第44話 ケイティーの特訓
「私の問題が解決していないんだけど!」
「わっ、びっくりした! 何じゃいきなり!」
「みんなー、現実逃避する時間は終わりましたよ!」
「そ、そうよね、ソピアちゃん、はい、お茶。」
ヴィヴィさんは、まだ帰ってきていない様だ。
「つまり、弓矢で音速の三分の一程度、スリングショットでは音速の半分位。黒色火薬のマスケット銃で音速よりちょっと遅い程度の速度じゃな。」
「EMLで音速の17倍。」
「それは、取り敢えず置いておこう。」
どっちにしろ、リアクター生成から発射までのプロセスに時間がかかりすぎるもんね。
弓矢の速度は意外と遅くて、秒速90メートル程度なんだ。遅いと行っても、時速に直したら300キロ越えてるんだけどね。
「昔からある、簡単に速度を出す方法としては、紐を付けて振り回すという方法がある。」
「そっか、遠心力!」
投石機のスリングとかいう武器も、腕の長さを紐で延長して回転半径を長く取る事によって、同じ角速度でも円周速度を増加させて、威力を高めるという武器だ。
魔力で分銅を半径2メートルで振り回した場合、凡そ秒速27回転程度で音速に到達する計算に成る。
パソコンに入っているハードディスクの回転速度は5400rpmとか7200rpmとか表記があるけど、これは分速なので秒速に直すと、秒速90回転とか120回転という事になる。
秒速27回転は、筋力で出すには少々難しいかも知れないが、魔力でなら全然いけそうだ。
ちなみに、アメリカのカウボーイが持っている皮の鞭は、先端速度が音速を超えると聞いた事がある。
パーンと鳴る音は、音速を超えた時のソニックブームなんだって。
私は、さっき取り出した弾丸のうちの、親指の先大の鉄球を数個取り出し、身体から半径2メートル地点を周回運動させた。
回転数が、毎秒27回転を超えた辺りで、バーンというソニックブームが発生した。
「やった! 音速を越えた!」
「ほう、それで、威力は如何程の物になるのじゃろうな?」
私は、近くに在る岩までスタスタと歩いて行き、鉄球を当ててみた。
ガンッ! ガガガガン!!!
チュインチュインチュイン! ビシビシビシッ!!!
「うわたた! ヤバイヤバイ! 弾と破片がこっちに跳ね返ってくるよ!」
「自身は祖力で防御必須じゃな。その位の使い分けは苦でも無いじゃろう?」
「だね、結構使い勝手良いかも。これでタイラントぶっ殺せるかな。」
「甲羅は高く売れるから、あまり傷は付けたくはないな。頭を上手く狙えれば、十分な威力じゃろう。」
「もう少し回転半径を狭めて、半径1ヤルト程度なら、54回転ってとこか。弾丸の大きさとか、回転半径とかもう少し試行錯誤してみると良いかも。」
「じゃな、自分の使い勝手の良い所を探ってみると良いじゃろう。」
そこで、お茶を飲みながら現実逃避していたヴィヴィさんが再起動してきた。
「それ、音速を超えた辺りで目標に向かって放してやれば、スリングショット? の代わりにもなるんじゃないかしら?」
「あっ、そうか。でも、弾丸が消耗するなー……。でも、使い所によっては良いかも。」
試しに、遠くにある岩に向けて1発発射してみた。
……とんでもない方向へ飛んで行った。
「これ、意外とコントロール難しいかも。」
ロックドラゴンさんに練習相手に成ってもらおうかな、と、左手の崖の方を見たら……
「あー、うん、あそこの生息地が絶滅していないと良いわね……」
その頃、王都では、南東方向の山脈から轟いた爆音で騒然と成っていた……。
◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇
翌朝、私は王都のハンターズギルドへ行ってみた。
約束はしていないのだけど、ケイティーに会えるかなと思って来たのだ。
「あー! ソピアちゃーん! いたいた!」
ハンターズの建物に入るなり、ケイティーが駆け寄って来た。
もう、連絡先教えてくれないから、ずっと待ってたんだよ。
あれ? 何か約束していたっけ?
「また、捕獲クエストが出てるんだよ!」
ああ、そうだった、一緒に捕獲で荒稼ぎしようって約束していたんだった。
ケイティーに依頼ボードの所へ引っ張って行かれて見せられたのは、首刈り兎の捕獲クエスト。
「これこれ! 首刈り兎を40頭捕獲するクエスト。報酬は大金貨1枚。」
「ええー、単価安いよー。」
「だめ?」
「うーん、だめって事は無いけど、あまり経験に成らないんじゃないかな。」
「そっかー、私、ソピアちゃんと一緒にクエストこなすのが楽しくって、報酬とかはあまり気にして無かったよ。」
「いや、気にしようよ! どこの大金持ちのお嬢さんだよ!」
確かにここの所、高収入の案件ばかりやっていて懐はかなり温かいのだけど、そのせいかケイティーのマインド的に良くない傾向になって来ているのかも。ハングリー精神というか、そういう狩人の鋭い感じが無くなってきている。これはマズイね。
「ケイティーさ、今日は一緒に特訓しない?」
「特訓? いいね、やろやろ!」
遊び感覚だよ、この子。そのうちいつか大怪我するかも知れない。
ちょっと厳し目に活入れるか。
やって来ました、王都の南門外の草原。
「ここって、首刈り兎が沢山で居る場所だよね?」
「そう、剣術の訓練を私としながら、襲ってきた首刈り兎を倉庫へ放り込む。」
「えー? それって忙しくない?」
「忙しいよ。スムーズな倉庫の操作と剣術の特訓を同時に出来る、画期的なエクササイズでーす。ルールは、倉庫の開閉は、必ず、1回開いたら毎回閉める事。まずは、私と剣術で戦います。」
「オッケー、真剣でいいの?」
「いいよ。私は魔力の障壁があるから。私は木刀を使います。」
立木の枝をへし折って、丁度良い長さの棒を作成。
「これで相手します。では、開始!」
実は、私は、京介時代に剣道を習っていたんだよね。
そこそこの腕前だとは自負している。
このソピアの身体でどの位動けるのかは分からないけど。
「やー!」
ケイティーが動かないので、私はススッと摺足で間合いを詰めて、脳天へ軽く一撃をお見舞いした。
摺足は、頭の上下運動が少ないので、近寄ってくる動きが読み辛いのだそうだ。
達人だと、気が付いたら間合いに入られていたりする。
「痛ーい。酷いよー。」
「酷く無い。これは遊びじゃなくて、本当の訓練なんだよ?」
ケイティーの目に怒りの炎が灯った。
だけど、動きは相変わらず悪い。
本当にサントラムの剣術科を卒業したのかな、この子。
最初に会った時はこんなんじゃなかった気がする。私が甘やかしてダラケさせちゃったのかな。
「胴ー! 小手ー!」
剣を取り落とした。
「痛いー! 友達だと思っていたのに、酷いよ、何でー!?」
「横!」
座り込んで泣き言をいうケイティーの左から飛びかかって来た首刈り兎を、私は首に牙が当たる寸前で素早く倉庫へ格納した。
「はい、ケイティー、あなたは今ので3回死んだ。」
「!」
「いい? ケイティー、あなたは私が面倒を見すぎて甘やかせたせいで、ハンターの魂を見失ってしまっている。このままでは何時か、命にかかわる様な怪我をするかもしれない。」
「そんな……」
「私は友達として、耳が痛い事もあえて言う。このままのだらけた精神では、半年後の上級学校の入学も怪しい。入れたとしても、直ぐに落ちこぼれる。魔導鍵も返却しなければならなくなってしまう。」
「…………」
後ろから再び首刈り兎がケイティーの首を目掛けて飛びかかった。
しかし、私が鍵を操作するよりも早く、ケイティーは自分の鍵を操作して、首に牙が当たる前に収納した。
「わかったわ、ありがとうソピアちゃん。私の目を覚ましてくれて。」
ケイティーは剣を拾い、立ち上がると、私の背後から飛びかかって来た兎を、私よりも一瞬早く収納してみせた。
「どう? うふふ、私だってこれ位は出来るのよ。」
「凄いじゃない、魔力サーチも無しに。」
そこからのケイティーの動きは見違えるように変わった。
卒業時の勘を取り戻したかの様に。
私の攻撃は、段々と当たらなくなってきた。
逆にケイティーの攻撃が、当たり始めた。
魔力の祖力で、絶対に当たらないとは分かっているけど、迷いの無い手加減無しの斬撃が、顔や心臓目掛けて飛んでくるのは、あまりいい気分じゃないな。
でも、私の日本式剣道の動きと、ケイティーの剣術で、中々いい勝負に成っているかも。
私の見慣れない動きにしっかり対応して来ている。
時々、草むらから飛んで来る、首刈り兎も難なく捌いている。
首刈り兎が10回目位か、倉庫を開こうとしたケイティーの動きが止まった。倉庫が開かない。
私がその兎を私の倉庫へ収納した。
「はーい、ケイティーの魔力が尽きたので、休憩にしまーす。」
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