第912話 さよなら、エリーヌちゃん!
ユキノは大粒の涙を流していた。
アルとネロたちと、エリーヌのお別れ会をしていたが、エリーヌと別れたくないユキノは、最後までエリーヌが
ユキノの気持ちが分かるエリーヌも悲しそうな表情を浮かべるので、その光景を見ながら胸が締め付けられる思いだった。
「ユキノよ。お主が、そんなに泣いておっては、こやつも旅立ちにくいじゃろう」
アルが俺の気持ちを察したようだ。
見た目は小学生で子供っぽいときもあるが、こういった心遣いが出来るのは、やはり年長者なのだと感じる。
ユキノもアルの言葉で、エリーヌが気持ちよく戻れないのは本意では無いと感じたのか、涙を拭う。
「そうですね。母親である私が、しっかりしないと」
最後まで、エリーヌの母親として送り出す決意をしたようだ。
それからのユキノは終始、笑顔だった。
ただ……その笑顔は、とても悲しく俺の目には映っていた。
笑顔でエリーヌを送り出す。
それが、俺たちがエリーヌに出来ることだったからだ。
エリーヌは、アルとネロにも最後に話があると伝えて、それぞれエリーヌと二人っきりで話をすることとなった。
アルとネロとの話を終えると、ユキノが呼ばれた訳でも無いのに、何も言わずに入れ替わりに別の部屋に行くため、俺たちがいる部屋を出て行った。
「あの女神は変わっておるの」
「何がだ?」
「神らしくないということじゃ」
「たしかにそうだな」
アルとの会話が続かなかった。
なにか俺に言いたいことがあるような気もしたが、アルは何も言わなかった。
ネロも視線は合うのだが、不自然に視線を外される。
多分、エリーヌから俺に関する何かを言われたのだろう。
時間にして、三十分ほど経った頃、ユキノと手を繋ぎながらエリーヌが部屋に戻ってきた。
「お主は、よいのか?」
「あぁ、俺はいつでも話ができるからな」
「たしかに、そうじゃな」
アルは俺だけ、エリーヌと二人っきりの話し合いが無いことに気付いたようだ。
「もう、時間かの……」
「そうだな」
アルの【魔眼】と、俺の【神眼】でエリーヌの寿命を見ると、ゲージはほとんど残っていない。
エリーヌ自身も分かっているようで、ユキノと繋いでいた手を外す。
「みんな、楽しかったよ。自分で
そう話すエリーヌは満面の笑みだった。
「私は、みんなの前から居なくなっちゃうけど、いつでも
必死で堪えていた涙が頬を伝う。
エリーヌは、自分の理想としている世界を具体的に口にしないでいる。
おそらくだが、
「アルにネロ……タクトのことを宜しくね」
「任せておくのじゃ!」
「心配無用なの~‼」
まるで俺が問題児であるかのような発言をするエリーヌと、それを否定せずに承諾するアルとネロ。
仲の良かった三人のやり取りだと思い、俺は何も言わずにスルーして、大人の対応をする。
エリーヌがアルとネロの所まで歩いていくと、三人は目を合わせる。
拳を出すと三人の拳が昔遊んだ”げんこつ山のたぬきさん”の手遊びのように、上下に打ち合わせている。
俺の知らない間に三人の遊びか、結束の意味を込めた動作のようなものなのだろう。
エリーヌが居なくなったら俺も、この動作をやらされるのだろうと感じていた。
最後は一歩下がって、三人は拳をぶつける。
「妾たちは離れておっても仲間じゃ」
「そうなの~」
エリーヌにアル、ネロの三人最後の動作なのだろう。
「「「おーーーー」」」
三人は叫ぶと、ぶつけた拳を上に向けた。
エリーヌはアルとネロを見ると、元居たユキノの隣へと無言で戻った。
「……エリーヌちゃん⁈」
エリーヌの体から、小さな金色の光が無数に飛び出す。
「そろそろ、時間のようだね」
自分の体から出る光をゆっくり見ながら、
「アルにネロ。また、会える時が来たら……ね」
「おぅ、又なのじゃ!」
「エリーヌ、またなの~‼」
エリーヌは最初に、アルとネロの二人に別れの言葉を告げた。
アルとネロは軽い感じで言葉を返す。
俺と視線が合うと、お互いに少しだけ笑う。
これくらいで、ちょうどいい感じだ。
「じゃあね。ママ」
「エリーヌちゃん……」
ユキノはエリーヌを抱きしめる。
抱きしめられたエリーヌもユキノを抱きしめ返した。
その間も、エリーヌの体から光は出続けて、徐々にエリーヌの姿が透けてきた。
ユキノとエリーヌはそのまま、会話をすることなく抱きしめあったままだった。
そして、エリーヌの姿が俺たちの目の前から消えた――。
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