第49話




 前話から時間は 少し遡り。


「このままだと追いつかれるな」


 背後の黄太郎達の姿を見た悪魔は、小さく そう呟いた。

 自分はともかく、体内に悪魔剣士を取り込んだ上で移動しているスライムは このままだと追いつかれてしまうだろう。


(特にあのスーツの若造が速いな。それに握りしめた金槌は……先ほど見かけた単眼のガキか? 武器になる固有魔法でも持っているのか? そういえば、判定官の他にも護衛が来ていたそうだな。聞いたことのない奴だったから、てっきり雑魚かと思っていたが……そうか、奴か)


 そこまで思考を終えたところで、悪魔は自分の視界の端にあるものを捉え、隣を走る――スライムの移動法を走ると呼ぶのが適切かは分からないが――スライムに声を掛けた。


「アレを奪う! ついて来い!!」


 そして悪魔の向かったその先には――。


「うおおおお!! 何か来てるぞ!?」


 守備兵団の兵士が運転する自動車があった。

 ――トラクターがある以上、この世界にも車と言うものは存在している。

 が、基本的に自家用車というものは ほとんど普及していない。

 というのも、この世界には魔族以外にも危険なモンスターと言うものが存在する。

 下手に街の外に出ると貴重な資材と時間を掛けて製造した自動車を破壊されるリスクがあるため、この世界での長距離移動は魔法を用いるか、あるいは装備を整えた上で馬車で移動することが多い。

 この世界では動物も魔法が使えるため、馬に引かせるだけでも それなりの速度になるのだ。

 そのため、自動車の類は安全な街の周辺での農作業に使われるか、戦闘能力のある者が周囲に多く かつ重量のあるものを運ぶことが多い組織、つまり――軍関係で使われることが多いのだ。

 軍用車と言うと、武骨で高馬力なイメージを持たれるが、この世界の文明水準は地球における20世紀初頭ほどだ。

 当然、洗練された現代の自動車と比べると性能は落ちる。

 それも主な技術が魔法によって発展しているため、この世界にはガソリン自動車は まだ存在しておらず、基本的には赤熱鉱石と呼ばれる衝撃を与えることで高熱を発する鉱石を用いて水を蒸発させることによる、蒸気機関を利用した蒸気自動車がメインだ。

 しかし、蒸気自動車というものは決して遅くない。

 1906年のフランスでは蒸気自動車が時速205キロ以上という驚異的な数値を叩きだしている。

 この世界の車も、流石に易々と時速200キロとは言わないが、条件が整えば それなりの速度が出る。

 その上、先述したようにこの世界の動力源は鉱石一つという手軽さだ。

 無論 周辺の機器や部品は必要になるが、それでも走りは見た目ほどクラシックではない。

 そんな車両を運転していた兵士は、自分のほうに向かってくる魔族の姿を見て、目を丸くした。

 


「やべえって! ぜってえアイツ魔族じゃん!! どうすんのこれ!?」


 運転手の兵士は狼狽し、助手席の同僚に助けを求める。

 すると、助手席の兵士は念のため足元に置いておいた盾を拾い、掲げると こんなことを言い放った。


「魔族だったら轢き殺せば良くね?」

「おっしゃ分かったわ!!」


 仲間の言葉を受け、運転手は思い切りアクセルを踏み込んで悪魔を轢き殺しにかかった。 

 ――が。


「そんなものを我を殺せると思ったか!!」


 悪魔は左肘を貫手に構え、フロントガラスを突き破って兵士の頭部を破壊しようとした。


「あっぶね!?」


 しかし助手席の兵士が念のために盾を構えていたため、素早く悪魔の攻撃を防ぎ、受け流すことができた。

 とはいえ、それでも力を完全には殺しきれず、兵士は盾の内側で鼻を強く打ち、「ブッ!?」と声を漏らして鼻血を吹き出してしまった。

 だが そんなことで足を止めている場合ではない。


「おい逃げるぞ!!」

「わ、分かってるよ!! クソいてえ!!」


 二人の兵士は慌ててドアを開けて、自動車から逃げ出した。

 悪魔は一瞬この二人の人間を殺害しておくか悩んだが、しかしそんなことよりもここから離れるのが先決だと判断し、そのまま車の運転席に乗り込んだ。

 スライムはというと、悪魔騎士を取り込んでいることもあって体積が大きいため、助手席ではなく後部座席に乗り込んだ。


「よし、行くぞ!!」


 そう言って、悪魔はアクセルを踏み込んだ。













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