1-9 零課

 屋上に上がった夏音を二枚目の板見と眼鏡をかけた吉沢がヘリで迎えた。

 吉沢は板見が渡利を撃ったライフルからアタッチメントを外しているところだ。

 板見はいつも通り微笑を浮かべる。

 それを夏音はもじもじしながら恥ずかしそうに見ていた。

「あ、あの・・・・・・、ありがとうございました。助けてもらっちゃって・・・・・・」

 顔を赤らめる夏音に板見は爽やかに答える。

「仕事だからね。礼なら新島に言ったら良い。きっと喜ぶよ」

 整った板見の顔を夏音は直視できずにいた。

 恥ずかしがる夏音。

 それを見ていた吉沢はむず痒そうに苦笑した。娘のいる身としてはどこか複雑な心境だった。

 板見はヘリのタラップに身を乗り出し、夏音に手を伸ばした。

「さあ、すぐに戻ろう。報告書を出すまで仕事は終わらない。君の左手も直さないといけないし、外殻のデータも取らないとね。吉沢さんを早く家に帰してあげないと」

「よく言うぜ。思ってもないくせに」

 技術班の吉沢は苦笑した。

 板見は薄っぺらい笑いを向けるが、それは笑っているのではなく、笑った顔を枠にはめた様だった。

 しかし二枚目な横顔に夏音はドキリと胸を高鳴らせる。

 零課一の優男は何をやっても思春期の少女の心を射止めていた。だがその感情は恋心というよりはときめきに近い。夏音にとって板見はアイドルみたいな存在だった。

 夏音は差し出された手を握る。その瞬間、板見は夏音をふわりと引き上げた。

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