第171話 ヒドラと一緒

 「さて、私は残りの水竜と空竜に会いに行こうと思うんだけど……」


 「はいはいはーい! 今度こそわたくしが同行しますわ!」


 「私も当然行くわよ。」



 今回は、ヴィヴィさんとケイティーと竜達は確定かな。



 「こら、わしも入れんか。」


 「じゃあ、お師匠も確定、と。後は、プロークとフリーダね。」


 「ヴェラヴェラも行く?」


 「あたいはー、なんか怖そうだから遠慮するよー。泳げないしー。」



 あ、私も泳げないや!

 てゆーか、今更気が付いたんだけど、水竜って、もしかして海の中に棲んでたりするのかな?

 地竜が極寒地獄の氷の大地で、火竜が硫化水素と酸の湖の中に居た所を見ると、強ち有り得なくはないぞ? 超水圧の光も届かない深海の底という可能性もあるのか。

 うーむ、ヒドラに聞いてみるか。



 『!--ヒドラー、水竜って、どんな所に棲んでるの?--!』


 『--えー、わかんなーい!--』



 こいつ……、イラッとするなー。

 じゃあ、どうやって私達を水竜の所へ案内するつもりなんだよ!



 『--それは、大丈夫だよー。じゃあ、あのサンゴ礁の砂浜で待ってるからねー。--』



 脱力する。何だよ、可愛い設定まだ続くんかよ。キャラ作んなよ。

 私は、皆にヒドラが水竜の元へ案内してくれるのかと思っていたのだけど、棲家は知らないらしい、でも、なんか大丈夫らしいという事を伝えた。



 「なんとも、不安しか無い様な話じゃな……」



 うん、お師匠の言う通り。どんな装備を持っていけば良いのかすら分からない有様。

 取り敢えず、ヒドラに会いに行って、どうするのか確認してからだなー。



 「じゃあ、今からちょっと行ってみよう。」


 「ちょっと待って、そんな、近所の家へお使いに行くみたいなノリで大丈夫なの?」


 「へーきへーき、あ、子飛竜達は、ちょっとお留守番しててね。ヴェラヴェラ姉さんと遊んでて。」


 「「「えーー、ブーブー!」



 遊びに行くんじゃないから。

 居場所を特定したら、何時でも好きな時に連れて行ってあげるから、今回は我慢しようね。



 「じゃあ、行きます。」



 私は、謎空間ヌル・ブライヒの扉を開き、6人でその中へ入った。

 もう、慣れたもので、誰も紐で結ぼうとは言わない。



 「ほう、あの時出来た宇宙があんな所に見えるぞ。」


 「あー、本当だー。懐かしー。」



 ケイティーの言葉に感情が籠もってない。よっぽど怖かったのだろうけどね。


 あのサンゴ礁の白い砂浜をイメージすると、瞬時にその場へ移動した。

 あ、ヒドラ、もう来ているね。私達は、扉を開いて謎空間ヌル・ブライヒから出た。ちゃんと全員居るね、ヨシ。



 「やあ、ヒドラ、お待たせ。」


 『--やあ、ソピア、来てくれて、僕嬉しいよ。--』



 尻尾をパチャパチャやってる。可愛い。



 「ちょ、ちょっと、ソピア、これの何処が可愛いのよ!」



 ん? 可愛いじゃん? 容姿はちょっと怖いけど、性格がさ。まあ、キャラ作ってる感じは有るけどさ。



 「「「「「いやいやいやいや……」」」」」


 「んん? 今だって、『やあ、ソピア、来てくれて、ボク嬉しいよ。』って、子供みたいに喜んでいたじゃん?」


 「違うぞ、今わしらには、『良く来たなロルフよ、歓迎しよう。』と聞こえたのだぞ。」


 「あら、わたくしには、『小さき者よ、我が前へ出る事を許そう。』と聞こえましたわ。」



 皆の方を見ると、コクコクと頷いている。

 どゆこと? まさか、9つの頭で、皆には私と違う思念を送ってるの?



 『--そんな事、僕してないよ。--』


 「んん??? 人によって聞こえ方が違うのかな?」


 「恐らく。言葉に思念テレパシーを載せて、相手の意志を自動的に翻訳して受け取っておるという事は、お互いの力関係や立場の違いによって、受け取る言葉に補正が掛かっておるのじゃろう。」



 マジでか、人によって違う風に聞こえてるとは思わなかった。じゃあ、私の言葉はどういう風に相手に聞こえてるんだろう? ちょっと怖いな。



 「まあ、でも、大きな意味合いは違って無いから、良いでしょう。」


 「お前は、大雑把じゃのう……」


 『--じゃあ、ソピア、僕が水竜様の指示通りに進むから、その後に付いて来て。--』


 「分かったよ。一旦あっちの空間へ入るけど、付いて行ってるから心配しないでね。」


 『--わかったよー、わーい。--』



 可愛い。

 私達は、再び謎空間へ入って、ヒドラの後を追う事にした。

 ヒドラは、一瞬見失った様にキョロキョロしていたけど、気配は感じるみたいで、暫くしたら、9つの首がこっちを向いた。そして、ウインクした。



 「ほらね、可愛いでしょう?」


 「「「いやいやいやいや」」」


 「ソピア、我が言うのも何だが、お前の感性はちょっと可笑しいぞ?」



 フリーダもプロークの言葉に頷いていた。なんだよ、もう!

 ヒドラが動き出したので、私はその後をゆっくり着いて行く。ゆっくりでも無いのか、ヒドラは海中を結構な速度で移動しているみたいなんだけど、謎空間内から見ると、空中でも海中でも、どんな障害物が在ろうとも、同じ速度で移動できるからゆっくりに感じるんだ。海中に入っちゃうと、360度水で、どっちへ向かって進んでいるのか分かり難いな。



 「真っ直ぐ東へ向かっておる様じゃな。」


 「お師匠、この空間内で方角分かるんだ?」


 「うむ、海面から差し込む日差しの角度で、大まかにじゃがな。」



 私達は、この後直ぐに後悔し始めた。

 海中ではそれ程の速度は出ないのを忘れていた。私達がじゃないよ、ヒドラがだよ。

 空中でなら、音速で飛んで行く事が出来るのだが、海中だと精々毎刻120リグル(時速96キロ)程度なんだ。これでも、こんな大型生物にしては、とんでもなく早いんだぞ。

 地球だと、バショウカジキが時速110キロで、海中生物中最速です。


 そんな、何時も音速でかっ飛んでいる私等から見たら、ノロノロ速度で進んでいると、いつの間にか夜になってしまいました。



 「ふわー……、私、ちょっと寝ていい?」


 「待てコラ、運転手が一番疲れているんだぞ! 居眠り運転して、ケイティーだけ落っことして行くぞ!」



 そこから更に半日進み、私も限界に来た。

 眠い、マジでヤバイ。この中で眠っちゃったら、皆がどうなるのか分からない。



 「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待って、これ何時までかかるの? 一旦外へ出よう。」



 私は海上へ出て、謎空間から皆を出した。

 ヒドラにも一旦泊まってもらい、対策会議。

 その結果、私達は海上を飛行して、順番に運ぶ役を決めて、交代で眠る事にした。

 あ、そういえば、竜は半球睡眠出来るんだっけ? 私達を運んで貰えないかな?



 「構わぬぞ。フリーダもそれで良いか?」


 「はい、ですが、こんな事なら我が子達も連れて来れば良かったですねー……」



 うーん、暗に私の判断ミスを責められている気分……

 仕方無いじゃん、こんな事になるなんて思わなかったんだから。



 「そ、そんな、責めるだなんて、滅相も御座いません! どうか、お許しください。」



 恐縮されてしまった。あー、うん、御免ね。ちょっとパワハラ気味だったかなー。上司の言動って、難しい。



 「では、お言葉に甘えさせて頂き、お先に眠らせて貰います。」



 私がお礼を言ったら、更に恐縮されてしまった。

 なんだろう、丁寧に言うと、慇懃無礼みたいに取られかねない。上司って難しい。



 ふう。




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