冒頭の一文で引き付けられました。
そんな美しい文章が綴るのは、たくさんの苦悩です。
「アナログアンブレラ」は、その苦悩と言う雨に晒された人達を入れる傘なのでしょう。
傘に入れば濡れることはない、だけど雨がやむ訳でもなくて、いずれはまた雨の中に飛び込まなければなりません。
苦悩は最後まで解決することはなくて、でも、それでいいのでしょう。
苦悩とは解決するものではなく背負っていくものなのでしょう。
個人の苦悩なんてものは誰にも理解出来るはずがない、共有もできません。
でもきっと、その苦悩を背負っている人の手を繋いで一緒に歩いていくことは出来ます。
美しい文章だからこそ苦しみをここまで表現できる、そんなお話でしたね。
第6回カクヨムWeb小説コンテストキャラクター文芸部門に応募されているこの作品。
読者を魅了して離さない文体と先の読めない詩的なストーリーに目を奪われすぎて忘れがちだが、この作品は「キャラクター文芸」なのである。
そこで、私はあえてひとり好きなキャラクターをここで述べたい。
ゴウという名前の男がいる。まだ主人公のムーウに名前を呼んでもらえない不憫なシルバーアクセサリーさんである。
この世界では身を守るのに必要な魔法を器具として身につけなくてはならず、このゴウというやつはそれを全部骸骨やら十字架やらドラゴンやらのごてごてのシルバーアクセサリーで統一している。
最初の印象はもちろん、外見からしてチャラそうな男である。
しかしムーウと行動を共にすることが多くなってくると、ゴウの印象も変わってくる。
チャラい、というよりは、フレンドリーな、明朗な男。
ムーウの辛さを、彼なりに考えて、解釈して、照れながら、思いやることのできる、いいやつなのである。
ムーウの苦しみに比べたらゴウの優しさなんてちっぽけなものかもしれないけれど、ゴウの優しさが少しでもムーウの救いになっていたらいいな、と思う。
それは、幸せな側にいながら、苦しむ人を心配している私の、ちょっとした救いになるから。
3ー9まで読んで
読者選考にこういった作品を投じる書き手にどんな算段があるのか、是非とも聴いてみたい。とてつもなく不利に思えるから。
小説が書き手の精神世界を表現したものなら生と死を引き換えにこの世に送りだされたような気がする。
冒頭わずか数行で見事に読者を引き込む力、ムーウのストレートに吐き出される内面描写、ない答えを問いつづける絶望にも似た叫びが粉々に砕け散ってる。
この圧倒的な文体はどこから来るのか。
思わず手を握りしめる、これでもかとジリジリと迫り、読者の領域も軽々と試す。
いったい何に手を出してしまったんだという焦燥感。
魔法があたりまえの世界で「あえて魔法を使わない」この一風変わった設定は、魔法を文明に置き換えてるようにも受け取れた。
便利なものには代償を払うようにできてる。
進むにつれ一抹の不安は結末が予測不可能で完結が可能なのかということ。
危ういままにどちらに転んでも恨みっこなしなのか、傷つく毎に透明感を増す世界観に置き去りにされないように完結を確認せずにはいられない。
アナログを愛すること。
それは過去に想いを咲かせる感覚に似ている気がします。
魔法で珈琲を淹れることのできる世界で、
あえて手動で珈琲を淹れているお店がありました。
その店の名は『珈琲店アナログアンブレラ。』
冒頭の傘が「咲く」場面から、非常に惹き付けられます。
魔法が発達して生活が自由になっても、心が自由になるとは限らず、プロトコルで制御しきれない心もある。
心の傷が魔法のように「無かったこと」にできればラクなのに。
涙は雨のように我が身に降り、あえて雨に打たれ続ける形でしか生きられない。
人生を進むか終えるか迷っている「貴方」に、最適解が提示される日を心待ちにしたい。
行間から溢れる叫びが皮膚を引き裂く勢いで伝わってきました。
一緒に傘を咲かせて、心を裂かせることで見える風景に瞠目します。
連載中の小説です。行方を追いたい小説です。是非、貴方も。