第54話、それは馬鹿って言った方がで。
「んで、マジでお前は何しにでてきた。まさかベニバナとを倒すためだけに出てきたのか? 違うだろ」
ため息混じりたんこぶを摩る。今朝から二度も頭を打った。滅茶苦茶痛い。しかもそんなドタバタを周囲の人に見られてしまったわけだ。未だに目線が痛いぞ。
「ママーけんかしてるー!」
「し、見ちゃダメよ」
「朝から騒がしいなぁ」
「全く、ゴミ捨て場の近くで遊ばれたんじゃ捨てにくいじゃないの」
「ママーグルグルしてー!」
「ママはまだ、お化粧の途中だからー」
まだ化粧してるのかあんたは。サフラワー倒したからもうええやろ。そんなに綺麗な化粧したいんか。
「気になる? ダーリン」
「あ? ま、まぁな。さすがにこんなに色んなところから変な目線向けられたら。嫌だろ、普通」
「あ、そっちじゃなくて」
「あ?」
「アタシがなんのために亜月ちゃんの体を借りて出てきたか、気になる?」
そっちか。そりゃ、まぁ。こいつ自身普段は佐藤亜月さんの裏側に住まい、あまり表には出て来ないはずだ。仮に頻繁に出てくるのなら、その魔力を探知してヒーロー協会に目をつけられる可能性だってある。
「気になる」
だから俺は素直に答えた。
「あはは♡ 気になるか!」
ガトーショコラはにんまりと笑みを浮かべて俺の隣に立つ。そのまま腕を組み、通学路に向かって歩を進めた。何故かデートデートと歌いながら。超絶ご機嫌だ。
「歩きながら教えてあげる♡」
そんなことを言っているが、彼女のカバンからステッキが飛び出して見えた。まだトランスを解除しているわけじゃない。ガトーショコラは、戦う準備を整えている。
「変な話だったらマジで許さねぇからな」
苛立ちを表情に浮かべはするも、抵抗はできない。トパーズの力を見せつけられたのだ、俺は。空間魔法はポジティブ発言で体温を一度上昇、ネガティブ発言で一度減少するもの。そして周囲の体温変化に合わせて瓶底メガネとステッキの色が変化し、扱う魔法も変わる。フォルムが変わるフォルムなんて見た事はないが、相当厄介な相手であることは間違いない。更に彼女は、俺に能力を見せてはくれたものの、特大魔法だけは見せていない。魔力は溜まっているだろうし、温存していると考えるのが妥当。何が目的なのか分からない今、下手に動くのは得策ではない。
「……変な話って…………もしかして、猥談? ダーリン、聞きたいの? アタシのあんな事やこんなこトォォォォオオオオオィ!?」
「ドリャァァァァァァァォッ!」
彼女の腕をしっかりと握りしめ、思いっきり投げ飛ばす。ガトーショコラは勢いに任せて電信柱に衝突した。
「だ、誰がお前のそんな話聞くかッ! ば、馬鹿じゃねぇの?」
「いたーーーいッ!」
「知るかッ! この馬鹿ッ!」
ガトーショコラは頬を膨らませて起き上がった。電信柱に軽いヒビが入っているにも関わらず、コイツ、無傷だ。なんで?
「馬鹿って言った方が馬鹿なんです! はい! ダーリンの方がばーか! 馬鹿馬鹿馬鹿の馬鹿ですー!」
「お前の方が馬鹿って言った回数多いね! ならお前の方が馬鹿ですぅ!」
「酷いッ! ダーリン最低! そんなんだからモテないんだぞ!」
グサッときた。コイツ、精神攻撃も得意としてるのか。胸が痛い。
「は、はぁ??? ますー! 超絶モテますぅ! この俺様鬼龍院刹那の美貌と優雅な立ち振る舞いに世の女性はメロメロですぅ!」
「んぉぉぉんッ! マドモァァゼヘェェルッ!」
ガトーショコラはその場で舌を巻く。
「真似してんじゃねぇ!!!」
我が究極の飛び蹴りを喰らえッ!
「きゃー、こわいー!」
棒読みじゃねぇか! とツッコミを入れるより先に、ガトーショコラのステッキが紫色の光を放つ。あっ、やばい。
──ドカンッ!
小さな爆発と共に舞うこの身。天地が逆さまになり、体は回転を続け。
──ゴチンッ!
また頭を打った。
「い、痛ぇ! 痛ぇわボケがッ! 手加減しろッ!」
さすがに痛くて涙が出てくる。
「ぷーくすす、あはは♡ ダーリン涙目かーわーいーいー♡」
「てめぇのせいやろがいッ!」
再び飛び蹴りッ!
「きゃー! こーわーいー♡」
彼女はすかさず右手を前に出した。どうせそれで俺の足を掴んで投げ飛ばすつもりだろう。同じ手は二度食わねぇ!
俺は空中で体に捻りを加える。飛び蹴りを回し蹴りに変更だ。真っ直ぐ伸ばした右足を推進力に、左足の甲がガトーショコラの顔側面を綺麗に捉えた。
心地よい音が響き、俺は空中に固定される。
「ダーリン、トランスしない方が強いんじゃない?」
彼女の右手が、俺の足をしっかりと掴んでいた。ダメージは、ゼロ。
と同時に体の力が抜け、俺は再び頭から落ちてゆく。
──ゴチンッ!
何度目だ。もう、脳細胞死にまくったぞ多分……。
「安心してダーリン♡ 超絶ダサダサセリフでも、涙目鼻水ジュルッジュルでも、アタシが愛してあげるから♡ いつ
地面で頭抱える俺の前に腰を下ろした彼女は、じっと俺を見つめて笑う。
「ずっと、愛してあげるね♡」
その言葉からは、何か得体の知れない重みを感じた。
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