Happy message(キッド)

(*'ω'*)番外編『愉快で愉快な羽根つき大会』の続きとなります。

キッド(17)×テリー(13)

―――――――――――――――――――――――――
















「もしかして、テリーお嬢様、誰かと帰られる予定でしたか?」


サリアの言葉に、あたしは首を振った。


「ううん。誰とも帰らない。まっすぐ帰ろうと思ってたの」


さあ、帰りましょう。


「ちょーーーっと待った」


がしっ、と肩を掴まれて、あたしの背筋が凍る。


(げっ…)


「テリー?」


振り向くと、にこにこ笑うキッドが、そこにいる。


「年賀状は?」

「…………」

「…年賀状?」


サリアが、きょとんと、黙るあたしを見下ろした。


「テリーお嬢様、何のことですか?」

「ふふっ。マドモワゼル、聞いてくださいよ」


この不届き者、俺に年賀状を用意するのを『忘れていた』ようなんです。


「今から、家で、速攻で、書かせて、それからお返ししますので、どうぞ先にお帰りください」


素敵な笑顔を浮かべるキッドに、サリアが大袈裟に驚く動作をした。


「あら、そうでしたか…。なるほど。羽根つきはそういう事だったのですね」

「いかにも」

「駄目ですよ。お嬢様。お友達皆に用意しないと」


(ぐっ…!サリアめ…!すごく面白そうだと言いたげに目を光らせている…!)


サリアが微笑み、キッドに頭を下げた。


「そういうことでしたら、お嬢様をどうぞ、よろしくお願いします」

「はい!大切にしてお返しいたしますので!」


にこにこと微笑み、あたしの腕をがっしり掴んでいる。


(うううううううう!助けて!サリア!)


「それでは行きますよ。メニーお嬢様」

「あ、えっと…」


ちらっとあたしを見て、その後ろにいるにっこにこのキッドを見て、顔を背けた。


「…はい…。サリア、帰ります…」


(メニー!てめっ!裏切り者ぉおおおお!!)


はっ。


(リトルルビィ!ソフィア!)


「じゃあ、リトルルビィ、私たちは私たちで街を歩こうか」

「賛成!」

「お雑煮食べるかい?」

「うん!食べたい!」

「うん、おいで」


(てめえええらああああああ!!)


わなわなと震えあがるあたしに振り向き、ソフィアがくすすと、笑った。


「ごめんね、テリー。キッド殿下と楽しんで」

「じゃあね。テリー!」

「あっ…!待って!」


(この王子様と二人は無理!)


なんて言ったって、今のキッドは不機嫌MAX!!

ソフィアはわかっているように、そそくさとリトルルビィの手を取って、歩いて行ってしまう。


(ぐうう…!畜生…!ソフィア…!頼れるリトルルビィだけでも置いていきなさいよ…!)


助けを求めて手を伸ばすと、キッドがその手首を掴み、あたしを引っ張った。


「ほら、いくぞー」

「ひえっ…!」


そのままビリーが用意した馬車に引きずられる。


(…ち、畜生……!)


「ほら乗って」

「ううっ…!」


唸りながら、しぶしぶ馬車に乗り、ビリーが運転席に乗り込む。

馬が動き出す。馬車が動く。四人の姿がどんどん遠くなっていく。


(あーあ…)


窓硝子から顔を覗かせて、ため息をついた。


(あたしの人生…もう終わった…)


「ったく、年賀状書かせるだけで一苦労だ」


後ろから声が聞こえて、びくっと肩が上がる。その不機嫌な声に、振り向くことは出来ない。低い声が、あたしに声をかけてくる。


「お前覚えてろよ。家に着いたら虐めてやる。虐め倒してやる」

「…前に酷いことしないって、誓ったくせに…」

「そうだよ。酷いことはしないよ」


キッドが頷いた。


「あくまで、愛ある痛みを与えてあげるんだよ。テリー?」


(ううううううううううううう……!)


怖い!怖い!!


(あたしどうなっちゃうの…!)


顔を青ざめて、後ろから睨んでくる痛い視線を感じながら、窓の風景を眺めていた。



(*'ω'*)





キッドの部屋に入ると、机に向き合うことになる。座るのは椅子じゃなくて、キッドの膝の上。


(なんでまた膝の上…)


「座高が高い方が書きやすい」


キッドは嬉しそうに、あたしを抱え、机を覗く。


「ほらテリー、ここに名前書いて」

「…?ちょっと待って」


年賀状でしょ?


「何でこんな紙に名前を書かないといけないわけ?」


何かの書類みたい。


「キッド、手どけて。何これ」

「……」


そっと、キッドが手を退ける。年賀状の前に名前を書きそうになった紙を、もう一度よく見る。

上に重ねられた数枚の白紙を退けて、隠されてた紙の正体を見る。


【契約書:以下名義の人物を、将来結婚する相手とする】


「お前ーーーーーーーー!!!」


キッドに叫ぶと、キッドが舌打ちした。


「チッ」

「もう少しで書類に書くところだったじゃないのよ!あっぶなっ!あんた、本当にいい加減にしなさいよ!」

「書いたら正式に婚約者だったのに」

「年賀状だけのはずよ!ふざけるな!」

「ちぇっ。はいはい。本物はこっち」


キッドが可愛らしいイラスト付きのカードを渡してくる。


「ほら、書いて」

「くそ…!余計な手間を…!」


羽根のついたペンを借りて、インクをつけて、あけましておめでとうございますと、一言一句書くと、キッドがじっとそれを見て、声をあげた。


「あ、本当だ。お前字汚いね」

「うるさい」

「そういえば、お前の字ってあまり見たことなかったな。いつも書類にサインくらいだし」

「うるさい」

「ふむふむ。なるほどね」


こんな字なんだ。


じーーーーーっと見られて、手が止まる。


「…………何よ」

「いや、読みにくいと思って」

「もう書かない」


一言何か書いてあげようと思ったのに。気が引けた。


ペンをスタンドに置くと、キッドがむっとした。


「駄目。一言ちょうだい」

「字汚いんでしょ。書かない」

「何拗ねてるの。元々は書かなかったお前が悪いんだろ?」

「何よ。字が汚いって言われたら、誰だって書く気失せるわよ」

「汚くてもいいから書いて」

「もう嫌だ。書かない」


ふん。と唇を尖らせると、キッドがあたしの肩に顎を乗せる。


「何不貞腐れてるんだよ。反抗期か?」

「年がら年中あんたには反抗期よ。今年こそ婚約解消してやる!」

「はいはい。婚約解消ね。そんなにしたいならまたトランプでもする?」


俺は良いよ?


「どうせ勝つもん」

「そんなのわからないじゃない!あたしが勝つかもしれないわよ!」

「今回も俺が勝った」


慣れてない羽根つきでも大勝利。


「わかった?俺に負けなんて言葉はないんだ」


キッドが、余裕の笑みを浮かべて、頭をぐりぐりと押し付けてきた。


「そんなわけだから、お前は勝者の俺の言う事だけ聞いてなさい」

「またそうやって命令する。上から目線はこりごりよ。あたし、そういう人嫌い」


むうっと頬を膨らませると、キッドが指で膨らんだ頬を突いてきた。ぶう、とあたしの口から空気が漏れる。


「お前が言わせてるんだろ」

「キッドが勝手に言ってるのよ」

「最初から年賀状出してくれてたら、俺だってこんなこと言わないし、無理矢理書かせたりしないよ」

「だって嫌なんだもん」

「なんで?」

「あんたが調子に乗るから」


言うと、あたしの肩に顎を乗せるキッドが、横から睨んでくる気配がした。


「俺が、いつ、調子に乗ったって?」

「何よ。自覚無いの?はっ!あんた可哀想な奴ね!」

「テリー」

「もういいでしょ。放してよ。面倒くさい…。国の人たちから貰ってるんだから、あたしの一枚くらいなくても困りはしないでしょ?」


(っていうか、こいつ毎年、あたしの年賀状が無い事によく気付くわね…)


その細かい部分にうんざりしていると、キッドが口を開いた。


「困るよ」


少し怒ったように、言う。


「好きな子からの年賀状がないんだよ。困る」


(………っ)


思わず、横から聞こえた声に、目を見開く。


また、またこいつは。


(また、あたしを口説こうとしている…!そうはいかないんだから!)


「へえ?あんた、そんなにあたしが好きなの?だったらおねだりしてみたら?」

「おねだり?」


キッドがきょとんとする。


「なぁに?勝負に負けたくせに、勝者の俺に可愛くおねだりしろって言うの?」

「何よ?出来ないの?あはは。あんたも大したことないのね!」

「別にやる分には構わないよ?でも、おねだりしたら、年賀状ちゃんと書いてくれる?」

「おねだり出来たらね!」


どうせ無理に決まってる。


(何を言われても断ってやる…)


字が汚いって失礼な事言ったそっちが悪いのよ。反省なさい!


ふん、と顔を背けていれば、キッドが笑った。


「わかった」


(ん?)


ぎゅっと、お腹に回されてた腕が、強くなった。と思えば、


「テリー」


耳元で、吐息交じりに、囁かれた。


(…………っ!?)


ぎょっと、目を見開き、顔を見せないように、キッドに顔を背け続けると、キッドはそれを利用して、あたしの耳に囁き続ける。


「ねえ、テリー」

「テリー」

「なんで毎年年賀状書いてくれないの?」

「俺傷ついてるんだよ」

「お前を虐めたくなる気持ちもわかるだろ?」

「ねえ、怒ってる?」

「機嫌直して?」

「字が汚いこと気にしてるんだ?」

「俺が教えてあげようか?」

「お前が望むなら、一緒にやってあげる」

「一緒に字を書く練習しようよ」

「テリー」

「わかってる?」

「半年、俺はお前に会えないんだよ?」

「写真だって、お前が嫌がるから撮ってないし」

「年賀状のお前の字を見て頑張れる気がしたんだけど」


―――――あ。


「ねえ、書いてくれないの?」


キッドの囁きは、続く。

キッドの吐息が、耳に当たる。


「寂しいなあ」

「テリーと会えないのに」

「そんなに俺が嫌い?」

「俺はこんなに好きなのに」

「テリー」

「お前の字を見れば仕事も頑張れる気がしたんだけど」

「俺、このままじゃ頑張れなくて、怠け者って言われちゃうかも」

「それでもいいんだ?」

「テリーのせいで俺は仕事が出来なくなって、隣国の人たちに馬鹿にされちゃうよ」

「テリー」

「お願い。書いて?」

「お前のこと好きなんだ」

「お前の字も好き」

「テリーの字って感じがして、俺は好き」

「テリーが書く字なら何でも好き」

「テリーが好きだよ」

「テリー、愛してるよ」


―――ちゅ。


「ひゃっ!!?」


耳にキスされて、びっくりして、思わず抱えられた体を揺らした。


「あ、あんた、何を!何を!!」

「え?何って」


……………。


「あ、俺」


おねだり忘れてた。


「あはははは!ごめんごめん。これじゃあお願いだね」


(こ…こいつ…!)


「でも、言ったことは本当だよ?」


キッドが微笑んで、あたしの肩に再び顎を乗せた。


「王子として半年間仕事なんて、初めての試みだからね。不安もあるんだよ」

「キッドが?」

「何言ってるの。俺だって不安にもなるさ」


人間だからね。


「眠れない夜もあるかも」


そんな時、何を見たらいいの?


「家族の写真とか」

「はっ!」


キッドが鼻で笑った。


「テリー、お前からの贈り物が欲しいよ。何でもいい」

「誕生日プレゼントは?」

「あ、もちろんこの間貰った香水はもっていくよ。お前からの贈り物だし、隣国への宣伝にも繋がる」

「あたし最高ね。国のメリットになることをしてあげてるんだ。感謝しなさい」

「うん、そうだね。でも個人的に鑑賞できるものも欲しい」

「うるさいわね…。たかが年賀状で元気になるっての?」

「なるよ」


キッドが断言した。


「だって、テリーの字が書いてあるんだから」


まるでテリーが傍にいるような気になる。


「中毒者の気配があれば、リトルルビィとソフィアに報告するように言ってある」


準備は整ってる。


「あとはお前だけ」


キッドの手が、あたしの顎に優しく触れる。そして、横を向かせる。

優しく微笑むキッドと目が合う。


「一言でいいから、何か」


俺に、応援のメッセージ、書いて?


――――あたしは、じっと、いつもの鋭い目でキッドを見た。


「最初からそう言えばいいのよ」


遠回しに胡散臭い愛なんて囁きやがって。


ペンを手にもって、するする、と自分でもわかるほどの汚い字を書いていく。それを、キッドに渡した。


「はい。年賀状」

「確かに」


キッドが受け取り、そのメッセージを見て、―――くくっと笑った。


「こうくる?」

「何よ。文句あるなら返して」

「ううん、これは持っていく。いや、絶対持っていかないと」


嬉しそうに、キッドがはにかんだ。


「やっと書いて貰えたよ。年賀状」

「ふん」

「来年こそちゃんと送ってよ?」

「気が向いたら」

「お前はいつになってもつれないね…」


あ、そうだ。


「テリー、福袋欲しいんだっけ?持っていく?城下街の全店舗から貰ってるらしいだけど」


じいやが保管に困ってる。


「いいの?」

「うん。メニーと、あとアメリアヌにも」

「本当?やった!持っていく!」

「よし、きた。案内するよ」


あたしがキッドの膝から下りて、キッドも立ち上がる。あたしの手を握った。


(あ、そうだ)


「キッド、リトルルビィにもいくつかあげてくれない?あの子にとって何か役に立つものがあるかもしれないから」


顔を上げると、キッドもそれに頷く。


「お前に言われなくても部下皆に渡すつもりだよ。あんな量、俺に渡されても使い道に困るからね」

「城下町のアイドルは大変だわね」

「何々?やきもち?」

「誰が妬くか」


眉間にしわを寄せると、キッドが笑う。


「いいんだよ?妬いてくれても」

「大丈夫、間に合ってるわ。もう二度とあんたを好きになることなんてないから、ヤキモチも妬く必要がないの」

「そんなこと言っちゃって」


テリーってば。


「寂しいって思っても知らないよ」


(あ)


はっとした時には、回避する暇もなく、キッドが体をかがませた。

その形のいい唇が、あたしの唇と、重なる。


「んっ」


握られた手にぎゅっと力を込めると、キッドがくすっと笑い、あたしから離れた。青い瞳が、あたしを見つめる。


「愛しいよ。テリー」

「……………くたばれ」

「うん。照れ隠しも最高」


そのまま、手を引っ張られて、あたしの体がキッドの胸に導かれる。すっぽりと、埋まるように、キッドがあたしを抱き締めた。


「頑張ってくるね。テリー。帰ってきたら、たくさん遊ぼうね」

「…ま、気が向いたらね」

「うん。気が向いたら」


遊ぼうよ。


キッドが切なそうに、どこかわくわくしたように、あたしをぎゅっと抱きしめる。

机には、あたしが書いた年賀状が置かれていた。



キッドへ


あけましておめでとうございます。

あたしへのお土産を忘れないで。


テリー




番外編:Happy message(キッド)END

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