師弟、新体制

白黒トリオ

「こちらは処理いたしました」


「ああ、あんがとな」


フロワの報告に短い礼が返される。


パーティーメンバーにフロワを加えたイブリス一行は、翌日から早速クエストに出発していた。魔物の群れを相手取るクエストだ。


さすが、三人もいると効率が違う。いつもよりも遥かに速く処理することが出来た。


宿代は自分で払うというし、何よりもパーティーメンバーが増えるとサラの特訓がとてもしやすくなる。最初こそ邪険に思っていたが、やはりこうすることによるメリットは多い。


「どうだサラちゃん、盾へのサポートのタイミングは掴めたか?」


「ううん……まだしっくりこないです」


「そうか、焦らなくてもいいからな」


悪魔との戦いで経験したように、盾に対して補助魔法を放つことでその防御力をあげることが出来る。


特にフロワは盾を攻撃にも使うスタイルのため、そのサポートは必須とも言えるだろう。


補助魔法のサポートは永続するわけではない。盾に組み込まれた魔石に魔力が停滞している間しか続かないのだ。そのため、補助をするタイミングが重要になってくる。


仲間との連携。白属性魔法がある程度扱えるようになってきたサラに必要な次のステップである。


「プリーストは仲間の補助に比重を置くべきクラスです。特にサラ様……サラさんは攻撃魔法が使えない分、よりそちらを重視すべきでしょう。逆に言えば、常にそちらに集中できるということです」


「そう……だね。自衛の手段に乏しいけど……」


「そこは私たちがカバーするべきところです。補助役は……守られるのが役割なのですから」


フロワの施しには、まだどこかに緊張が見られる。一晩ともに居ただけですぐに慣れると言うわけには行かないのだろう。


「……案外詳しいんだな、お前」


「これでも……一応、戦う者の端くれですので」


フロワの言う事も最もだ。白属性持ちは優秀なサポートをしてくれる代わりに、敵を迎撃する手段を持たない。


"Saint Region"という攻撃手段こそ存在するものの、あれは迎撃するというよりもここぞというときの切り札だ。魔力消費も激しいために連発していいものではない。


そもそもサラはまだ自分の力をコントロールしきれていないのだ。あの宿屋での暴走がイブリスの頭を駆ける。


「サラ……さんはその、特殊ですから。訓練も実戦も慎重にやらなければいけません」


「……確かにな。自分の実力に見合わない魔法でも問答無用で発動しちまうってのは危険極まりない」


「すみません……」


「謝るこたぁねぇよ。サラちゃんが悪いわけじゃねぇんだから」


「重要なのはその力をちゃんと扱えるようになることです。扱いさえちゃんとすれば……とても強力な力になるでしょう」


昨晩こそ少し揉めたイブリスとフロワであったが、今は特にぎすぎすした様子はない。一緒に行動する以上割り切ったという事もあるが、フロワが思ったよりも話せる人だった、という事が大きいだろう。


イブリスはラディスの事も嫌ってはいるが、決して信用していないわけではない。ただ、信頼はしていないが。


「さて、とにかく戻りましょう。魔物は全て討伐したのですから、長居は無用です」


「そうだな……早く終わってくれてありがたい」


いつもよりも倍は早い。その分稼ぎの効率も倍だ。最初こそサラがいることで金欠に悩まされていたが、こうなるのであればサラを弟子にしたことは間違いではなかったのかもしれない。


「さて、これからについてだが」


クエストの帰り、送迎用の馬車に揺られながら三人が顔を合わせる。イブリスの向かい側に少女二人が位置する形だ。


「向こうはクエスト中でも問答無用で襲い掛かってくるような連中だってことは昨日の一件でよくわかったと思う。このクエストでは特に何も起こらなかったが……クエストに行くときは細心の注意を払ってほしい」


「了解しました」


「が、頑張ります……」


「サラちゃんは無理をせずに魔法の練習に集中してくれて構わない。経験が比較的豊富な俺とフロワでできる限りの警戒をしよう」


一人よりも二人、とはよく言ったものだ。フロワという文字通りの盾役がいるだけでイブリスだけでは厳しかったサラの護衛が格段に楽になった感触がある。自分だけでなく、フロワも警戒網をはれるということも大きい。


自分が狙われているとはいえ、この中で一番守るべきなのは襲われた時の対抗手段を持たないサラなのだ。


「クエストを受けるときはできるだけ人目が少ない時を狙って受注しよう」


「かといって街にとどまりすぎるのも危険です。いつ監視の目がつくかわかりません」


「そうだな、そうなるとクエストを受注するとき以外はできるだけ人ごみの中に紛れるのがいいだろう。目を欺けるはずだ」


今後の動き方を相談するフロワとイブリス、その相談に耳を傾けながらまた魔力球を作ってコントロールの訓練をするサラ。馬車の心地よい揺れの中で、皆それぞれの行動をとる。


今となっては街もクエストも安心できない場所。油断できる場所といえばこの馬車くらいのものだ。


「とにかく、普段から三人固まって……」


だが、脅威とは油断を逃さずに訪れるものである。


「……あれ?」


最初にその異変に気がついたのは、サラだった。


「ん?どうした?」


「馬車……止まってませんか?」


言われてみれば、先ほどまで感じていた揺れが無くなっている。馬の足音も聞こえない。


「本当だ……トラブルかなんかか?」


窓の外をのぞいてみると、馬車が荒野の真ん中で確かに停止していることがわかった。


外はぎらぎらと日が照り付けていていかにも暑そうだ。この中を走って馬がばててしまったのかもしれない。


「おっさん、何があった?大丈夫か?」


すぐにイブリスが御者へ確認へ向かう。この暑さの影響を受けるのは人間も同じだ、あまりここに長居はしたくない。すぐに解決しそうなトラブルなら協力しよう、という意図である。


「おーい、おっさ……」


「お客さん、逃げて!」


「っ!?」


イブリスが馬車から顔を出した瞬間、馬車めがけて何かが飛来した。


速度があまりにも速く、その一瞬では正体は掴めなかったが、ひとつだけ、これだけははっきりした。


これは、イブリスを狙う者の攻撃だ。

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