第906話 朗らかな笑顔!

 椅子に座った俺たちは、ルーカスたちにユキノの悪ふざけについての誤解を解く。

 まず、エリーヌは俺の知り合いから預かっているだけで、俺とユキノの子では無いこと。

 そして、俺たちといる間だけ家族を演じている。

 俺の説明にユキノは少し不満そうだった。


「そういうことか。寿命が縮まったぞ」

「まぁ、そんなこと言わずに。私たちもエリーヌちゃんの祖父母として接してあげましょう」


 イースは楽しそうに、ユキノ同様に疑似家族を楽しんでいるようだった。

 エリーヌもイースに上手く取り入ったのか、イースに呼ばれて膝の上に座り、口一杯に菓子を頬張っていた。

 イースも、そんなエリーヌを嬉しそうに見ている。

 さすが母娘だけあって、よく似ている。

 ユキノはイースの性格を遺伝してたのだと思いながら、その光景を見ていた。


 ルーカスにアスランは、まだ困惑しているようだ。

 ヤヨイは現実を受け入れることにしたのか、ユキノたちと楽しそうに話をしていた。


「まぁ、いずれ本当の孫を見れる日が来るのだから、予行練習だと思えば良いか……」


 ルーカスもヤヨイ同様に、時間は掛かったがエリーヌを受け入れることに納得をしたようだった。

 それからは、エリーヌを中心に話が進んでいく。

 孫に会えて喜ぶ祖父母に、それを見守る両親たち大人。

 久しぶりに帰省した親族の雰囲気は、こんな感じなのだろう。

 言い方は悪いが、俺だけ部外者な感じがするのは仕方がない。

 しかし、エリーヌの周りでルーカスやイースたちが、満面の笑みを浮かべたり、アスランやヤヨイが戸惑う姿を見たりできるのは、心が温まる感じがした。

 この小さな空間に、エリーヌが目指していた世界の一部が詰まっているのかも知れない。


「どうかされましたか?」


 一人だけ会話の輪に入らない俺を心配して、ユキノが声を掛けてくれた。


「いや……皆、いい笑顔をするなと思って、見ていただけだ」

「そうですね。久しぶりに御父様や御母様の、あのような笑顔を見ることが出来ました。それに御兄様のあの慌てようも、普段では決して見られないですわ」


 ユキノは嬉しそうに話す。


「でも、この時間が永遠に続くわけでは無いのですよね……」


 寂しそうに呟いた。


「永遠なんてものは無いからな。今、この瞬間を後悔しないようにしないとな」

「そうですね」


 俺は意地悪な言葉を選んでしまったと、少し後悔をする。

 ユキノ自身、自分の体の異変には気付いているからだ。

 痛みが談話されているかと思うと、本当にアルには感謝しかない。

 ネロもそうだが、師匠と慕ってくれている二人に俺は何を残してやれるだろう……。

 最近、そんなことを考えることが多くなっている。

 まぁ、師匠らしいことは元々、何もしていないのだが――。


 エリーヌに目を向けると、ルーカスを「じぃじ」、イースを「ばぁば」と呼んでいる。

 呼ばれたルーカスやエリーヌは、顔が緩みっぱなしだった。

 それを見ていたアスランやヤヨイも、同じように朗らかな笑顔だった。

 エリーヌの周りを幸せにする能力は、神だからなのだろうか?

 それよりも俺はエリーヌといても、幸せな感情にならないのは何故なのだろうか?

 神と使徒の関係があるのかも知れないが、俺がエリーヌの本性を知っていることが一番大きいのだろう。

 そう考えるとエリーヌに騙されていると感じてしまい、ルーカスやイースが可哀そうにも感じる。

 しかしすぐに、ルーカスやイースの表情を見ていると、騙されても幸せならいいのかなとも感じる。

 結局、エリーヌが来てから、俺たちはエリーヌに翻弄されていることには間違いない。

 本来の目的を忘れたかのように、和やかな時間が経過していく――。


 歴代の王たちを祭る場所で、先代国王に各々の思いを伝える。

 俺自身、会ったことないが、ユキノの祖父ということもあり感謝する。


 俺が目を開けると、俺が最初に目を開けたようだったので、もう一度誰にも気づかれないように、目を瞑る。

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