第112話 プロークの変身
次の日、やっぱり寝坊。
ケイティーは既に起きていて、朝食は済ませてお茶を飲んでいた。
クーマイルマは暗い内から学校へ走って行くので、あまり顔を合わせない事が多い。もっと話したいんだけどね。
ヴィヴィさんもウルスラさんもとっくに王宮へ出かけた後だった。
「はあ、ケイティーは試験の翌日だというのに、元気そうだよね。」
「あら、あの程度で翌日に疲れを残す程の歳ではないわ。」
私は年寄りですか、そうですか。
スクランブルエッグとフレンチトーストとミルクで朝食。うん、多分料理の名前は違うんだろうけど、地球で言うそれとほぼ同じ料理なんだ。あと、サラダも欲しいな。
この中世レベルの世界では、これでもすごい贅沢な食事なんだろうな。でも、栄養とかの概念は無さそうだから、結構偏った食事を出してくる。だって、今、目の前には卵とミルクとパンしか無いんだよ? 腹が膨れて美味しければ何でもOKって感じだよね。平均寿命短そう。まあ、平均寿命ってのも新生児や子供の死亡率も含まれてるので、大人の平均余命とは関係無いんだけどね。所で、お師匠の歳って幾つなんだろう? 森の中で自給自足の健康的な生活をしていたから長生きだったのかな? 王都に住んでいたら、間違い無く寿命が縮みそうな気がするなー……とか、つらつら考えていたら、何時の間にか食事が終わってしまった。
今度、屋敷の料理人連中にも栄養学もどきを講義しないといけないな。
食事が終わって、ケイティーと一緒に中庭に出てみると、ヴェラヴェラとプロークが遊んでいた。
「仲が良いね、あなた達。」
「おー、神様ー、おはよーだよー。」
『--御機嫌良う、我が主よ。--』
「私はプロークの主に成った覚えは無いよ。」
『--しかし、我より強くて、我の面倒を見てくれる者だろう? 我はペットとかいう立場では無いのか?--』
「プロークは、ペットじゃないよ、友達だよ!」
『--そうなのか?--』
「神様は、いつもそう言うんだよー。」
「だから、神って言うなよ!」
朝から血圧が上がるよ! 誰だよプロークにペットとか吹き込んだのは!
『--ヴェラヴェラよ、ソピアは神と呼ぶと怒るのか?--』
『--うん、結構怒るよー。何が嫌なんだろうねー。本当の事なのに。--』
『--お前には、あの者の魂魄の中に神格の輝きが見えているのか?--』
『--うんー、すっごい光ってるよね。自分じゃ気が付かないもんだよね。自分の魂魄は自分で見えないしー。鏡に映すと見えないしー--』
「何か、内緒話しているだろう! 分かるんだぞ!」
この人外コンピは一体何時も何の話をしているのだろうね。
仲良く楽しそうにしているのは良い事だけどさ。
『--我はヴェラヴェラに魔力の身体操作を習っておったのだ。人に化けられる様に成ったぞ。--』
えっ? なにそれすごい。じゃあ、こんな外じゃなくて、お屋敷の中で暮らせるじゃん。朝も一緒に食事出来るじゃん。
「凄いじゃん! やって見せて、やって見せて!」
『--良いぞ、それっ!--』
プロークの体が、粘土細工というか、液体っぽい動きをして体積を減らして行き、人の形に纏まって行った。
『--どうじゃ? これなら外に出て歩けるであろう?--』
「……」
「……」
「うーん……?」
最後にヴェラヴェラが言った様に、本当にうーん……だった。
まず、第一に人間っぽくない。二足歩行の爬虫類っぽい。髪の毛が無い。目がドラゴンズアイだ。肌が、肌色ではあるのだけど、鱗だ。これでは亜人にすら見えない。
ヴェラヴェラが器用に他人に化けるのを見ているだけに、ちょっとというか、逆にビックリした。服もちゃんと再現しているんだよね。なのに、プロークは素っ裸だ。
『--うむー、良い線行っていると思ったのだがな、何処が駄目なのだ?--』
まだ習いたてだからなのか? いや、根本的にセンスが無いのか?
「もっとこう、ヴェラヴェラみたいに上手く出来ない?」
『--はて、我には違いが良く分からぬ。--』
あー、竜から見たら、人間は皆同じに見えている可能性があるぞ? いや、人間どころか、二足歩行の動物は皆同じ見えている可能性もある。ゴブリンもオークもコボルドもオグルも、そしてトロルも一緒なのか? 大きさの違いだけ? ザッパすぎるだろう。
この調子だと、人間と魔族の違いも、性別に寄る容姿の違いも分からないに違いない。
人間だって、他の動物の違いは良く分からないとはいえ、流石にニホンザルとゴリラの違いは分かるよ。ニホンザル同士、ゴリラ同士の個体に違いは、飼育員でもなければ見分けは付かないかもしれないけど……
「私とケイティーの違いは分かる?」
『--うむ? 大きさの違いか?--』
「あ、じゃあ、ケイティーとヴィヴィさんの違いは分かる?」
『--流石にそれは分かるぞ。年齢の違いだな。ケイティーの方が若いのだろう?--』
「プロークの考える、美女とは?」
『--若くて、髪の毛が長いメスの事だ。--』
「性別はどうやって見分けているの?」
『--うむ、ニオイ……かな。あと、声が高い。ちょっと細い感じもする。--』
その程度の認識なのか。
確かに、男と女はニオイが違うらしいし、歳取ると声の音程は低くなる。歳取ると太る人も居る。ヴィヴィさんがそうだという訳ではないけどね、プロークはそういう所で男女と若いかどうかを見分けていたんだ。
後でヴィヴィさんに教えてあげよう。容姿をケイティーと比べられた事に落ち込んでいたもんね。
じゃあ、髪の毛の長いメスを美女だと認識しているなら、変身した姿は何で丸坊主なんだよ。
「プローク、もっと良く人間を観察するんだよー。人間の皮膚に鱗は無いよー。」
『--うーむ、中々難しいものだな。お前器用だな。--』
「それと、髪の毛は生やそうよー。」
『--むむ……、鱗を変形させれば何とかなるか? うーむ、こうかな? 出来てるか?--』
髪の毛がメデューサの蛇みたいにウネウネ動いている。気持ち悪い。
「髪の毛は動かせなくても良いんだよー。」
『--そうなのか? では、もっと簡単に出来そうだな。--』
その後、髪が太すぎるだの、耳には毛は生えて無くてもいいんだよとか、首には毛は生えていないよとか、私達監修の元、色々微調整していった。
眉を生やそう、睫毛も生やそう、瞳はドラゴンズアイではないぞとか、歯の形は平たいよとか、舌の先は二つに別れていないとか、顔だけでもこの有様。全身となると、脚は鳥足じゃないとか、爪の形があーだこーだ、指の本数があーだこーだ、女の子だから、もっとウエストを細く、胸は膨らませて、等々。
まるで、皆で粘土細工というか、等身大のフィギュアを造っているみたいにあっちこっち弄り回して、なんとか形になった。
年格好はケイティーを基準にしたら良さそう。ヴェラヴェラもそうしてるしね。
「以上を踏まえて、ここに良い見本が居るので、ケイティーをになるべく似せるようにしてみて。」
『--う、うむ、こうかな?--』
うん、年格好が同じ位の美女……美女? になってきたかな?
「そそそ、ソピア、私って、こ、こんな顔、なの、かな?」
「大丈夫だから、似てないから、大丈夫だから。」
ケイティーが泣きそうな顔でこっちを見てくる。
やはり、一番議論が白熱したのは、顔の造型で、プロークはそもそも人間の感覚の美醜を理解していないので、ちょっとへんてこりんなのだ。私が作ろうとしている顔と、ケイティーが考えている顔に結構違いが有るのも分かった。
私は、東洋人顔っぽい可愛いのを目指していたのだけど、ケイティーは、ギリシャ彫刻的な美女を考えているっぽい。流石にアニメ顔は避けたけどね。
顔はやっぱり、外に出て歩いても二度見されない様に、こちらでよく見る系の北欧系の顔にしておくか。
「まあ、顔は取り敢えずそれで、追々微調整して行こう。それより、私が希望するのは、音声での会話なんだ。」
『--テレパシーでは不都合あるのか?--』
「それだとね、魔力の無い人とは会話出来ないんだ。」
「はい、ケイティー、あーんして。」
「あーーん。」
「口の中の形とか、喉の形を良く見て真似してみて。」
プロークに口の中をまじまじと観察されているケイティーの絵面。
「ねえ、これ私じゃなくても良かったんじゃない?」
『--こんな感じかな?--』……「ぼあー、ボエー、ぐげげ。」
うーん、口の中だけ真似ても、声帯までは真似できないよなー。どうしよう。こんなに苦労するとは思わなかった。
そういえば、ヴェラヴェラってどうやっているんだ? センス凄いんじゃないかと思えてきた。
「発声はちょっと難易度高そうだから、当分はテレパシーでいいや。その姿なら、屋敷の中に入って一緒に生活出来るから便利になるよ。」
『--うむ、では、お世話になるとしようか。--』
お屋敷の中に入って行ったら、男性の使用人と女性のメイドさん達が悲鳴を上げた
あ、いけね、プローク、すっぽんぽんだった。
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