第61話、麗しき喉の乾き肩に来て。
は、はぁ??? な、何を言っているんだこの人は。じ、自分の胸を褒めて欲しいだと? もしかしてあれか、痴女ってやつか? 都会は田舎と比べて痴漢が多い、みたいな話は聞いたことあれど。いや、そんなのは単なるおとぎ話だと思っていた。まさか本物の痴女と出会すなんて経験をするだなんて。周囲の些細な噂話に耳を傾けていても、痴女に会ったとかいう経験談は聞いたことがない。まさか、都会ってそういう奴ばかりなのか? 都会、怖いッ!
と、明らかに動揺を見せたのが悟られたのだろう。突如としてバーニングさんの表情が曇り、目を釣りあげた。二重のつり目がしっかりと俺に目線を合わせ、赤と黄色の瞳が煌々と輝く。怒っているのがすぐに理解できる素直な表情だが、その素直な瞳に思わず見惚れてしまいそうになる。おっと、いけないいけない。俺には佐藤亜月という心に決めたマイスウィートハニィーが居るというのに!
「おい、松本ヒロシ」
「はい! 松本ヒロシです!」
「今、うぬは妾の事を妖しき女と思ったであろう。あるいは尻軽、よもや年増と思ったわけではあるまいな?」
かなり怒ってらっしゃることは、声色からハッキリと分かる。怒り方が怖い。なんというか、オーラがあるのだ。というか、言い方がワケワカメ。
「い、いえ。滅相もございません、バーニングさん」
「ならばよろしい。では早速褒めよ。しっかりと聞き届けたいのじゃ。不意打ちなどは認めぬぞ」
コロリと表情を変え、嬉しそうにして着物を少し揺らす。いや、やん何だこの人。何を企んでいるんだ。ま、まさか俺から言質録って、警察に突きつけるつもりじゃないだろうな? それから親やら学校やらに連絡して、セクハラだと訴え、示談金を請求する。きっとそうだ。そうに決まっている。俺の貧乏レーダーがビンビンに反応している。それだけは阻止しなければならない。
「そ、そんな事より」
話題を逸らす作戦スタートだ! と思った瞬間、ガッチリと肩を掴まれた。天気のいい日に干した枕のような、優しい香りが俺を包む。あれって確か、ダニが死んだ臭いだったよな……。
「うぬ、今そんな事よりと申したか? うぬはどうもふざけているらしい。妾の頼みを『そんなこと』と蹴り飛ばすとは。それこそ激おこプリプリ大噴火の激ヤバマンボーピーナッツであるぞ!」
やばい、理解出来ない。ってかなんだこの握力ッ! 肩がもげる!
「あー、ごめんなさいごめんなさい。言い方が間違えていました!」
必死の抵抗虚しく、俺の足はゆっくり途中へ浮く。解放されようとじたばたすれば、彼女の指がキリキリと締まり、肩の間接により一層突き刺さるのだ。
「い、痛てぇぇぇッ! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛──」
「さぁ、松本ヒロシ。妾を褒め讃えよ。妾の存在に感謝し、崇め奉るのじゃ」
感謝出来ねぇ……。むしろ会いたくなかった。悲鳴無視して帰ればよかった。本気で思う。めちゃくちゃ痛い。これ、子供じゃなくても泣くレベル!
「いや、そ、その前に! その前に!」
「その前? 松本ヒロシ、まだ妾の望みを愚弄するか!」
「して、してないです! してないですって! 聞いてください!」
「聞いておるぞ。ほれ、はように話せ。それともこうか?」
「痛でででででででッ! や、やめ、辞めろッ! やめろォ!」
全然人の話を聞く態度じゃねぇ! むしろ拷問で話を聞き出そうとしてるみたいだ。痛い。痛すぎる。肩がもげる!
「み、水を! 喉が渇いてらっしゃるようなので、水を!」
話を逸らさなくてはと、必死に叫んだ。もう頼むから痛いのは勘弁してくれ。
「自販機のッ! 自販機の水を!!!」
突如、肩の痛みがフッと軽くなり、体が落ちる感覚を覚えた。それから声を上げる間もなく、アスファルトの上に尻もちをつく。
「いててててて……し、死ぬ」
だが、やっと解放された。まじで痛かった。
「おい松本ヒロシ。うぬは妾に水を恵もうとしてくれていたのか?」
「は、はいそうです。どうも出会った時から水が飲みたくて仕方ないといったご様子でしたので」
「ふむ、よく見ておるな。偉いぞ、褒めてやる」
そりゃ自動販売機を殴りつけながら水を出せと叫んでいりゃ、何が望みかくらいかは分かるだろう。聞きたいのは、なぜ子供に集ろうとしたのかということだが。
まぁ、そんな事はどうでもいい。ようやくあの腕力から解放されたのだ。とりあえず、水を差し出したら逃げよう。あぁ、子供達も連れて逃げなくては.......。そう思いつつ周囲を見渡せば、いつの間にやら少年三人組は忽然と姿を消していた。
「くっそ、あいつら俺を餌に逃げやがった」
「何か言ったか?」
「いいえ何も!」
そんな満面の笑みで両掌をにぎにぎするな。怖すぎる。
「では、早速妾に恵むが良いぞ。ささ、水を今すぐ出して見せよ」
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