一つの区切りと少しの休息
「さて、折角こうして集まった事ですし、ちょっとした報告をしましょうか」
皆の視線がラディスさんに集中する。わざわざ改まって話を切り出した所を見るに、少々真面目な話のようだ。
イブリスさんたちもそれを察したようで、しっかり話を聞く態勢に入る。
「ステレオンギルドへ制裁を加える事が決定しました」
「……! マジでか……っ! いてて……」
ラディスさんの言葉にイブリスさんが身を乗り出す。……それが傷口に響いてしまったようだが。
「具体的な内容はまだ決まっていませんが、恐らくは当分……むこう数年の活動停止処分になるでしょう」
「実質壊滅ですね。数年も開けばギルドメンバーはほとんど他のギルドに流れて……戻ってくることはないでしょう」
確かに、フロワちゃんの言うとおりだ。私だって他の冒険者を襲撃するようなギルドには居たくない。
「でも……これで襲撃の危険度は下がりますよね。何もしていないステレオンのメンバーさんたちには悪いですけど、ちょっと安心です」
「……いや、それはどうかな」
「えっ?」
私の発言にイブリスさんが待ったをかける。他の二人もあまり同意はできない様子だ。
どうやら安心していたのは私だけだったらしい。
「セレナちゃんから聞いた話は"三大ギルドの動きが怪しい"って内容だ。つまり……」
「あっ……ヒュグロンとアトミス……ですか?」
「その通りだ。ステレオンが潰れたことで、むしろ他二つの動きが活発化することも考えられる。危険度が下がるとは考えない方が良いかもな」
そうだ、すっかり失念していた。
ステレオンはあくまで氷山の一角。警戒すべき相手はあと二つも残っているのだ。
もしもあんな戦いを、あと2回もすることになるとしたら……うう、あまり考えたくない。
「だが、危険因子が減ったことは確かだ。制裁を加える以上他のギルドもしばらく様子を見るだろうから、当分は安全と考えていいはずだ」
「ええ、今のうちにしっかりと身体を休めてください……ね?」
ラディスさんが冷ややかな目でイブリスさんとフロワちゃんを見た。
「……すまん」
「申し訳ありません」
イブリスさんは目を逸らしつつ、フロワちゃんは椅子に座ったまま丁寧にお辞儀をして謝罪の言葉を返す。流石に動くなと言われているのにここまで来たことには言い訳がつかないようだ。
仕方なくイブリスさんが松葉杖を手に取り、立ち上がろうとしたその時である。
「ああもう! こんなところに! 探したんですよ全く!」
部屋の入り口に、看護師さんが一人現れた。
「まだ許可なく立ち歩いちゃ駄目ですってば……ほら、回復処置の時間ですよコントラクターさん」
「すまんすまん、すぐ行くよ……」
どうやらイブリスさんの担当の人らしい。イブリスさんは看護師さんの呼びかけに松葉杖をついて立ち上がり、よろよろと部屋の外へ向かっていく。
「それじゃ、元気でな。また自由に歩けるようになったら顔出しに来る」
「は、はい! 私も歩けるようになったらイブリスさんのところ、行きます!」
イブリスさんは私の言葉に手をあげて返答すると、看護師さんに連れられて治療室の方向へ消えていった。
「それでは、私も怒られないうちに戻ります」
「あ、うん! またねフロワちゃん!」
「じゃあ、僕も……」
続いて残った二人も部屋を立ち去る。
「……お大事にしてくださいね」
そうして、また病室に静寂が訪れたのであった。
* * *
「なにが失敗しないだと!? 大失敗じゃすまさんぞ!」
ステレオンギルド本部の一室に、初老の男の叫び声が響き渡った。
「黒の魔術師の処分に失敗し、そのうえ所属までばれている! ついさっき制裁を加えることが決定したという通知も来た! 全て貴様のせいだ!」
ステレオンのマスターが責め立てているのは、不真面目そうにたたずむ男、ペンドラゴンである。
ペンドラゴンはステレオンへの制裁の直接の原因といえる存在だ。特にエンブレムのついたボタンを奪われたのは大きな失態。
自信たっぷりに"成功させる"と豪語していた反動もあって、マスターの怒りは最高潮に達していた。
「俺だって好きで失敗したわけじゃねぇよ! 聞いてねぇことが多すぎたんだよ! 特にあの見習いについてはな!」
ペンドラゴンも負けじと言いかえす。
フロワが同行していることも聞いていなかったが、なによりサラだ。
黒の魔術師に師事していると噂の見習いが、なぜか白属性でも最上位に位置する魔法を使っていた。
コントロールまではできていなかったようだが、それとこれとは話が別だ。そもそも見習いでは発動すらできないのが普通なのだから。
「言い訳をするな!」
だが、結果は結果である。
ペンドラゴンはイブリスを倒せず、ステレオンには制裁が下る。今更言い争ったところでそれが覆ることも無い。
「……もうこのギルドはおしまいだ」
著名な存在は、その分だけ不祥事の反動が大きい。ステレオンの再興はもはや叶わないだろう。
「出て行ってくれ、貴様の顔などもう見たくない……」
マスターはうなだれるように椅子に座り、力の無い声でそう告げる。
ペンドラゴンはその様子に舌打ちをすると、乱暴に扉を開けて部屋を出て行った。
「さて……と」
部屋を出たペンドラゴンはそのままギルド本部を後にした。
そのまま人気の無い路地へと身を潜め、耳に手を当てる仕草をする。
伝達魔法だ。
テレパスとも呼ばれるそれは、遠く離れた場所にいる者通しで会話ができる無属性魔法である。
「ん……ああ、俺です」
繋がった相手に対して丁寧に挨拶をする。口調、声質ともに先ほどよりも柔らかいものだ。
「ええ、はい……"成功"しました」
口元が、大きく歪んだ。
「ステレオンに対する制裁も決定したそうです、これであそこはもうおしまいでしょう」
ペンドラゴンの口調は勝ち誇ったかのようなものだ。
自分が所属しているはずのギルドが制裁を受けるというのに、危機感などは全く感じられない。それどころか、まるで他人事のように話している。
「ええ……ただ、俺個人も制裁を受ける可能性が高いです。でもこれくらいなら想定内でしょう」
自分への制裁に対しても余裕を見せている。まるで、こうなることがわかっていたかのように。
「黒の魔術師に関しての情報はまた纏めて送ります。
とりあえず、俺の任務はここまで……あとは牢屋でゆっくり成り行きを見届けさせて頂きますわ。ああ、首尾ですか?完璧です。バレてませんよ
……俺が、ヒュグロンの人間だなんて、ね。
それじゃあ、また連絡します……マスター」
……襲撃は、まだ終わらない。
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