第873話 ルグーレの現状―12!
朝、アスランとユキノから連絡があったので、迎えに行く。
俺から行くわけにもいかないと思い、連絡を待っていた。
領主の館には、ハーベルトの家族と家臣数名が俺を待っていた。
ハーベルトたちは、既にルグーレの周囲の道が整地されていたことの報告を受けていたようだった。
アスランとユキノは、整地をしたのは俺だと、ハーベルトに自信を持って発言したそうだ。
ハーベルトから、真偽を確認されるので、素直に「俺がやった」と答える。
普通に考えて一晩で終える作業ではないので、信じられない顔をする。
アスランとユキノの変わらない表情を見て、俺の発言が嘘では無いことを確信したようだ。
改めてハーベルトから礼を言われる。
これで、商品の流通も徐々に復活していくだろう。
今よりは、少しだけだがマシな状態になるのだと思う。
暫くは凌げる食料もある。
ここからは、領主であるハーベルトの仕事だろう。
なにより、町の人たちが一日も早く元の生活に戻ろうとする意志が大事だが、町を見ていたが問題はないと、俺は思っている。
俺はハーベルトに頼みごとをする。
領主の館の一部屋を一日だけ借りたい。
そして、その部屋には扉を一つ設置したいと――。
当然だがハーベルトから理由を聞かれる
孤児たちと、その面倒を見てくれる人たちをジークにある四葉孤児院で引き取るので、孤児たちが訪ねてきたら部屋に通して欲しいということを伝える。
その時は、四葉商会代表であるマリーも同行している。
マリーたちが部屋に入ったら、一時間後に衛兵たちに入室して貰い、設置した扉を破壊して欲しいと説明する。
ハーベルトは俺の話している内容が理解出来ない。
それになんの意味があるのか? と感じたのだろう。
そして、孤児たちは――。
転移扉のことは、一般公開していない秘密事項なので俺から話すのも気が引けた。
アスランも、その事は理解しているようだった。
「私から御話しをしても、よろしいですか?」
アスランの申し出に俺は頷く。
俺が設置すると言った扉は、転移扉だと最初に話す。
ハーベルトたちは「転移扉?」と、聞きなれない単語に戸惑っていた。
アスランは転移扉がなにかを説明する。
扉と扉が繋がっており、どれだけ離れた距離でも一瞬で移動が可能な扉だと言うと、ハーベルトよりも家臣たちが先に驚いた。
もちろん、国家秘密事項であるため、一般公開はしていない。
その国家秘密事項である転移扉を、いち冒険者である俺が勝手に使用することに問題定義する家臣に対して、アスランは俺が開発したということを伝える。
俺が四葉商会の元代表で、転移扉は王都魔法研究所と四葉商会の共同開発で誕生したもの。
そのため、俺は特例として使用を許可されていることや、今回の孤児の件は自分やユキノも了承しているので問題ないと、冷静に説明をしていた。
訴えた家臣は、問題になり自分たちが処分されないかと心配をしていたようだった。
アスランの説明で納得したのか、安堵のため息をついていた。
ちなみに、マリーのルグーレの移動にはクロを頼むことにした。
俺に連絡があれば、クロをマリーの所へ向かわせる。
この転移扉での移動は昨夜、思いついたのだ。
俺の転移や、クロの影よりも移動した実感を得られやすいと思った。
自分たちがルグーレからジークに移動したことが分からないと、今後の生活でも問題が起きると俺は感じたからだ。
とりあえず、この問題は一段落した――。
アスランとユキノが、ハーベルトや妻のマドリーンに別れの言葉をかけていた。
続けて子供のリリアンとパトリックとも言葉を交わす。
最後にはハーベルトの家臣たちにも、労いの言葉を口にしていた。
俺はその様子を見ながら、ハーベルトのことがあったから……と言ったアスランやユキノの言葉を思い出す。
アスランとユキノの人格構成に多大な影響を与えたルグーレ領主のハーベルト。
彼も尊敬できる人物の一人だった。
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