に入って、点呼。使用人達も全員揃っている事を確認し、屋敷を元の場所へ戻して貰った。
突然出現した屋敷に、屋敷の回りに集まっていた野次馬達は仰天していた。
屋敷は、元あった場所に寸分違わず出現し、基礎の石も全くズレていない。すごいよねー。
「では、早速調査の申込みを入れてもらえんかの。」
「えっ、今帰ってきたばかりなのに? 非常識でしょ。」
「お、おい、ロルフ。流石にそれは、駄目だろ!」
「そうよ、神竜にご迷惑よ!?」
そうだそうだ、エイダム様とエバちゃま、もっと言ってやれ!
『!--僕は全然構わないよ~。--!』
『!--えっ、いいの? それはそれで非常識でしょ。--!』
常識を知らない人間 vs 人間の常識なんて知ったこっちゃ無い竜で、ドロー!
「フィンフォルムがいいって。」
エイダム様とエバちゃまが、やれやれというポーズをした。
『!--それじゃ、お師匠とアクセルだけでそっち行くから、よろしく頼むよ。--!』
『!--待ってるよ~。--!』
お師匠とアクセルは、中庭に出ると、真上に向けてすっ飛んで行った。
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