第30話 王都散歩

 午後になって、ヴィヴィさんが飛んで帰ってきた。

 持っていったロックドラゴンが、大金貨48枚で売れたって。

 ちゃんと血抜きもしてあって、内蔵もきちんと処理してあったけど、顎にある毒袋が無くなってたから、差し引きその値段。

 でも、一頭480万円相当なのは、かなり良い収入だ。

 超高速移動手段と魔導倉庫を確保したのも大きいね。

 ヴィヴィさんは、ロックドラゴンをどんどん狩れば、大金持ちだとはしゃいでいるけど、沢山流通させると値崩れするよと釘を指しておいた。この件に関しては、私に一日の長が有るのだ。


 お師匠に無言でコツンとやられた。

 ヴィヴィさんと私は考え方が似ているのかもしれない。



 「でも、沢山狩っても、他の町へ行って売れば良いのじゃないかしら?」



 出たよ、悪知恵大将。

 確かに超高速移動手段を得た今となっては、隣町どころか隣国へだって簡単に売りに行けるよ。

 でも、そんなに大量に狩ったら絶滅しちゃうよ?

 それに、私はロックドラゴンの卸業者に成るつもりはありません。

 それに、ヴィヴィさんは王都の上級官僚なんだから、それなりのお給料を貰っているはずだよね。

 勝手に副業したらまずいでしょう。



 「そうでしたー、てへっ。」



 頭をコツンってやったよ。

 ちょっとイラッとした。

 やべえ、以前は可愛いと思ってたんだけど、慣れてくるに連れてイラ気が出てきちゃったぞ。



 「それはそうと、お師匠ー。明日は何をしよう?」


 「うーん、爆轟の実験で未だ手を付けていないのは、火薬なんじゃがのう。硝石じゃったか? 入手の目処が付かんな。」


 「トイレの土を掘るのは簡便してよ。硝酸なら、アンモニアと空気の混合物を800度に熱して白金触媒で酸化すると出来ます。」


 「硝石と硝酸は違うのか?」


 「硝石は、硝酸カリウムの事だね。あっちの世界では、古くから使われてきた薬品なんだけど、こっちの魔導万能の世界だと、そういう科学薬品の利用は発達しなかったみたいだね。錬金術工房の人達が知らないとなると、お手上げです。アンモニア位はあるのかなー。」


 「よし、明日は王都へ行こう!」








◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇








 さて、朝です。

 朝食を食べて、ヴィヴィさんの出勤に合わせて3人で出発です。

 王都のお城の城門前に誰が最初に着けるか競争ね。



 「いいわよ。今度は負けないわ。」


 「わしはお前らに勝てる気がせんわい。」


 「じゃあ、この石を放り投げるから、これが地面に落ちた時がスタートね。」



 足元の石を拾って、ぽーんと上へ軽く放り投げる。

 それが地面に落下すると同時に、3人の姿がかき消えた。


 森の奥から王都へ向けて飛ぶ3本の矢。

 しかし、一本だけダントツに早い飛行物体があった。

 他の2つの倍近い速度で飛んで行くその物体の後方に青い光が見える。

 その物体は、僅か15分程度で王城の上まで到達すると急減速して、ふわりと城門の前に着地した。

 それから10分程してもう一つ、更に5分程してもう一つの物体も城門前に降り立った。


 1位はソピア、2位はヴィヴィ、3位がロルフ。



 「もーう、ソピアちゃん速すぎよー!」


 「参ったな、このわしがここまで引き離されるとは。」


 「しまったー。何か賞品を掛けておけばよかったよー。」


 「で、どうやったのかは教えてくれるんでしょうね?」


 「う~ん、それは当分秘密にしておこうかな。自分で答えを見つける様に。後で答え合わせをします。」


 「あーん、もう、意地悪ねー。」


 「自分で考えて、答えを出す事が大事なんだよ。魔導はイメージなんだから、私と違う方法でも同じ結果を得られるならば、それはそれで良かろうなのだ。」


 「わかったわ。考えてみる。それじゃ、また夜にね。」



 お師匠は何も言わないけど、何かブツブツ言いながら考え事をしているみたいだ。

 多分、お師匠は直ぐに答えを見つけるんじゃないかな。

 ヴィヴィさんは感覚の人だから、意外とどツボにはまり込むかもしれない。






 さて、王都の錬金術工房はどんなかな?



 「お師匠、場所わかる?」


 「いや? じゃが、多分、工区の方じゃろうな。」



 王都は、きちんと都市設計がされていて、王城を中心に放射状に分割されている。

 王城の外周は、およそ3リグル強、地球の単位で大体5キロメートル位だ。皇居位の大きさだね。

 一周する大きな道があって、そこから放射状に幾つもの道が外周の城壁へ伸びている。

 その道に分割される様に、貴族の居住区、一般の居住区、商区、工区、という様に大体分割されている。

 貴族の居住区は、お城みたいに大きな建物が、ゆったりした空間を取って建てられている。公園も広いし、殆どの建物は清潔な感じの白い大理石で出来ているので、すごくお洒落な感じがする。散歩コースとかに良さそう。

 一般の居住区は、石造りの5階建て位の高さの揃った、ちょっとお高めのアパルトメンがメインだ。一般といっても、中流位の人達が済んでいるんだろうね。パリとかの町並みを想像してもらえれば、大体あってます。

 商区は、文字通り、商業地区です。お店が立ち並んでいます。上が安アパートになっている所もあるみたい。

 工区は、工業地帯ね。騒音が出がちなので、他の区とはちょっと離れています。工房が多く集まっています。お店もちょっと有るみたい。


 そんなわけで、私達は工区にある錬金術工房を目指して歩いて行った。

 城門から見ると、王城の丁度反対側なので、ゴール場所をちゃんと考えれば良かった。



 「飛んでいくか?」


 「いや、でも散歩も楽しいよ。観光して回ろう。」



 右回りに回っていくと、商区に入った。お洒落な店が並んでいる。

 スイーツ屋無いかな。

 こっちではマヴァーラの町と違って、お師匠の顔はあまり知られていないらしく、騒ぐ人もあまり居ない。



 「あっ! スイーツ屋発見!」



 ジェラート屋みたい。若い女性が多い店だ。

 お師匠はちょっと苦い顔をしたけれど、一緒に店に入ってくれた。

 席について、店員さんに人気の賞品を聞いて、それを2つ注文してみた。

 店員さんが持って来たのは、ワインに漬けた干葡萄のはいったジェラートに、カラフルな正体不明のトッピングを散りばめた物。

 さて、食べようとしたら、店員さんはまだ後ろに立ってモジモジしていた。

 何か用かと聞くと、他のお客に聞こえない様に小さな声でそっと。



 「あ、あの、大賢者様ですよね。握手してもらっても良いですか?」



 顔を真赤にして聞いてきた。

 うわ、バレバレだった。

 お師匠が握手をしてあげると、嬉しそうにくるくる回りながらぴょんぴょん小さくジャンプしながら引っ込んで行った。

 お師匠に出会えるとラッキーが舞い込むというジンクスは、こっちにもあるのかな?



 「王都の人達って、気が付いてもあからさまには態度に出さないみたいね。」


 「うむ、そうみたいじゃのう。」



 多分、王城や貴族の居住区も近いから、一般の住民も上品なんだろうな。

 それに、有名人が居てもあまりジロジロみるのは失礼だと心得ているのだろう。


 ジェラートを食べ終えて、店の外に出ると、入口の外に3人組の女の子が居て、小声でキャーキャー言っていた。

 アイドルの出待ちですか?

 店内で店員と握手しているのを見て、お師匠だと気が付いたみたいで、外で出てくるのを待ち構えていたみたい。

 この3人もお師匠が握手をしてあげると、クルクル回りながらぴょんぴょんと何処かへ行ってしまった。

 王都では流行っているのだろうか。

 面白い風習だね。





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