第31話 ハンター試験
散策しながら道なりに歩いてゆくと、市場に出た。
果物や野菜が安い。買って帰ろう。
牛や豚肉も安い。これも買って帰ろう。
市場通りを抜けると、安い食堂が沢山立ち並んでいる。市場で新鮮な食材を仕入れて、直ぐに食べられる食事を労働者に安価に提供する店だ。
立地的に工区との境に当たるので、そっちからの客も沢山やって来る。食堂を経営するには最高の立地みたいだね。
そこを抜けると、工区に入る。
街の雰囲気が途端に変わった。地球で言う所の、丸の内のオフィス街みたいな感じ。
その一角に、一際大きな建物があった。
「あれがハンターズギルドじゃよ。わしらにはあまり関係がないがの。」
「でも、お師匠もヴィヴィさんも昔はハンターをやっていたんでしょう?」
「まあな、大戦時に招集されて、生き残った者は全員役付きになっちまったから、あそことはご無沙汰じゃがな。」
「今でもライセンスは持っているの?」
「さあなー、どうなんじゃろう? 昔過ぎて、記録が残っているのかも怪しいぞ?」
そんな会話をしながら、ハンターズ前は素通り。
工区のオフィス街っぽい所のさらに奥の方は、工場や工房があるみたいだ。錬金術工房はそっちだね。
「あっ! あったよ、錬金術工房!」
「ほう、なかなか立派な建物じゃな。」
たのもー! って、あれ? 何でヴィヴィさんが居るの?
「あら? ロルフ様とソピアちゃん。何故ここに? って、そう言えば錬金工房に用事があるって言っていたわね。私は魔導鍵の術式を書き込む素材の選定に来たの。」
「普通にミスリルじゃいかんのか?」
「コストがねー……、卒業生全員に渡すと成ると。」
「チタンとか、ジルコニウムはこっちには無いんだっけ?」
私の独り言に、錬金術師さんの目が一瞬光った気がしたけど、無視しておこう。
「セラミック……あ、いや、ガラスの芯に術式を書き込んで、銅とかの金属で巻いたらどうかな?」
「それだと強度が……、いや、いいかも。いいかも! ソピアちゃん、ありがとー!」
ヴィヴィさんは、私の言わんとする所が分かった様だ。
つまり、金属製の鍵の内部に封入した、衝撃に弱いガラス素材に術式を書き込む。術式を解析しようと通常の手順を踏まずに金属を剥がすと、ガラスの芯を壊してしまい、術式は失われる。
セキュリティー的に良い構造かもしれない。
ヴィヴィさんは、錬金工房を飛び出して何処かへ行ってしまった。
後に残された錬金術師さんは、ポカーンとしている。
「騒がしい女ですまんのう。」
「いいえ、王宮のお得意様ですから、よく存じております。何時もあんな感じの方ですよね。」
ヴィヴィさんの奇行はこの辺りでは有名らしい。
「所で、こちらのお嬢さんは一体……、錬金工房が最近やっと製造の目処を立てた秘密素材である、タイタンとジルコニウムを知っているとは。」
「ああ、こやつは、わしの弟子じゃ。」
「大賢者様の! はあー、この歳で。それでこの知識は納得致しました。」
なんか、一目置かれたぞ。
お師匠の虎の皮は遠慮なく被らせて貰おう。
ここに来た理由を告げると
「硝石はここに在庫はありませんが、採れる場所は判明しております。硝酸も同じ場所の洞窟で少量採集出来たと聞いております。アンモニアですか? それならお分けする事が出来ますよ。」
アンモニアはあった。
1瓶買って、お師匠の書架へ収納する。
硝石は、取れる場所を聞いたので、行ってみようか相談していると、錬金術師さんが慌てた様子。
「まさか、大賢者様ご自身で取りに行かれるなんて事は……」
「え? 駄目なのか?」
「とんでもないです! 生ける国宝の大賢者様にもしもの事があったら、私の首が飛ぶだけでは済みません!」
ああ、精錬所の所長と同じ事言ってる。
じゃあ、同じ対応で良いよね。
「くれぐれも、くれぐれも、私から聞いた事はご内密にお願い致します! もしも、どうしても御入り用ならば、ハンターズギルドにクエスト依頼を出されたら如何でしょうか? あの辺りは魔物が出ますから、専門家に任せた方が確実です。多少手数料は掛かりますが、絶対に安全ですから。」
「えーー、私が行きた、むぐっ……」
お師匠に口を抑えられた。
「そうか、すまんかったの。ハンターズへ行ってみる事にしますわい。」
私達は、錬金工房を後にして、ハンターズギルドへ向かった。
「もうっ! ハンターズに依頼しなくたって、私達でチャッチャッと飛んで行って取ってくればいいじゃん!」
「わしに考えがある。」
一応、錬金術師さんの心配は分かるので、そこを回避しつつ顔も立てるという方法だそうだ。
つまり、精錬所のおっさんと同じ心配をしている訳だ。自分の口から出た情報で、国宝である大賢者が危険な所へ行って、もしも怪我なんてされたら一大事って事なんでしょう? お師匠も面倒臭い立場に立っちゃってるんですね。
「おまえ、ハンターになれ。」
「は?」
どゆことよ、それ。
言われるがままに、商区でハンターっぽい衣装を調達。髪も布でぐるぐる巻きのうえ、口元も布で隠す。まるで忍者だ。これで誰だかわからない。
お師匠と少し離れてハンターズへ入り、一人で奥の受付の所へ行って、ハンター登録をしたい旨を告げる。
受付のお姉さんは、にこやかな笑顔とは裏腹に、乱暴に分厚い台帳を取り出すと、カウンターの上へドン!と置いた。
「お嬢ちゃん、お歳は?」
「12。」
「職能は?」
「魔導師。」
見習いという事は伏せた。
「一応、12歳からは登録できるんだけど、最初は採集位しか任せられないわよ? それだったら、街の飲食店でウエイトレスでもやった方が稼げるし、安全だと思うんだけどー。」
「知ってる。でも、私は強いから大丈夫。」
「んー、困ったわねー……、どうしてもと言われちゃうと、私が断る事は出来ないのよ。」
「どうしても。」
「私の知り合いの食堂でウエイトレスを募集しているから、そこを紹介してあげましょうか?」
「いえ、結構です。」
「お給料の事なら、私が頼み込んであげるから。」
「いえ、結構。」
「当面の生活費が無いのなら、私が貸してあげるから。」
「要らない。早く登録して。」
「ああ……」
お姉さん、頭を抱えちゃった。
偶にこういう子がやって来るので、諦めさせようと色々工夫しているんだろうなー。
わざと乱暴そうな態度で威嚇してみたり、懐柔してみたり。本当は優しいお姉さんなんだろうな。
「それじゃ、この番号札を持って、ランクを調べるから呼ばれたら部屋へ入って。」
ハンターズの奥へ行ってみると、私の前に番号札を持っている人が3人居た。
お兄さんが2人に、お姉さんが1人。
そのお姉さんが話しかけてきた。
「あら、あなたもハンターになるの? 受付のお姉さんに、止めるように説得されたでしょう? ウエイトレスに成れとか、売り子の仕事を紹介するとか。あの人、女の子がハンターに成るのを止めたいみたいなのよねー。」
この人もウエイトレスを紹介されたのか。
似合いそうではあるけど。
「試験ってどんな事をやるのか知ってる?」
「確か、剣士は単純に攻撃力のテストで、魔術士は使える魔法の種類を調べるはずよ。後は、簡単な面接試験だったかな。」
成る程、魔導師は、回復とか補助みたいにパーティーに貢献出来る何かを持っていれば、役に立つもんね。
パーティー行動前提で高ランクの活動が出来る方法も有るのか。
「今日の試験はこの4名ですね。中へお入り下さい。」
扉の中へ入ると、体育館位の広さの天井の高い空間に出た。
試験官らしき男性が2人と、判定員らしき男性が4角に一人ずつ、ボードを手に持って何かを書いている女性が1人居た。
私達は、壁際に用意された椅子に座って順番を待つ。
最初の1人が呼ばれた。剣士の若い男だ。
私は順番が一番最後なので、どんな試験をするのか、じっくり観察させてもらおう。
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