第32話 ハンターズライセンス

 最初の男の試験が始まった。

 手には木剣と革の盾を持っている。

 試験官は、1人が剣士で、もうひとりが魔導師なのかな?

 1人は隅の方で休んでいる。


 剣士の試験は、1対1のPvPみたいだね。

 でもさ、冒険に出たら、戦うのは魔物でしょう? 対人で強くても役に立たないんじゃないの?

 そんな事を考えていたら、ピーと笛がなって、試合は終了した。

 試験官は、息も切らせていないけど、受験者の方は、膝に手をついて肩で息をしている。

 無駄な動きが多いんだろうね。


 最初の人が帰ってきて椅子に座ると、2番めの人の番。

 この人も試験開始と共に、カンカンカンカン打ち合って、ピーっと笛がなって終了。

 戻ってきて、崩れ落ちるように椅子に座って、ゼーゼー言っている。


 3番めは、私に話しかけてきた女冒険者。

 この人も剣士みたい。この世の中って剣士人口の方が圧倒的に多いみたい。

 普通に魔法をそこそこ使える人は結構居るんだけど、戦闘向きなのはレアみたいなんだよね。


 女冒険者も、カンカンピーで終了。

 髪が汗でペッターと額や首筋に張り付いてるよ。纏めて縛っておけば良いのに。


 それにしても、試験官の人は3人も相手にして全然疲れている様子が無い。

 すごい人なのかな?


 私の番になって前に出たら、試験官の剣士の人は引っ込んで、さっきから壁際で休んでいた人と交代になった。



 「えーと、ソピアさん。あなたはどんな魔法が使えますか?」


 「ん? んーと、魔力操作と、青玉と、熱電撃と、魔導倉庫、かな?」


 「ええと、聞いたことの無い魔法がありますが、あなたはサントラム出身ですか?」


 「いやー、殆ど我流って感じかなー。」


 「我流、ですか。とりあえず、私が結界を張りますので、私に攻撃してもらえますか?」


 「えっ!? 当たったら死にますけど、大丈夫なんですか?」


 「ははは、大丈夫ですよ。私は防御魔法は自信がありますから。遠慮せずに撃って来て下さい。」


 「ええー……人に向かって撃っちゃ駄目なんだけどな。どうしよう。」



 この前、人の腕を粉砕して大変な事になったばかりだからなー……

 私、手加減苦手なんだよな。

 掠らせる位でなんとかなるかな?



 「撃ってくれないと、判定出来ませんよ。」


 「……わかりました、当てないように頑張ります。」



 まずは青玉。



 「当てない様に、掠らせるのもまずいよね。」



 私が青玉を生成し始めると、それを見て試験官が焦り始めた。



 「あ、青玉って、その魔法かー! ちょっとまって!」



 発射直前に言われても、途中で止められません。

 試験官の右横すれすれを狙って、えいっ!



 シュカーーーー……ン……



 試験官の展開した障壁を貫通して、背後のレンガの壁を音も無く貫通してしまった。

 試験官の頬を一筋の汗が流れ落ちる。



 「あ、当てないでくれて有難う。」


 「壁、ごめんなさい!」


 「ああ、大丈夫ですよ、私がやれって言ったんだから。」


 「それで、もう一つの魔法なんですけど、青玉よりももう少し強くって……」


 「あ、それは見せてもらわなくても、もう良いです。次は、防御の方を見せて下さい。」


 「防御、ですか。私が怪我しなければ、なんでも良い?」


 「えっ? あ、はい、今度は私が魔法を撃つので、怪我しないようにしっかり防御してくださいね。」



 私が突っ立っていると、試験官が心配そうに聞いてきた。



 「えっと、撃ちますよ? 良いですか?」


 「はい、何時でもどうぞ。」


 「ではいきますよ。ファイアーボール!」



 ファイアーボールは、発射されたと同時に試験官の鼻先で爆発してしまった。

 後ろへ吹き飛び、何が起こったのか分からない様子で呆然としている試験官。



 「えっ? 今一体何が……」


 「すみません。ファイアーボールは爆発する魔法なので、私の所に飛んで来ない様にその場で押さえました。」


 「「ええええええ」」



 試験官が二人共、腑に落ちないと言った様子です。



 「ちょっとまって、今度は私と対戦させて。」



 剣士の方の試験官が出てきた。

 革の盾と木剣じゃ、私が攻撃出来ないじゃん。



 「私が攻撃するから、全て防いでみてください。」



 あ、そういう事ね。防御力を見たいのか。



 「そ、それでは、行きますよ!」



 一々宣言しなくていいのに。

 なんか、華麗なステップで右に左に踊っているけど、これ、突き飛ばしちゃって良いのかな?



 「えいっ!」



 盾を前面に構えて、身体を小さく盾の後ろに隠れるようにして、ススっと近づいて来たと思ったら、盾で作った死角から、素早く剣を突き出して来た。

 ああ、上手いね。予備動作を見せない事で不意を突く事が出来る。


 でも、私には通じない。

 祖力放射で、その剣は私まで届かないのだから。


 試験官は、何度も剣を突き出すが、全て私の1アルム程手前で止まってしまう。

 物理攻撃は、決して私まで届かない。


 私が頭を軽く小突くと、試験官は、尻餅を突いて目をパチクリしている。

 と、思ったら、突然盾を投げ捨て、奇声を発しながら狂ったように剣を連続で突き出して来た。



 「きええええぇぇぇぇ!!!」



 いくらやっても届かないよ。

 私は再び、頭を小突いて転ばせてやった。

 しかし、彼は諦めないで、起き上がるや否や、再び剣を突き出してくる。



ガンガンガンガン!!



 怖いよ。

 キリが無いので、後ろ襟首を掴んで子猫の様に吊り下げて、壁際のもう1人の試験官の隣の椅子へそっと降ろしてあげた。

 それでもなお向かって来ようとして、もう1人の方に羽交い締めにされて止められてた。


 ボードに何やら書き込んでいた女性が、ピーっと笛を吹いて、試験終了を宣言した。



 「ごめんなさいね、いつもはあんな人じゃないんだけど。」



 お姉さん、困惑顔。



 「試験結果はロビーの方で通知しますので、そちらでお待ち下さい。」



 との事なので、お師匠の待つロビーの方へ行こうとしたら、さっき話しかけてきた剣士のお姉さんが話しかけて来た。



 「あなた、凄いのね。試験合格したら、一緒に狩りに行かない?」


 「いいな、その時は俺達も仲間に入れてくれ。」



 剣士のお兄さんも話しかけて来た。

 でも、私は先約があるのだ。


 ロビーに戻ると、お師匠が角のラウンジでお茶を飲んで待っていた。



 「お師匠、終わったよ。」


 「感触はどうじゃった?」


 「多分、受かると思う。ランクはどの辺になるか分からないけど。」



 お師匠と喋っていたら呼ばれたので、受付の所へ行くと、最初に応対してくれたお姉さんだった。



 「あなた凄いのね、試験官を二人共やっつけちゃったんだって? 合格よ。ランク2の試験官を倒しちゃったので、ランクは2からになります。」


 「うん、私は強いからね。」


 「調子に乗らないの! いくら強いと言っても、経験が全く無いので、油断すれば思わぬ怪我をする事もあります。最初は採集から初めて頂きますからね。」


 「えーーー。」



 あ、でも採集目的でハンターになったんだから、いいのか。



 「では、身分証を出して下さい。ハンターズライセンスにアップグレードします。」



 ドッグタグの様に首から下げていた金属プレートを渡すと、プレートに記述されている情報をハンターズライセンスの方へ移す作業を開始した。

 背が低いので、私の所からは、カウンターの向こう側でゴソゴソやっているのしか分からなかったけど。



 「はい、これが新しいハンターズライセンスです。」



 そう言って渡されたのは、金属プレートでは無く、小指位の長さの六方晶の水晶の様な形の透明な結晶だった。

 革紐が付いていて、首から下げる水晶のペンダントみたいな感じで、ちょっと良いかも。


 ハンターズライセンスを首から下げると、いつの間にか隣に来ていた、一緒に試験を受けた剣士のお姉さんが話しかけて来た。



 「あらあ、あなたのその色はランク2ね。羨ましいわ。私のなんて見てよ、B5よ。」



 ハンターのランクは、通常で20段階。最低がビギナーズ・レベル10で、最高がランク10だ。

 ビギナーズ・レベルは、通称Bランクと呼ばれている。

 Bランク10から順位が上がるに連れ、B9、B8、B7、……と数字が減って行き、Bランク1の次が、正式ランク1。段位で言う所の初段みたいな感じ。そこからは、2、3、4、……と、今度は数字が増えて行く。

 ランクの構造は、日本の武道の段位と同じだと思えば解りやすい。ビギナーズ・レベルというのが、級位で、ランクが段位に相当している。

 ランクが加算方式で数字の大きい方が強いという構造になっているのは、単純に、ランク1を一番強いとしてしまうと、必ずそれよりも強い者が現れて、その上にSランクだのSSランクだのを設定しなければならなく成るから。

 加算方式なら、単純により強い者が現れても、数字を足してやれば良いだけだからね。

 現在、確認されている最高ランクは、ランク18らしいよ。



 「一緒に狩りに行きたかったけど、こんなにランクが開いてたんじゃ無理よねー。」


 「そんな事無いですよ。私も最初は採集からしかやらせてもらえないし、一緒に行きますか?」


 「ほんと!? やった!」



 くるっと回って、ピョンと跳ねた。

 王都の女子って、皆回りながら跳ねるの?


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