第52話、それはダーリンのモノマネで。
「ダーリンのモノマネだもん! ダーリンはいっつも変に格好つけようとするじゃない? そういうのが好きなのかなーと思ってやってみただけだもん!」
「は、はぁ??? か、格好つけてねぇしぃ! そもそも、いつもってなんだよ! あ、曖昧なんだよ! 曖昧模糊のもこもこだわ! 俺が格好つけたのはいつの話だよ。答えろよ、何時何分何秒地球が何回回った時ですか! あぁ???」
「待ってね、計算するから」
「いやするなよ!」
「えー!」
ガトーショコラはまたも頬を膨らませてブーブーと不貞腐れる。
「アタシはただ、ダーリンに気に入って欲しいなーって思っただけなんだもん!」
「だ、だからって結界を消した後、ご近所さんの目の前ですることは無いだろ!」
せめて結界内とかだったらまだ許容できるが。さすがにご近所さんに白い目で見られるのは苦痛だ。ほら見ろ、さっき
「ダーリンのモノマネしただけだもん。普段から変なことしてるダーリンのせいだもん……うぅっ!」
俺に濡れ衣を着せようとするなっ! ってか泣くなっ!
「ダーリンの真似だもん! モノマネだもん! そっくりだもん! 超絶そっくりさんだもん! 賞金貰えるレベルだもん!」
彼女は年齢に相反してじたばたと動き回る。まるで大きな幼稚園児だ。ってか賞金ってなんだよ。誰が払うんだよ。
「クリソツビーム出せるもん! クリソツビームってするもん! アタシのクリソツレベルにダーリンもベタ惚れするもん!」
「なんだよクリソツビームって! くっそダサ! あーあー、分かったよ。見せてみろよクリソツビーム。ほらほら、出してみろよッ!」
なんだよクリソツビームって。クソダサビームの間違いだろ。
「ビーーーーム!」
突如彼女のステッキから紫色の光が溢れ出し、空高くで爆発した。
「ってお前それトパーズの魔法じゃねぇかッ!!!」
てかトランス解除してなかったのかよ!
「違いますー! クリソツビームですぅ! ダーリンは馬鹿だから違いがわからないんですぅー!」
うっわなんかコイツムカつく。
「ママー、花火?」
「なにか音がしたわね?」
「なんだなんだ?」
「お祭り? 平日の朝から?」
「おっ、喧嘩か喧嘩か?」
「朝からお熱いねぇ!」
「ドッカーンもう一回してー!」
ガトーショコラのクソクソビームのせいで無駄に観客が集まってきた。
「ど、どうすんだよ。お前のせいでめっちゃ人が集まってきたじゃないかッ!」
「……」
「おいガトーショコラッ! 言っとくけどお前かなり目立ってるからな? これ収拾つかないぞ、どうするんだよ! だいたいお前があの時結界を解除しなければこんな事にはならなかったってのに!」
「ふっふっふ♡」
「……? なんだよ、お前マジで最悪だぞ。どうすんだよ」
「あはは♡ あはは♡ あっはっはァァァ♡ よくぞ聞いたな我が愛しの勇者よ! アタシこそが諸悪の根源にして巨悪の権化! ガトーショコラ様だァァァァ!」
「やめろォォォォォッ!」
俺の右ストレートが顔面に命中! セカンド普通のパンチィィィィィイイイ!
「おっ、喧嘩か?」
「なんだなんだ?」
「朝から騒々しいわね」
「ママーあれかっこいい!」
「しっ、見ちゃダメです」
「朝からイチャついてんねぇ!」
「うっわ、引くわ」
ガヤがうるせぇ。ってか。
「辞めろって言ったのになんで辞めねぇんだよ!」
「だからダーリンのモノマネなんだってばぁ……。ダーリンこういうの好きでしょ? アタシはダーリンに愛されたーいの♡ だからダーリンの好きな事なんだってやってあげるよ♡」
「は、はぁ? す、好きじゃないし! そんなクソダサムーブして欲しくないしッ! つかむしろこっちは迷惑してるっての! めっちゃ恥ずかしいだろうが!」
「えー! だからダーリンのモノマネなんだってばぁ! 恥ずかしいのはダーリンの方だぞ♡」
「は、はぁ??? お、俺そんな変な言い方してないし! 俺はもっとクールビズだし!」
ガトーショコラは、クールビズ? と一瞬首を傾げたが、それから慌てて手をばたつかせる。
「してるもん! めっちゃ変にカッコつけてるもん!」
「変!?!?」
思わぬダメージ。変にカッコつけてる? この俺が? 超絶クールガイでクールビズでクール便な鬼龍院刹那様が、変にカッコつけてるだと!?
「へ、変じゃないしっ、イケメンだしっ! お、お前の自己紹介が変だしっ!」
「ダーリンの方が変だもん! アタシは真似しただけだもん! ダーリン超絶変態だもん!」
「グサァッ!」
と、ダメージを顕にしている俺を睨みつけて、ガトーショコラはバサバサの黒髪を左右にブンブンと振る。変だ変だと言いながら必死になって地団駄を踏む。それから突然表情を作り替え、どこか遠くを見つめたまま片腕を蝶の羽ばたきに似た優雅な動きで広げた。
まるで舞台役者だ。掌は空を優雅に掴む
「マドモアゼェル、今宵はこの俺、鬼龍院刹那が貴方様を──」
「ダァァァァァァァァ! ヤメロォォォォォォォォォォオオオオオオオオ!」
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