第113話 変身術

 「あなた達! なんて格好で歩いているの! ここには男性の使用人も勤めているんですよ!」



 メイド長に怒られた。えー、使用人が主人に説教するの?

 ここは権力に物を言わせて……



 「「「「ごめんなさーい。」」」」



 全力で謝った。メイド長怖いです。

 立場を越えて叱ってくれる人は貴重です。はい。なんて言ったって、私等はまだガキだもんね。プロークとヴェラヴェラの歳は知らないけど。

 後で聞いたら、ヴェラヴェラの歳は125歳、プロークに至っては、5000歳を越えているらしい。もう面倒臭くて数えて無いって。

 あの洞窟の財宝は、4000年位前に巣立ちをしてから、こつこつ集めてきた、『自慢のキラキラコレクション』だそうだ。人間の基準で価値があるとか無いとかは関係無く、キラキラして綺麗な物を集めた、自分だけの宝物的な物だったらしい。そんな大事な物を私達にくれちゃったんだ。



 『--我はそなたの眷属になったからな、当然だ。--』



 眷属ってどういう意味だっけ、確か、一族とか家族とか仲間みたいな意味だっけ?



 「うん、そうだね。仲間だ。眷属眷属。」


 『--ソピアよ、我々竜族が自分より強い者に忠誠を誓い眷属の契りを交わすという律に従っておるというのを知らぬのか?--』


 「えっ? そうなの? じゃあ、家族としてよろしくね。」


 (こやつ、意味を分かっておらぬ気がするなぁ……)


 「神様は呑気なんだよー。あははー。」



 ヴェラヴェラに呑気言われた。ほら、プロークも呆れ顔だよ。

 メイド長が怖いので、プロークには取り敢えずバスローブを着せて、ケイティーの部屋へ退避。



 「ところでさ、その左腕は、魔力で治せたの?」


 『--いや、これは胸の辺りの肉を寄せて作ったもので、筋肉ではなく魔力で動かしているだけなのだ。変身を解けば腕と翼は無いぞ。--』



 そうなんだ、うーん……それが出来るなら腕要らなくね? と思ったのは内緒だ。それよりも、体積が減るのはどうなっているんだろうね?



 「これ、着れないかなー?」



 ケイティーが自分の普段着を出して来てくれた。背格好をケイティーに合わせたのは正解だったな。ヴェラヴェラみたいに服まで再現出来れば良いんだけど。そう考えると、複雑な布の質感まで再現しているヴェラヴェラって、超絶器用だよなー。



 「美人の顔の黄金比は、髪の生え際から眉:眉から鼻先:鼻の下から顎先、までの長さの比率が同じで、頭を横に五等分にした時に、顔の輪郭から目尻までの幅:目尻から目頭の幅:両方の目頭の間の幅:目尻から目頭の幅:顔の輪郭から目尻までの幅、が均等になる。」



 その他、鼻の先から目尻までの角度が90度。Eラインと呼ばれる、鼻先から顎までに直線を引いた時に口はそのラインの内側に収まっている。鼻の下から口:口から顎先までの比率が1:2となる。等々を図に書いて解説した。


 おやー? なんとも人造的な美人が出来上がったぞー? まあ、これでいいか。



 「耳はどうする? このままじゃつまらないよね。エルフみたいに尖らせよう。」


 『--こうか?--』


 「いいねー。髪の色は銀髪ロングで。」


 『--こうか?--』


 「ああ、いい。萌える!」


 「ちょ、ちょっと、ソピア、変なスイッチ入ってる!」



 はっ! 危ない危ない、楽しくてついのめり込んでしまった。

 いいねー、いいねー、ずっと眺めていられる。

 ケイティーが持って来た姿見に全身を映して、プロークにこの姿を覚えてもらう。



 「人形に変身する時は、これでお願いね。」


 『--うむ、わかった。善処する。--』


 「結構皆で遊んだので、お昼になっちゃった。食堂へ行こう。」



 廊下で会ったメイド長に、ドラゴンのプロークは、今後この姿で屋敷内に住みますと言う事を伝え、食堂へ直行。

 食堂には、王宮で仕事をしているヴィヴィさんとウルスラさんが、昼食を食べに屋敷へ戻って来ていたので、プロークを紹介する。


 「あらぁ、ずいぶんと美人さんになっちゃったのねー……」


 「魔力の身体操作で、容姿は想いのまま……」



 そこまで言った時、おばさま二人の目つきが変わった。



 「「ちょっと、詳しく説明しなさい!」」



 何よ怖いよ。今まで、変身技能は、特定の精霊とか妖精とかの特殊能力だと思っていたらしい。

 魔力でどうにか出来るなら、私達も覚えたいって事だそうだ。

 魔力の身体操作って、ヴェラヴェラみたいに腕を伸ばしたり他人に化けたりみたいなもので、ここまで汎用性が有るとは思いもよらなかったって。美容方面への応用は計り知れないと色めき立っている。



 「「ヴェラヴェラ先生! どうか私達にもご教授を!」」


 「先生? あたいがー、先生だってー。」



 嬉しそうだな。

 しかし、この世界の魔導文明の中で、今まで誰も魔力の身体操作を思い付いて居無かったっていうのは不思議な話だな。



 「そりゃそうよ。ソピアちゃんが居なければ、人間は、森の住人のドリュアデスとも魔族とも、トロルや竜族とも、こんなに関わり合う事なんて無かったんですからね。」



 まあ、そのうち誰かが関わって知識交換をしたかも知れないのだけど、この情報の行き来の少ない、中世レベルの世界では、その知っている人が寿命で死んだりしたらそこで技術も知識も途絶えるって事は頻繁にあったんだろうね。所謂、ロストテクノロジーってやつだ。

 そうならない様に、ヴィヴィさんは学校を作って一所懸命に学問として広めようとしているのだ。

 お師匠の知識だって私の知識だって、エピスティーニの知識ライブラリーだって、きちんと若い世代に教育して伝承していかないと、やがてロストして歴史の彼方に埋もれてしまう運命だろう。ヴィヴィさんは頑張っている。

 魔力の身体操作に関しては、私欲な気がしないでもないけどね。



 「それで、どうやりますの?」


 「ん~とね、体の中にぐーっとして、熱く成って来たら、ぐにゅ~ってなる様にするの。そしたら、ぱーって変わるよ。」


 「「????」」



 この説明でプロークは習得したのだろうか。それはそれで凄いな。

 プロークに聞いた方がわかり易いのかな?



 『--身体強化をするのとは逆の感じで、一旦柔らかくしてからイメージ通りに固める感じかな。--』


 「「ふむふむ」」



 それで何で体積まで変わるのかが不思議。



 『--あっちの方向に入っている比率を変えるだけだ。--』



 プロークが、上の方向を指差した。

 それを見て、ヴィヴィさんがはっと気が付いたみたい。



 「ああ、多次元軸空間ね。」


 「魔導倉庫空間ですね。」


 「イマジネーション空間か。」



 人によって名称が一定しない。ウルスラさんの言う、魔導倉庫空間って言うのが一番ピンと来るかも。

 詳しく解説すると、あの魔導倉庫空間っていうのは、我々が知覚出来ない軸の方向で、今の所一部の魔導師しか見たり触ったりが出来ていない。

 この世界の空間は時間軸を除けば一般的に3つの軸、所謂3次元と認識されているが、他に3つの軸もあると謂れ、そちらを利用するのが魔導倉庫なのだ。つまり、この世界と違う別空間という訳ではなく、この世界と同一の、認識されていない部分という事になる。

 なので、我々の体は、こっちの3次元空間内にだけ存在する訳では無く、もう3つの方向へもはみ出している。7次元の空間に全部有るのだ。

 プロークは、その全ての軸方向への比率を変更していると言っているのだ。

 考えてみれば、魔導倉庫に物を収納するのだって、こっちの3次元部分の比率をゼロにして、もう3つの方向への比率を100にしているに過ぎないとも言える。ちょっと考えれば分かる事だった。

 全ての軸方向へ均等に配置されているデフォルト状態から、あっちの部分をゼロにしてこっちへ全部持ってくれば、見た目の体積を倍にする事も出来るし、こっちの比率を少なくすれば、限りなく小さくなる事も出来る筈。



 「あれ? 何かこれ凄くない?」


 「凄いわね。」


 「ええ、何故今まで誰も気が付かなかったのでしょう。」



 でも、魔導倉庫の鍵を使わないであちらへアクセス出来る人って、極限られるんだよね。

 私は今の所出来ていないし。

 この中で出来るのは、ヴィヴィさんとウルスラさんだけか。



 てゆーか、今ここに居る中でで出来ないのは私とケイティーだけだった。



 「私、なんか出来そうだよ。ほらほら。」



 体がちょっとブニブニしてる。

 出来ないの私だけじゃないか、ちくしょー!




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