第861話 お手伝い―4!

「終わったぞ」


 俺はコンテツに作業終了を報告する。


「あぁ……。凄いな、あれは妖精か?」

「いいや、精霊――地精霊ノームになる」

「精霊だと‼ じゃあ、王都を魔物たちの襲撃から守った時に見ていたのは……」

「あぁ、水精霊ウンディーネ風精霊シルフに助けてもらった」

「助けてもらったって……簡単に口にすることじゃないけどな」

「まぁ、縁あって精霊たちと出会えただけだ」

「縁あってというが、普通は生涯かけても精霊を見ることなんてないんだがな」


 地精霊ノームのノッチを見たことで、コンテツは頭の中を整理しているようだ。


「ありがとうね」


 モエギがセイランが歩きながら、俺に礼を言う。

 何年もかかる整地作業を一瞬で終わらせたからだろう。


「まぁ、俺が魔物行進モンスターパレードを事前に止められなかったから、これくらいはな……」

「それはタクトのせいじゃないだろうに、タクトは謙虚だね」

「まぁ、俺は平民の味方だからな」

「それは私たちも同じだよ。貴族たちは、あまり好かないからね」

「まぁ、貴族全てじゃないけどな」

「そうね。タクトとは気が合うわね」

「そりゃ、ムラサキと気が合う俺だから、両親とも気が合う確率の方が高いだろう?」

「ふふふ、それは面白いわね」


 モエギは俺の話に笑っていた。


「それで、これからどうするんだ?」


 コンテツとモエギに尋ねる。


「今からルグーレに戻って、ギルドへの報告と、領主であるのハーベルト様にも報告するつもりだ」

「領主にも?」

「あぁ、クエスト受注時に作業を終えたら、状況を教えて欲しいと言われた」

「そういうことか……」


 俺はコンテツとモエギを、シキブの村に送らなければならない。

 それとは別に、アスランとユキノを領主に会わせる予定と、マリーたちとルグーレへの復興活動をするつもりだ。

 一番、効率の良い方法を探す。

 コンテツとモエギは、早かれ遅かれ俺の【転移】が知られる。

 他の冒険者たちをどうするかだ――。


「ちょっと、いいか?」

「どうした?」

「コンテツとモエギは、俺がルグーレまで送る。他の冒険者たちは後から、ゆっくりとルグーレに向かってもらうことはできるか?」

「ん~、できないことはないが――」

「なにか問題事でもあるのか?」

「簡単にいえば、食料問題だな。この辺りに動物などは逃げてしまったのか、ほとんど生息していない。今も持って来た食料が少しあるだけだ。今、ルグーレに数人が買い出しに戻っている状況だ」

「分かった――」


 俺は【アイテムボックス】から、食料と水を取り出す。


「これだけあれば足りるか?」

「あぁ、十分だが……支払える通貨がないぞ?」

「気にするな。復興用にと用意していたものだ」

「そういうことなら、ありがたくいただくが……買い出し班と、入れ違いにならないか心配だな」

「それは大丈夫よ。私から買い出し班へ連絡しておくわ」


 コンテツは、作業員いや、冒険者たちに事情を話して了承を得る。

 ギルドに戻れば、各々に報酬が貰える手続きもギルドでするそうだ。


 俺とコンテツ、モエギとセイランの四人は、先にルグーレへと戻るため、トゥラァヂャ村を出発する。


 出発して数分後にコンテツが話し掛けてきた。


「この速度でいいのか? ルグーレへの到着を急ぐなら、もっと早く歩いた方がいいだろう?」

「父さん、大丈夫よ。ねっ、タクト」

「まぁな」


 俺はコンテツとモエギに、【転移】のスキルが使えることを話す。


「それなら、一瞬だろう」

「これで、セイランがムラサキに会ったのに、トゥラァヂャ村まで来た日数が早かったのも納得できるわ」

「まぁ、知られると面倒なスキルだから、秘密にしておきたいということだな」

「大丈夫よ。私たちは口が堅いから」


 二人とも理解が早くて助かる。

 ムラサキの両親ということで、口の堅さには少し心配しているが……。


「ちょっと、待ってもらえるかしら。先に買い出しの人たちに連絡しておくわ」


 モエギは買い出し班の冒険者と連絡を取る。

 会話をしているモエギが、途中で笑っていた。

 笑うような話でもあるのだろうか?


「それじゃあ」


 モエギは、買い出し班の冒険者との連絡を終えた。


「なにか面白いことでもあったのか?」

「面白くはないけど、歩いている途中に地面が揺れたと思ったら、綺麗な道になっていたので、今でも夢だと思っているようだったわ」

「あぁ、そういうことか」


 俺は納得すると、トゥラァヂャ村は全壊していないと聞いた覚えがあったので、そのことについてコンテツに質問をしてみた。


「家などは、全壊はしていない。ただ、住めるような状況でもなかったし、生存者もいなかった……情報自体が間違っている」


 コンテツは悔しそうに話す。

 情報操作をしたわけではないだろうが、リアルタイムで情報が更新されるわけではないので、情報自体が古いこともある。


 

「タクトの二つ名は、無職無双だよな?」

「――俺としては不本意だが、そのようだ」

「まさにその通りだな――。それと、ユキノ様の婚約者だというのも本当なのか?」

「あぁ、本当だ」

「なるほどね。タクトの人柄を見ていると、ユキノ様が今の地位を捨ててまで一緒になろうという気持ちも分からなくはないわね」


 俺はモエギの言っている意味が、少しだけ分からなかった。

 しかし、セイランも頷いていたので、女性にしか分からないのかも知れない。


 俺は【転移】を使い、コンテツたちを連れてルグーレへと移動した。

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