第50話 カーチェイス
「車を奪った!! 逃げられるぞ!!」
兵士の車を奪って自動車に乗り込む悪魔たちの姿を見て、黄太郎が叫ぶ。
同様に その光景を見ていたメアジストは、地面を蹴って跳躍し、
「私が車を探して持ってくる!! 二人は時間を稼げ!!」
「分かったのです!!」
「――待て!! 車なら左へ20メートルほどのところにある!! そのまま建物を飛び越えれば見えるはずだ!! 邪眼虫の視界に入っている!! それが一番近い!!」
「そうか、分かった!!」
黄太郎からの言葉を受け、メアジストは言われた先に向かう。
恐らく彼女が戻ってくるまで30秒ほど、それまで悪魔達を遠くに逃がすわけにはいかない。
咄嗟に黄太郎は自分の右手首をワイヤーガンに変え、そのまま悪魔達の乗る自動車の後部に向けて発射する。
「オラッ!!」
ワイヤーガンの爪は、自動車の荷台のドア――バックドア――に突き刺さり、深く固定される。
そこで更に黄太郎は、ワイヤーを近くの街路樹に巻き付け、車の動きを止めようとした。
ワイヤーが張り詰め、発車しようとしていた悪魔達の動きが止まる。
だが、当然そのままにはしない。
――ヒュパッ!! と鋭利な音を立て、自分の身体を刃状に変化させたスライムが、バックドアを切断してワイヤーを外したのだ。
「チッ!!」
黄太郎は素早くワイヤーを巻き取り、回収する。
幸い、ワイヤーガンそのものに損傷はないらしい。
しかし、悪魔達の乗る自動車は勢いよく発車していった。
このまま走って追いつくのは厳しいだろう。
「――ギンガニアさん。ぶん投げます!! 舌ァ噛まないように!!」
「え!? ちょ!? ――分かりました!!」
黄太郎の言葉に一瞬だけ困惑したアザレアだったが、彼女はすぐに黄太郎の言葉の意味を理解し、黄太郎の差し出した右腕の上に乗った。
そして小さく屈んで槍を構えるアザレアを、黄太郎は自らの怪力で思い切り投擲した。
「オウラァアアアアアアアアアアアア!!」
「――
更にリリースと同時に黄太郎の腕を蹴ってアザレアが跳躍することで、彼女の能力
この能力によって悪魔達の視界からアザレアの姿が消える。
「……何だ!? 何か投げたぞアイツ!!」
車のバックミラー越しに見るしかできない悪魔は何が起きたのかハッキリとは見えなかった。
一方、スライムは その光景を見ていたが、彼――彼女かもしれない――は言葉による伝達が出来ず、他者とのやり取りは念話の魔法で行っている。
そのため、魔法を発動して相手に情報を伝えるには若干のタイムラグが生じる。
そして そのタイムラグは大きな差となって生じる。
『上から来ます!!』
「はッ!?」
スライムからの念話が届くのと、車の屋根の上から着地音が届くのは同時だった。
更に悪魔が反応を起こす前に。
「ディタ式槍術!!
炎を纏った槍の穂先が車の屋根を貫き、悪魔の右肩に槍が突き刺さる。
「グゥオオオオオオ!?」
刃傷と炎熱による痛みに悪魔は苦悶の声を上げるが、しかし当然やられてばかりではない。
「このガキがァ!!」
「うっ!?」
咄嗟にブレーキを踏み込むことで、屋根の上のアザレアの体勢を崩し、更に慣性によってアザレアは前方に投げ出され、地面を転がる。
「死ねッ!!」
更に悪魔はアクセルを踏み込み、アザレアを轢き殺しにかかる。
「このッ!!」
アザレアは咄嗟に握りしめていた槍で身を守るが、しかし車との重量差のせいで そのまま弾き飛ばされて再度 地面を転がった。
口の中が切れ、地面の砂利で皮膚が裂け、右前腕を骨折したのか鈍い痛みが広がる。
だが それよりも悪魔達の乗る車がそのまま走り去っていく方が問題だ。
「クッソ!! 逃げられ――」
だが その時、狭い路地に積み上げられていた ゴミ袋を跳ね飛ばし、一台の軍用車が姿を現した。
「待たせたな、アザレア!! 乗れ!!」
「ああもう このタイミングで来るメア先輩マジで大好きなのです!!」
大胆な告白は女の子の特権である。
女の子と言っても旦那持ちの人妻だが。
アザレアは助手席に乗り込み、更に続けて後方から追いかけてきた黄太郎が後部座席に乗り込む。
「お待たせしました!! 出してください!!」
「分かってる!! 飛ばすぞ!!」
メアジストがアクセルを踏み込み、悪魔達の後を追った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます