EMQ:悪魔の軍勢討伐 その3

イブリスさんとラディスさん、二人の攻撃が始まった。


二人はその場から動かず、イブリスさんは魔法で、ラディスさんは先ほど使った”見えない斬撃”で悪魔を薙いでゆく。何度目を凝らして見てもただ柄を持ってとまっているようにしか見えない。居合い抜きというやつだろうか?


「知能の低い下級悪魔だけで助かりましたね。この量が統率された動きをすることはあまり想像したくないものです」


「ずいぶんと余裕じゃねぇか、ああ!?」


「あなたはずいぶんと余裕がなさそうですね」


次々と悪魔を薙ぎ払うラディスさんに対して、イブリスさんは若干の苦戦を強いられているようだ。黒属性は悪魔に対しては効果が低いのかもしれない。


私はそんな二人に対して、バフをかけることによるとりあえずの援助を行う。


「……ふむ、確かにまだまだ未熟……といったところでしょうか。最低限補助はできるが前線に出られるような実力にはまだ遠い……」


「うっ……」


ラディスさんの呟きに少しだけ心に傷を負ってしまう。私のバフはまだまだ効能が薄いようだ。


だ、大丈夫大丈夫。まだ冒険者になって一週間もたってないんだから、それくらい仕方ないよ。


自分にそう言い聞かせてどうにか精神を持ち直す。実際、自分は新米なのだから。


「敵、来ます」


「っ!?」


ラディスさんたちのほうへ気を取られていると、その反対側から悪魔が一体飛び掛ってきた。


フロワちゃんが防いでくれたものの、飛び掛ってきた悪魔は見たところ先ほどよりも強そうだ。盾を支えるフロワちゃんの顔も若干苦しそうに歪んでいる。


「サラちゃん、イブリスは向こうの処理に必死なようなので僕が代わりに授業をしましょうか」


噛みしめた表情で耐えるフロワちゃんの事など気にしていないかのように、ラディスさんがにこやかに話しかけてくる。


「そ、そんなのんびりしてる場合じゃないですよ!!早く助けてあげないとフロワちゃんが!」


「ええ、なので急いで授業をしましょう」


こうして話している間にもラディスさんは次々と悪魔を倒している。しかしフロワちゃんの援護をする様子は全くない。


フロワちゃんと対峙している悪魔は盾に対して目にも止まらぬ速さの百裂拳を打ち込んでいる。当然その拳には黒の魔力。フロワちゃんが押されているのは明白だ。


「じゃあ、サラちゃん、フロワの盾に向かって防壁を出してみてください」


「え、ええっ!?」


「いいから早く」


「う……せ、”Saint Defender”!」


言われるがままに防御魔法を撃つ。


なぜラディスさんは助けてあげないのだろう?この切羽詰まった状況で、なぜわざわざ私に防壁を展開させるのか。


正直なところ、焼け石に水程度にしかならないのではないか?という考えが頭をめぐるが、果たしてその考えはすぐに打ち消されることとなる。


「盾というものには大抵特殊な魔法機構が備わっています。杖についている宝玉と同じようなね」


私の魔法を受けたフロワちゃんの盾が突然光を放つ。


「盾の能力は、受けた防御魔法を何倍にも膨れ上がらせ、盾の硬度、防御範囲を大幅に引き上げるというものです」


光とともに盾は透明な防壁のようなもので拡張された。


殴り続けていた悪魔も突然殴るのをやめ、戸惑ったような反応を見せる。盾の硬さが上がったことに驚いているようだ。


「……んっ!!」


フロワちゃんはその隙を見逃さない。盾で悪魔を押しのけ、さらに思い切ったぶん回しで悪魔を殴りつける。


悪魔はたまらず吹き飛び、そこを恐らくラディスさんの物だと思われる斬撃で追撃された。


恐らく、といったのは遠くに居た悪魔を斬りつけるのにも関わらず、ラディスさんが私のそばから一歩も動いていないからである。


先ほどからラディスさんの攻撃はカタナの射程すら無視しているように思える。仕組みが全く分からない。


「フロワ、付き合わせてすみませんね」


「問題ありません」


フロワちゃんは再びいつもの無表情へ戻る。


どうやら私にあの盾補助を体験させるためにわざわざ耐えてくれていたらしい。一つ間違えば命まで落としていたかもしれないのに文句ひとつ言わないとは、とことん従順な子だ。


「とまあ、盾持ちにはステータス系バフよりも盾に対する防壁が有効となることもあります。覚えておくといいでしょう。いつかパーティーを組んだ時のために、ね」


アドバイスをしながらもラディスさんの周りの悪魔は切り刻まれていく。ラディスさんは相変わらずカタナの柄を握っているだけだ。……少なくとも私にはそう見える。


……パーティーか。


冒険者はずっと師匠のもとに居るわけではない。自分と行動を共にする仲間たちでパーティーを結成し、そのパーティーとともにクエストをこなしていくものだ。


私もいつか……そんな仲間たちと出会えるだろうか。


っとと、今は干渉に浸っている場合ではなかった。


「後方注意、です」


「きゃっ」


後ろから迫っていた悪魔を、フロワちゃんが防いでくれる。


「っ!”Saint Defender”!」


覚えたことはどんどん使っていこう。フロワちゃんの盾を強化し、安全性を高めた。


後からもう一体、盾にとびかかってくるが、強化の恩恵か盾はびくともしない。


「ははは!早速使っていますね。いい子だ、覚えが速い。良い弟子を持ちましたねイブリス?」


「話してばかりで少しは集中できないのかお前は!”fanG”!」


イブリスさんが放った魔法が黒い牙となって盾に襲い掛かった二体を飲み込む。あとには噛み砕かれた悪魔の死体だけが残った。


「二人とも大丈夫か?」


「心配無用です」


「私も大丈夫です!」


悪魔の数も減ってきた。あともう少しだ。


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