第27話 2年目1月③

──日曜日 残り1日──


『弘の奴、全然何も聞いてこないが大丈夫なんか?』


風花はしびれをきらして、沙羅にメッセージを送る。


『計画書できてから、何にも連絡がないんだよな。本当に生きてるかあいつ?死んでねえ?』


『計画書出来てるんなら問題ないでしょ。確認したんだよね?』


『してないが?」


沙羅は絶句した。この部長の破天荒さというか、ガサツさというか、その大胆さが恐ろしかった。だって今回の面談が失敗したら廃部になってもおかしくないというのに。風花にプロジェクト管理能力というか、リーダーとしての素質がないとは思えない。だからこそ遅しさが何倍にも増幅される。

だが、今に始まったことではないので、あえてスルーした。おそらく気にするだけしんどくなるだけだ。


『まあ、綾も計画書読んだうえでプレゼン資料作ってくれてるからいけるっしょ。知らんけど。』


『…まあ、そう信じてるよ。少なくともこの二週間、松ヶ崎くんは、思ったよりも、すごいやつだとわかったし。』


沙羅のそのメッセージを見て、風花は自分でもわかるぐらい、ニヤリと笑った。


『私の見立ては間違ってなかっただろ?』


『じゃあ、私たちも私たちの仕事をしないとね。ぜんぶ任せっきりだと、顔もたたないでしょ?』


沙羅は相変わらず可愛くないな、とまで書いたが、さすがに送るのはやめておいた。


──月曜日 放課後 面談当日──


畿内高専図書館棟の一階、大会議室。

創立から50年を迎えるにあたり、同時期に建設された国立工業高専の設備は老朽化が激しく、数年前からあらゆる設備の建て替えが行われている。図書館棟はその第一弾で、弘たちが使用している学科棟などと違い、中の設備は現代的な、ITベンチャーのオフィスのような空間となっていた。そこに介するのは校長の他、学内の主要なポジションにいる教員や職員。無論、肩書が物語るようなその貫禄は、こんな若々しい空間というよりも、コンクリート打ちっ放しのビルの方が似合っている。


(シュールだとか、似合わないなとか思ったら、たぶん失礼なんだろうな。)


だって自分がこの空間に似合うかと言われたら、まだ幼すぎる気がする。あと、弘の後に続いて入室するOB会会長の荒島さん、レストアプロジェクト担当の柚木さんにも該当してしまうから、いよいよもって不謹慎だ。弘はそんなことを思いながら、会議室に入室する。


──相手の心をつかむには?


綾の声が反芻する。深呼吸する。OB会の人達が校長らと社交辞令を交わしている。弘は、会の進行役の若い女性職員と一緒に、持ち込んだPCの接続確認を行う。準備が整う。OB会も、学校も、弘達の話を聞く姿勢になっている。


「では、レストア部の代表の方。本日は裏門付近の再開発計画における、情報伝達やコミュニケーションの不備があり、皆さんの活動に支障が出る恐れがあるというお話について──。本日は改めてお話させていただく場を作ったということに──。」


長い。ようするに「勝手に話を進めて申し訳ないがこっちも事情があるのでテキサンをどうにかできると示してもらわないと文句だけは聞き入れない」と言いたいんじゃないか。横暴であることには既に開き直っているようにも感じるが、学校側のこの主張は大方予想がついていた。──レストア部の印象が悪いことも、要因としては少なくないだろうが。


──相手の退路を断つには?


綾の声をもう一度反芻させる。


既定路線で面倒を嫌う学校に、テキサンの存続を認めさせるにはどうしたらいいか。風花と綾の出した結論は至極単純。”認める以外の選択肢をなくすこと。”

テキサンの存続に意味があることを示す。そのための風花の夢だ。今回の立ち退き勧告が異常であることを示す。そのための綾の趣味だ。テキサンが生み出す魅力で廃棄をためらわせる。そのための沙羅の工作活動だ。

そして、テキサンを直すことができる。それらをすべてたたきつける。そのための弘の二週間だ。


「腐った学校を、テキサンと一緒にぶっ飛ばす。」


もしかして、今回の事件も、風花の夢の一部?


──相手に私たちを認めさせるには?


弘の出した結論は至極単純。


(勢いで認めさせる!)


「──私たちは、11月の文化祭までにテキサンを直して見せます!」

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