1-42 零課

 指定の電車内、駅構内全ての監視カメラの映像をディスプレイやスクリーンに映し出すと数や広さが足りない。

 その為に本部の指揮を託された真田は大型のヘッドマウントディスプレイを装着した。

 これで映像を前後に重ねる事が出来る。AIが選抜した重要度の高い映像が忙しく前方にやってきた。

 それと同じ情報が前方の大型スクリーンに映っているが如何せん一つ一つのサイズが小さい。

 真田と同じ部屋に一人取り残された夏音は隅っこにある椅子にちょこんと座っていた。他所の職場なので足を閉じ、膝の上に手を置いてお行儀がよい。場違いを感じて緊張しながら新島の指令をおとなしく待っている。

 真田はそんな夏音に気を遣い、作業したまま話かけた。

「誰かの娘さんかい?」

「い、いえ・・・・・・。あ、でも、あの男の子は弟です」

 夏音は急に話しかけられ、目をきょろきょろ動かした。

「でもあれはアンドロイドだろう? 瞬きがほとんどなかった」

 真田は疑問を口にしたが、夏音は返事をしなかった。新島に圭人の話は零課以外の人間にするなと言われているからだ。

 夏音自身も誰彼構わず喋りたいわけではなかった。沈黙がそのまま返答となった。

「・・・・・・そうか。まあ、あまり詮索しない方がいいんだろう。だけど個人的な意見を言わせて貰うなら、君はここに居ない方がいい。君だけでなく、君のような少女がこういった血生臭い場に居ることを私は望まない。そうならない為の我々だからだ」

「・・・・・・すいません」

 夏音は怒られた気がして謝った。零課以外の大人と接する機会が少ない為、何を言って良いのかが分からなかった。

 それを見て真田は優しく微笑んだ。ディスプレイを外して振り向く。

「謝るのはむしろこちらだ。君をここにいさせてしまってるんだからね。一つだけ聞こう。これは君の意思かい?」

 その質問に夏音はほんの少しだけ考えた。

 零課にいるのは夏音と圭人が望んだことだ。

「はい」

 夏音は強い意思を持ち頷いた。真田は少し驚き、その後笑って作業に戻った。

「・・・・・・そうか。失礼した。それなら君は我々の同僚だ。お互い、無事に仕事を終えよう」

 真田の優しい言葉に、夏音は自分が認められた気がして少し嬉しくなって頷いた。

 足と肩をもじもじ動かし、圭人何してるかなと思いを馳せる。

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