第53話、それはDVDで。
「むっ!」
俺は、キザなセリフを吐こうとするガトーショコラに飛び掛った。目的はただ一つ。その閉じることを知らない口を塞いでやることだ。しかし、ガトーショコラは俺の行動を読んでいたかのように体勢を変えた。
「なにっ!?」
突然しゃがみ込んだガトーショコラ。その上を行く俺。彼女の背中に躓き、転びそうになった途端、彼女は俺の手を掴んで勢いに任せ投げ飛ばした。俺の視界が一瞬で回転し、天地が分からなくなる。
「っ!?」
気がつくと、俺は地面に仰向けの体制で倒れていた。その上でガトーショコラが手を差し伸べる。スカートが舞い、黒い下着がはっきりと目に映った。あぁ、リボンはピンクか。
ってか、それどころじゃない。
慌てふためいたもつかの間、彼女は腹から声を出す。声色を男に寄せ、低く深く発声する。まるで宝塚。
「おぉ、マドムァァゼェェェルルッ! 死んでしまうとはんんんんぬぁさけなぁぁあい!!! この俺様、鬼龍院刹那様がァァッん! てを差し伸ぉォォオぉおォォおオオオオおおォんっべてあげましょぉぉおうッ!」
キザを通り越してウザだ。
「って、やめろォォォォッ!」
慌てて飛び起きた俺の手を、またもヒラリと回避したガトーショコラは、何故か頬を赤らめて微笑む。
「んもう♡ ダーリンったら積極的♡ 朝から公衆の面前でアタシを襲おうだなんて♡」
「マジで変な濡れ衣着せようとすんな!」
飛びかかるも再び回避。
「そんな積極的なダーリン、大好きだぞ♡」
ウインク。いらない。キモイ。そんな表情で訴える俺を無視して、ガトーショコラは再び片手をそっと差し伸べて舌を巻く。
「君がこのおルルルルルルれ様のヒルルルルルルルルルルロインだァ。ガトーショコルルラ。その美しい瞳に……乾ッッッッッッッッッッッッッ杯♡」
「俺はァァァ」
赤面だ。
「そんなァァァァ」
だがそれよりも。
「事はァァァァァァァ」
この右拳を。
「言ってねェェェェェェェェェェェッ!」
「しまっ!」
「喰らえッ! サード・普通のパンチィィィィィィィィィィッ!」
俺の右ストレートがガトーショコラの額にヒット! 油断大敵、ガトーショコラは空中キリモミ回転トリプルアクセルゥ! 決まりましたッ! 鬼龍院刹那選手の懇親の右拳は、ガトーショコラ選手のおでこを真っ直ぐに捉えた模様! 額には穴が開き、体は極限に捻れ吹っ飛んで行ったァァァ! これこそが勧善懲悪、最強無敵、絶対勝利だァァァァ!
「
ガトーショコラは真っ赤になったおでこを必死に抑えながら立ち上がる。あぁ、どうやらさぞかし文句があるようだ。しかし、聞く耳を持つほど俺は優しくない。自業自得だガトーショコラ。
「お前が悪いんだバーカバーカ! 俺はそんな変なこと言わないですぅ!」
「嘘だもん! ダーリンは亜月ちゃん見た瞬間直ぐに鼻の下伸ばして鼻水垂らして変顔で出っ歯で鼻くそ丸見えの状態でキモイ事言うもん!」
「は、はぁ??? し、してねぇし! してねぇし! そんな変なことしてねぇし! ってかお前俺の事酷く言いすぎだろッ!」
さすがに泣くぞ。ってか、え? 俺佐藤亜月の前でそんなにキモイのか? え、もしかして普通にドン引きされてる? や、やば。
「ちなみにガトーショコラ、俺ってそんなに変な顔……なの?」
「うっそぴょんぴょん! え? 心配しちゃった? かーわーいーい! ダーリンはクールでイケメンだよ? 例えどんなに変顔してても、アタシだけが愛してあげ──」
「ライダーキィィィィッッッ!」
アスファルトの穴を打ち開けん程の強烈な飛び蹴り。
「あ、危なァァッ!」
「チッ、外したかッ!」
我が眼光、鋭く光て獲物を狙わんと欲す。
「ちょ、ダーリンタンマタンマ。危ないから。ってか顔怖いから!」
「うっ、うるせぇ! 変な真似してみろ! オリオンパンチするぞゴラァ!」
我、怒りにより理性崩壊す。
「牡羊座の能力使うぞゴラァ!」
おそらく既に発動中。なお、そんな金はない模様。
「ライダーァァァァァァッ」
「ダーリン、それ日曜の朝にやってるやつだからッ! 著作権とか色々ヤバいやつだから! ストップ、ストォォオオ──」
「キィィィィィイイイイック」
空中三回転からの真っ直ぐな蹴り。推進力はやる気。火力は怒り。そして漲る根性ッ! あとは野となれ死に晒せッ! ガトーショコラ、やはりお前はここで始末してやる!
と、俺の懇親の蹴りを、彼女は片手で受け止め捻って投げ捨てた。突如接近するアスファルト。脳裏に響く打撃音。広がる痛み、狭まる視界。
痛い……。
「うわぁぁぁん! DVだ! DVDだ!」
突然、ガトーショコラが泣き出した。いや、泣きたいのは俺の方。二回も地面に投げ飛ばされたんだけど、ダメージ受けてるの俺の方なんだけど。え、なんでお前が泣いてるの? 俺、たんこぶ出来たんだけど。痛いんだけど。めっちゃ痛いんだけど。
「うわぁぁぁぁぁぁ! ダーリンのせいでちょっと手首痛めたぁぁぁ! DVDだァァァ!」
ちょっと痛めた程度で泣いてんじゃねぇよ! ってか。
「うるせぇ! 近所迷惑だろがい! ってかDVDってなんやねん!」
「DVDだもん、DVDだもん! ダーリンDVDだもん!」
「だからDVDってなんやねん! 俺円盤じゃねぇよ!」
「ドメスティック・バイオレンス・ダーリン?」
なんで疑問形なんだよ。
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